『キングダム 風の部族の少女、戦場を射抜く』   作:あきと。

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第三章 蛇甘平原編
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王都・咸陽での内紛鎮圧後。

風藍隊は再び戦場へと戻っていた。

 

各地を転戦し、遊撃、奇襲、援護。その全てで着実に戦果を積み重ねていく。

小隊規模ながらも戦場を動かす特殊三百人隊。

その名は、秦軍内だけでなく近隣国前線でも徐々に知られ始めていた。

 

風藍隊。若き女三百人将が率いる異色の部隊だと。

 

そして今。およそ一月にも及ぶ待機命令を受けた風藍隊は、陣地で練兵を行っていた。

 

「そこ! 動きが鈍いぞ!」

 

「陣形崩すな! 横との間隔を保て!」

 

怒声が飛ぶ。

 

砂埃の舞う訓練場では、騎馬兵達が地上戦を想定した陣形訓練を繰り返していた。

 

騎馬戦を得意とする風藍隊だが、山林地帯や城攻めでの戦も想定し、近頃は歩兵戦への対応も求められている。

隊として、更なる成長が必要だった。

 

「止まるな! 次列、前へ!」

 

指揮を執るのは、剣を携えた青年。

鋭い目つきに、整った顔立ち。

風藍隊新任の什長、周輝(しゅうき)だ。

 

龍炎が騎馬隊より引き抜いた精鋭の一人で風藍とも歳は近く、期待の兵士である。

 

「什長、後列が遅れてます!」

 

「分かってる。いいか二列目、踏み込みを合わせろ! 一人でも乱れれば陣が死ぬぞ!」

 

兵達が慌てて動きを修正する。

その様子を離れた場所から見ていた龍炎が、小さく笑った。

 

「厳しい奴ですね周輝は」

 

物怖じせずに、自身の兵たちに指示を出す周輝の姿に風藍も感心する。

 

「うん。でも、さすがだね。みんなの動きが良くなってるよ」

 

風藍は弓を手に答える。

 

「周輝は細かいところまでちゃんと見てくれるから。そういう指揮官がいてくれるのは心強いよ。私と歳も変わらないしね」

 

「ははっ、本人はあまり褒められ慣れておりませんから、今の言葉を聞いたらきっと顔が真っ赤になりますよ」

 

「ふふっ、そうなんだ」

 

その時。

 

「あ、風藍様」

 

周輝がこちらへ気付き、歩いてくる。

 

「ごめん。邪魔したね」

 

「いいえ、我らもそろそろ切り上げます。この場所は弓兵の練兵に使ってください」

 

「ありがとう。じゃあ、私たちも始めようか」

 

風藍は弓兵達の前へ出る。

 

「「は!」」

 

並べられた的に、張り詰める空気。

風藍は静かに矢を番えた。

 

「――ふっ!」

 

放たれた矢が風を裂く。

次の瞬間。

 

ドスッ――!

 

矢は見事、的の中心を射抜いた。

続けざまに二射、三射。

 

全てが中央へ突き刺さる。

 

「おお……!」

 

「さすがは風藍様!」

 

「百発百中ですな!」

 

周囲の兵達から感嘆の声が漏れる。

周輝も僅かに目を見開いていた。

 

「……何度見ても、見事ですね」

 

「ありがとう。でもまだまだだよ」

 

風藍は次の矢を手に取る。

 

「止まってる的にいくら当てれても、実戦で当てられないと意味ないしね」

 

「それはそうですが、実際風藍様が戦場で外しているところなど見たことありませんよ」

 

周輝の言葉に、周囲の兵も頷く。

 

「風藍様の矢で何度助かったか……」

 

「敵将を射抜いた時は痺れましたよ!」

 

「あはは……」

 

風藍は少し困ったように笑った。

 

「ありがとう。でも、私が目指してるのは中華十弓だから。まだ全然だよ」

 

「中華十弓……」

 

周輝が呟く。

 

その名は、中華全土に名を轟かせる弓の名手に怪物達。

弓兵であれば誰もが知る存在だった。

 

「そういえば、実際に戦場で遭遇したことは、まだありませんね」

 

「秦国にも、今は十弓に名を連ねている武将はおりませんからな」

 

龍炎が腕を組む。

風藍は少し空を見上げた。

 

「昔、お祖父様から聞いたことがあるんだ」

 

「?」

 

「蒼源様っていう人が、昔は秦国唯一の十弓だったって」

 

「蒼源……」

 

「龍炎、知ってるの?」

 

「いえ。でも名だけは聞いた事があります。かなりの腕前だったと」

 

「でも、もう亡くなってるみたい」

 

風藍は静かに弓を握る。

 

「だからかな。余計に思うんだ」

 

「……?」

 

「私も絶対に名を残したいって」

 

その目には、強い光が宿っていた。

ただの理想ではない。本気で掴みにいく者の目。

 

周輝はその横顔を見つめる。

若い。だが、この少女には人を前へ進ませる力がある。

 

「みんなも頑張ってね」

 

「「はっ!!」」

 

兵達が力強く応える。

 

その時だった。

 

「風藍様ー!」

 

一人の伝令兵が馬を飛ばし、陣へ駆け込んできた。

 

兵達の空気が変わる。

風藍も表情を引き締めた。

 

「どうしたの?」

 

「軍本営から伝令が!」

 

「もしかして、援軍要請?」

 

「はい! 現在、秦と魏の国境の地である『滎陽』を巡る争いが激化したとの報告が!」

 

「滎陽……」

 

風藍の表情が変わる。

 

滎陽。

黄河沿いに位置する、魏国の玄関口。

 

秦にとっても、魏にとっても最重要拠点の一つ。

ここを巡る戦は、常に大戦へ発展する。

 

「魏国は後方より三軍を集結。秦国も各地域の軍を結集し、滎陽へ向かうよう命が下りました!」

 

兵たちが目を細める。

 

「各軍が動くほどの規模か……」

 

「風藍様、これは」

 

龍炎が低く言う。

風藍は静かに息を吐いた。

 

「うん。魏国との大きな戦が始まる」

 

咸陽での内乱を除けば。

風藍隊が経験してきたのは中規模戦まで。

 

だが今回は違う。

国家同士が真正面から激突する大戦。

 

そこへ、風藍隊にも出陣命令が下ったのだ。

周囲の兵達にも緊張が走る。

 

だが、風藍は前を向いた。

 

「よし、すぐ準備するよ」

 

その声に迷いはない。

 

「練兵を行っている兵達を集めて!」

 

「「はっ!!」」

 

兵達が動き出す。

 

その中で、周輝は静かに風藍へ視線を向けた。

 

「風藍様」

 

「ん?」

 

「俺も、必ず貴方を支えます」

 

真っ直ぐな言葉。

風藍は少し驚き、それから笑った。

 

「うん。期待してるよ、周輝」

 

その言葉に。

周輝は静かに拳を握り締めた。

 

そして。

 

風藍隊は、後に蛇甘平原と呼ばれる、巨大な戦場へ向かうことになる。

 





【登場人物紹介】
・風藍(ふうらん)

【挿絵表示】

三百人将。秦国独立遊軍「風藍隊」隊長。
風の部族現族長・風羅の孫娘。若くして三百人将となり、自ら育て上げた弓兵百騎を率いて戦場を駆ける弓の名手。

冷静な判断力と柔軟な発想を武器に、常識に囚われない戦術で幾度も戦局を覆してきた。王都咸陽での反乱鎮圧では王宮突入という大功を挙げ、その名は秦軍内でも広まり始めている。

将来は中華十弓に名を連ねることを目標としており、その若さから”風の再来“と噂される期待の将。


・龍炎(りゅうえん)
風藍隊副長。龍炎騎馬隊隊長。
風藍の側近であり、最も信頼を寄せる右腕。百騎からなる騎馬隊を率い、槍一本で敵陣を切り裂く武の達人。

元龍族族長の一人息子であり、現在は龍族族長代理を務める。かつて風羅軍では若くして千人将まで昇り詰めたが、風藍を支えるため自らその地位を返上し風藍隊へ加わった。

戦場では常に冷静沈着。風藍の意図を誰よりも早く理解し、即座に実行へ移す参謀としての一面も持つ。遠距離戦を得意とする風藍と、近接戦を得意とする龍炎は互いの弱点を補い合い、風藍隊最大の武器となっている。


・周輝(しゅうき)
風藍隊什長。龍炎騎馬隊所属。
新たに風藍隊へ加わった若き剣士。顔の見える兜を身に着け、剣を武器として最前線を駆ける。

真面目で努力家な性格だが、一度戦場へ出れば大胆な判断と果敢な攻めを見せる。龍炎の下で騎馬戦を学びながら経験を積み重ねており、その才能は隊内でも高く評価されている。

まだ若いながら将来を期待される風藍隊期待の新星。

【挿絵表示】


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