戦の翌日。秦軍本陣。
広く張られた大幕の中に、武将や兵たちが集められていた。
ざわ……ざわ……
「始まるぞ……」
「今回の戦、誰が上がるんだ……」
「やっぱり、大功を挙げた第二部隊だろ」
期待と緊張が入り混じる空気。
その中央に立つのは、一番の活躍を見せた第二部隊千人将――黒坊。
そしてその一段上。将軍席には、この戦を統括した将である風迅軍長が座している。
「静まれ」
低く響く声。
ざわめきが一瞬で消えた。
「これより、此度の戦における論功行賞を行う!」
兵たちの背筋が伸びる。
「まず――」
黒坊が一歩前に出る。
「左翼戦において奮戦した者たちを挙げる。まず、第二部隊三百人将――」
今回の戦において、武功を挙げた隊長たちの名が読み上げられていく。
呼ばれた者たちは前へ出て、頭を垂れる。
だが、場の空気はどこか、まだ“本命”を待っていた。
そして、黒坊の声が少しだけ強くなる。
「最後に」
一拍。
「此度の戦の中でも一際大きい武功を持つ者を挙げる」
ざわ……!
空気が一気に張り詰めた。
風藍はその中で静かに立っていた。
「第二部隊所属遊撃隊――」
前置きをおいて、その名が告げられる。
「風藍隊隊長、風藍!」
ざわぁっ!!
「やっぱりあの娘か……!」
「風羅様の孫と言われているあの」
「副将討ち取ったって話は本当だったんだな……!」
視線が一斉に集まり、風藍は一歩前へ出た。
まだ幼さの残るその姿。
だが、その目は真っ直ぐ前を見ている。
特に、伍什長の位でこの場にいることすら異質だった。
構わず、黒坊が続ける。
「風藍は、今回の戦さにおいての初戦、遊撃隊として出撃。早々に敵の指揮官を討ち、五十の兵という少なさで、戦況を返すべく戦線を押し上げた」
おおっ!
「その最中、敵副将との距離を詰めることに成功」
兵たちの間にざわめきが走る。
「さらに――」
黒坊の声が重く響く。
「自ら弓を取り。敵副将である三千人将を射抜き」
どよっ……!!
空気が揺れる。
「敵軍の士気を下げ、敵三千を崩壊させ大いに貢献した」
「すげぇ、あの若さで……」
「たった五十の兵でそこまで……」
「しかも隊長は女だぞ」
感嘆の声が漏れる。
黒坊が風藍を見る。
「風藍、前へ」
「は!」
風藍は一歩、また一歩と進み最前へと出る。
その姿は小さい。
だが、この場の誰よりも視線を集めていた。
そして――
軍長が口を開く。
「見事でしたな風藍様。正直、驚きましたぞ」
低く、重い声。
それは、全員に聞かせるものではなく風藍にだけ向けたもの。
「戦場において最も価値あるものは“流れ”。それを、見事に遂げられましたな」
風藍は静かに頭を下げる。
「…………」
軍長はゆっくりと背筋を伸ばす。
「よって、此度の戦での功により」
一瞬の静寂。
空気が張り詰める。
「風藍を、百人将へと昇格させるものとする」
ドッ――!!
場が大きく揺れた。
「やっぱり来たか!!」
「一気に百人将かよ!」
「化け物だな……!」
ざわめきの中。
風藍は顔を上げる。
少しだけ、息を吸って。
「……有り難く」
その声は小さい。
だが、はっきりと響いた。
黒坊が口元を緩める。
「異例の昇格ですな」
「だが、文句はあるまい。それだけの事を初陣でありながらやり遂げたのだ」
誰も何も言わない。
それが答えだった。
軍長が最後に言う。
「さらに、軍総司令より指令が下った」
「「な!」」
それを聞いて、さらにざわめきが上がる。
「どうして総司令が……」
私自身にもそれは分からない。
「今回の武功により、今日この日より風藍を正式に北軍所属の独立遊軍として権限を与える!」
「「おおお!!」」
風藍の隊の者たちだけでなく、ここにいる全兵からの歓声が風藍を包む。
「百人将は通過点に過ぎませんぞ、風藍様」
風迅の言葉に風藍の目が強くなる。
「はい」
その返事には、迷いがなかった。
――こうして。
風の部族の少女、風藍は。
戦場にその名を確かに刻み。正式に百人将へと任命され、独立遊軍風藍隊が誕生した。