「えっ、単独でですか?」
「はい、その通りです」
軍略会議が終わり、各隊が持ち場へと散っていく中。
第二部隊千人将・
しかもそれは、予想外の指示で風藍も驚く。
「よ、よろしいのですか?」
「問題ありません」
黒坊は落ち着いた声で、間を置かずにはっきりと答える。
「姫君の隊は、私の千人隊に吸収するのではなく、“合流”という形を取らせていただきます」
――姫君。
その呼び方に、風藍はわずかに違和感を覚えた。
戦場に出てまで、その扱い……。
家系も性別も関係なく、一人の兵として見てほしい。
そう思いながらも、表には出さない。
「私たちは今回、第二部隊の配属……でよろしいのですよね」
「はい、その認識で間違いありません」
黒坊は静かに頷く。
「ですが、私の千人隊にある十の百人隊へ組み込むことはいたしません。十一個目の部隊として、独立した形で動いていただきます」
「それは……予備隊ということでしょうか?」
予備隊――
戦況を見て投入される後方戦力。
本隊に組み込まれない以上、連携の問題か、それとも邪魔者扱い……?
一瞬だけ、そんな考えがよぎる。
「……当初は、そのように考えておりました」
黒坊は一度言葉を区切った。
「しかしながら先日、殿より伝言を預かっております」
「お祖父様から……?」
この戦場にいない祖父、風羅からの指示。
「それは一体……」
黒坊は姿勢を正し、はっきりと告げる。
「姫君を遊撃隊として運用してほしい、とのことです」
「遊撃隊……」
風藍はその言葉を小さく繰り返す。
遊撃隊。
固定された隊とは別に、状況に応じて動く別働隊。
奇襲、側面攻撃、援護。戦局を動かすための役割。
予備隊とは違い、より自由に動ける。
「……なるほど」
胸の中で、すっと腑に落ちた。
五十人という少数。
しかし、一人一人の練度は高い。
乱戦に飛び込み、そのまま縦横無尽に動く。
それこそが、自分の隊の強み。
「分かりました。お任せください」
「ありがとうございます」
黒坊は軽く頭を下げた。
「ただし一点、お願いがございます」
「お願いですか?」
「配属自体はあくまで第二部隊となります。従いまして、自由に行動できる範囲は、我らの持ち場内に限らせていただきます」
「分かりました」
それで十分だった。
「それで、私たち……第二部隊の持ち場というのは」
「左翼でございます」
黒坊は地図を指し示す。
「我々は第四部隊と同じ位置に配置されます。陣形が整い次第、戦闘が開始される見込みですので、ご準備をお願いいたします」
「はい!」
それから間もなくして、戦場は形を成した。
中央四千。
右翼二千。
そして左翼二千。
整然と並ぶ陣形の中、土煙が舞い、兵たちのざわめきが広がっていく。
左翼正面に展開する敵軍は、およそ三千。
数だけを見れば、不利。
だが、やるしかない。
左翼の指揮は黒坊千人将。
第四部隊一千と、第二部隊の五百が第一陣として突撃する。
対する敵は、副将を務める三千人将。
この戦場の要となる存在だ。
そして、風藍たちの位置は、その第一陣の後方。
自由に動ける。それは同時に、どう動くか、全て任されるってことだ。
風藍は静かに息を吐いた。
いよいよ、戦が始まる。