『キングダム 風の部族の少女、戦場を射抜く』   作:あきと。

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「さすがは龍の一族だ。回復が早いな」

 

龍炎の案内で龍の一族の里へと向かう風藍たち一行。

風羅軍の兵は騎馬しているが、龍の一族の者たちは馬を使わず、自らの足で地を駆けていた。

 

それでも、その走りはまったく衰えない。

 

「あ、あの!」

 

「なんだ?」

 

恐る恐る口を開いた龍炎に、風羅が振り向く。

 

「あなた方のお名前を……まだ、きちんと聞いておりませんでした」

 

「そういえばそうだったな」

 

風羅は豪快に笑った。

 

「儂は風の部族族長、風羅。そして、この娘が儂の孫、風藍だ」

 

「風羅……様。それに、風藍様」

 

龍炎は先ほどまでの態度とは打って変わり、深く頭を下げる。

 

「ははっ。龍の一族の青年、お前、若いが見込みがあるな。馬の扱いもなかなかだ」

 

風羅の言いつけ通り、龍炎は騎馬し、その前に風藍を座らせていた。

 

「よろしくお願いしますね。龍炎さん!」

 

「はっ!」

 

龍炎は馬上で拳を合わせ、拝手した。

 

「風藍様。私に敬称は不要です。私は貴方様に命を預けております」

 

「そんな、大袈裟な……」

 

「いや、そうでもないぞ。藍」

 

隣を駆ける風羅が言う。

 

「おじい様」

 

「主君というものはそういうものだ。ここにいる兵たちも皆、仲間であると同時に儂の家臣でもある」

 

風羅は静かに続けた。

 

「お前がこれから歩む道を考えるなら、今から慣れておくことだ」

 

「……はい!」

 

「洹治」

 

「は!」

 

「騎馬十騎を率いて風藍を守れ」

 

「承りました!」

 

側近の一人がすぐさま兵を引き連れる。

風羅は視線を龍炎へ向けた。

 

「龍炎、敵の情報を分かる限りでいい。話せ」

 

「はい。俺たちを襲ったのは、虎の部族です」

 

「虎の部族? 聞かぬ名だな」

 

「近年、力をつけてきた一族です」

 

「数は」

 

「およそ一千。こちらは……五百ほど」

 

倍の戦力差だった。

龍炎は悔しげに続ける。

 

「あいつら、元々は小さな部族でした。だが子供が増え……今ではその子らも兵として戦場に出ている。数で押され、俺の父親も……」

 

「なるほどな」

 

風羅は顎を撫でる。

 

「ならば個の武力はお前たちが上ということか」

 

「……はい」

 

「しかし殿。我らも騎馬とはいえ三百ほどですぞ」

 

側近が口を挟む。

だが風羅は笑った。

 

「問題ない。全員を倒す必要はないからな」

 

風藍が続ける。

 

「敵に大きな打撃を与え、怯ませて退却させる……ということですか。おじい様」

 

「ふははっ。よく分かっているな、藍」

 

そのやり取りを聞き、龍炎は目を見開いていた。

 

彼女はまだ幼い子供。

だが、その理解は将のそれだった。

 

「……風藍様は、戦場に出たいのですか?」

 

「はい!」

 

迷いのない返事だった。

 

「私は秦国の兵として、戦場を駆け、中華十弓に名を連ねる事が私の目標です」

 

「中華……十弓」

 

「はははっ! 大した孫娘じゃろう」

 

子供が戦場に憧れることは珍しくない。

だが、それは普通は少年の夢だ。

少女が口にすることは、ほとんどない。

 

風羅が言う。

 

「だからこそ風藍には仲間が必要だ。頼んだぞ、龍炎」

 

「はい!」

 

その時だった。

森を抜けた先に、荒野が広がる。

土煙。そして、金属のぶつかり合う音。

 

「見えました! あそこです!」

 

「おい、まだ戦っているぞ!」

 

「間に合ったか!」

 

戦場が視界に入る。

 

各所で龍の一族が固まり、必死に抗戦していた。

 

「風藍たちはここにいろ」

 

風羅が言う。

 

「残りの者は儂に続け」

 

「「ははっ!」」

 

「おじい様!」

 

風藍が声を上げる。

 

「心配するな。まだ戦局は巻き返せる」

 

風羅は静かに戦場を見据えた。

 

「龍の一族も……よく踏ん張っているな」

 

「龍炎、龍の者を数名借りるぞ。援軍と分かるようにな」

 

「は!」

 

「他の者は風藍を守れ」

 

「「は!」」

 

風羅は矛を掲げた。

 

「突撃だ!!」

 

二百強の精鋭騎馬が、一斉に駆け出した。

 

 

 

風羅の矛が振るわれる。

 

「ふっ!」

 

騎馬隊は虎の部族の側方へ突撃した。

瞬間、十人近い兵が吹き飛んだ。

 

「ぐああっ!?」

 

歩兵しかいない戦場に、騎馬の突撃。

それは圧倒的だった。

一人の歩兵と一騎での戦力差は見るからに歴然だ。

 

「敵の増援か!」

 

「な、なんだ貴様ら!」

 

風羅軍の精鋭は止まらない。

壁のような敵陣を貫いていく。

 

「止めろ! 騎馬を止めろ!」

 

虎の部族が必死に兵を集める。

 

「風羅様、敵が厚みを作りました」

 

「構わん!」

 

風羅は矛を掲げた。

そして、戦場に響く声で叫ぶ。

 

「聞け! 龍の一族の戦士たちよ!」

 

戦場が一瞬静まる。

 

「我は、風の部族族長、風羅!」

 

「なっ!?」

 

「風の部族だと!?」

 

龍の一族も、虎の部族も息を呑んだ。

秦国内で複数の部族を束ねる大部族。

その盟主が、今この戦場にいる。

 

「龍の一族嫡男、龍炎の要請により助太刀する!」

 

「若様が!?」

 

「生きておられるのか!」

 

龍の一族に歓声が広がる。

 

「だから戦え!」

 

風羅の声が響く。

 

「下を向くな!」

 

「龍の一族の意地を見せろ!!」

 

「「おおおおっ!!」」

 

龍の一族が一斉に勢いを取り戻した。

 

風羅は笑う。

 

「さすがだな」

 

龍炎から聞いた話では、既に龍の一族の族長である龍炎の父は討たれてしまったと聞いていたが、それでも尚、戦っている心の強さはさすがとしか言いようがない。

 

「虎の部族よ。覚悟のある者からかかってこい!」

 

風羅は自らを囮に敵を引き寄せる。

その間に各所の龍の戦士が反撃する。

 

「諦めるな! 勝つのは我らだ!」

 

その時だった。

巨大な男が現れる。

 

「貴様が風羅か!」

 

「お前は」

 

「我が虎の部族長だ!」

 

一際身体のでかい男が、凄んで風羅の前へ立ち塞がる。

 

「風の部族など、恐るるに足らず。この俺が貴様の首を討ち取ってくれるわ!」

 

虎の部族長が大剣で風羅へと斬り掛かる。

だが、

 

「ふんっ」

 

「っ!」

 

一瞬だった。

 

風羅の矛が大気を揺るがす。

次の瞬間、虎族長の体は、剣もろとも真っ二つになっていた。

 

「ぞ、族長っ!!」

 

地面に崩れ落ちる巨体。

風羅は淡々と言った。

 

「なら、これで終わりだな」

 

歓声が上がる。

 

「「う、うおおおおっ!!」」

 

風羅が敵将を一瞬で討ち取ったことで戦意は崩壊した。

当然だろう。歴戦の猛者である風羅に多少の腕自慢が勝てるわけもない。

 

 

その後も数名が襲いかかったが、すべて返り討ちとなった。

 

つまり、戦いは終結したのだ。

 

「やったぞ!」

 

「里を守った!」

 

「風羅殿、ありがとうございます!」

 

歓声が上がる。

だが、風羅は冷静だった。

 

「やりましたな。殿」

 

「これからが大変だぞ」

 

「風羅様?」

 

「里の復興、領地の回復」

 

そして。

 

「龍の一族が風の傘下に入るなら、儂らも動かねばならん」

 

風羅はため息をついた。

 

「そうですな。龍の一族もこれからは我らが守るべき対象です」

 

「それだけではない。儂が気になるのはこいつら虎の部族の装備だ」

 

「えっ」

 

風羅が斬り伏せた虎の部族長が使用していた大剣や、敵兵の武具に思うところがあった。

本来、辺境の地にいる部族たちは自らの手造りなどで武器の作成を行う。

まさに、龍の一族や風羅が将軍となる前の風の部族はそうだった。

だが、この虎の部族たちが使っていた装備は戦場に流通するそれと同じだったのだ。

その事に、風羅は頭を悩ませる。

 

「孫娘の頼みとはいえ、簡単に引き受けすぎたか……」

 

兵たちが苦笑いを浮かべる。

 

「ここで考えても仕方がないな。帰るぞ。これからのことを話し合う」

 

「「ははっ!」」

 

こうして一行は、風の部族の領地へ向けて引き上げる。

 

だがその一方で、後方で戦場を見ていた風藍たちにも動きがあった。

 

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