『今日午後十時頃から東京都立川市全域にて、原因不明の通信障害が発生しました。市全域の通信機器やテレビモニタ、公共施設のサイネージ広告などの広範囲で同時多発的に発生した模様です。警視庁によりますと、特定団体や企業のPRである可能性は低く……』
リビングルームでは、ライブ後に起きた異変をニュースで取り上げていた。
あの異変は【ツクヨミ】の中だけじゃなくて現実世界でも起きていたようだった
「なあ、かぐや………」
アイツらに何をされたんだそう続けたかったのに言葉が上手く出ない
かぐやはソファーで膝を抱えながら彩葉にドライヤーで髪を乾かして貰っているが何も言わない
ツクヨミから帰ってきたかぐやは意識こそ取り戻したものの、心ここにあらずといった様子で自発的には、話さない
彩葉が無理に元気を装って
「コラボライブ終わっちゃったね」
そう言う
「うん。でもー、まだまだやりたい事だらけなんだー。明日もまた食材届くし♪」
「「欲望怪獣かぐや」」
「がおーっ」
一応返答はあるが、怪獣のポーズにも叫び声にもいつもの元気さはなく、どこか取り繕っているようにも見える
それは、かぐや自身もわかっているようで
「……まだ………調子悪いか?」
そう尋ねてみるが
「ん-、ちょっと疲れたかな。もう寝まーす。」
そう言ってソファーから立ち上がって螺旋階段を上って、かぐやの部屋に消えていった
「…………彩葉」
「うん…………」
俺と彩葉の考えは一緒の様だった
かぐやの様子が明らかにおかしい
精一杯元気に振舞ってはいるものの、俺達よりも先に寝ると言い出したことも、手摺を使ってかいだんを上るのも今日が初めての事だった
「やっぱり……あいつらのせいなのかな……」
彩葉が不安そうに言う
あの不気味な灯篭頭が現れる直前に起きた数舜のノイズとラグ
加えてあいつらを切った時の手に残る嫌な感触
ツクヨミでアバターが欠損した時は桜の花びらとなって散るはずなのに
あんな風に遺骸のように残ったり、血のようなものを流したりはしない
「分からない…………少なくとも完全な無関係じゃないのだけは確かだと思う」
あれの目的は何なのだろうか
市全域に発生した通信障害のタイミング的にあれが、原因なのは間違いないだろう
あの灯篭頭達がスマコンに侵入して、スマホを操作を乱して、PCの操作を断つ
そこら中のモニターに出された数列
『2030/09/12』
数字の並びからして日付と考えるのが妥当だろう
「後…………2週間弱」
今日は八月三十日
この日が来てしまったら一体何が起きてしまうのだろう
「うわ………」
考え込んでいると彩葉からげんなりとした声が聞こえてきた
「あー…お母さんから?」
彩葉の方を見るとスマホを握っていた。何となく察しがついたので聞いてみると
「うん…………そろそろ無視し続けるのも限界かな………」
彩葉の表情がどんどん暗くなっていく
かぐやのおかげで俺達の精神は安定してきているが
長年の呪縛は中々解けるものではない
「うげ…………」
自身のスマホにも着信が入った。表示された名前は『母さん』
「……………………」
スマホをローテーブルにおいて着信が切れるのを待つ
「…………自分の事棚上げして言うけど……いいの?」
「…………ちょっぴり…………少し……やや………あんまり……実は………全然…………」
「「………………………………………………………………」」
「彩葉が倒れる少し前くらいに日本に帰って来たみたいで………………………………」
「それ以降連絡を無視してると」
「はい」
「「……………………………………………………………………………………」」
「この話やめよっか!」
「そうね!そうしましょう!」
お互いにとって絶対良くないので無理やり話を終わらせて、誤魔化すように9月12日について調べる
『2030年の9月カレンダー』
『2030年9月12日は何の日?』
『2030年9月12日の暦と日付情報』
『2030年9月12日 次の満月は…』
「次の…………満月……………」
「え?」
「2030年9月12日…………つまり今年の9月12日は満月みたいだ…!」
その情報を見て現状ある情報と今見た情報が線で結ばれ嫌な予感が形どっていく
謎の数列、次の満月、かぐや、理解の外にある存在
かぐやの言葉が頭をよぎる
『お迎えが来るかもしれないし~!』
あのライブの時かぐやの隣にいた、ヤチヨ
灯篭頭はヤチヨに頭を下げていた。軽いものではない、敬う相手の様に深々と
そもそも下げた相手はヤチヨだったのか?
グルグルと情報と俺の想像が頭の中で回る
関係のない情報も混ざり合う
ヤチヨとかぐや
二人の表情や仕草がどこか重なるものが多い
俺はともかく彩葉はヤチヨカップ以前は無名どころかライバーですらないのに前から知っているような雰囲気を感じた。俺達を見る視線も改めて思いなおすと違和感があった
ファンに向ける視線ではなく、もっと親密な何か
かぐやに向ける視線は、慈しむようで、悲しむような…………
「や……な……七夜!」
「!?」
深く考え込んでいたせいか彩葉が声を掛けてきていたのに気付かなかった
「ご、ごめん!な、何の話だっけ?」
「何の話もしてないよ…………すごく怖い顔してたから…………大丈夫なの?」
「何でも…………なくはないけど…………うん…大丈夫……不確定な事で不安にさせたくないんだ…」
「そっか…………」
「「………………………………」」
「ごめん、俺も少し疲れちゃった……俺も寝るね……お休み」
「うん……お休み」
階段を上り俺の部屋へ向かう
正直眠れる気はしないが少しでも頭を休めないと必要以上に考えが悪い方へ転がっていきそうだった
「…………目ぼしい情報は無い…か」
結局あまり眠れなかった
夜明け前には目が覚めてしまい、一度眠る気にはなれず
ネットの海に潜り何か情報がないかと探っていたが残念ながら成果はなかった
時間もそろそろ三人が起き出して来る
取り敢えず朝食をとってからもう少し考えることにしよう
今日の朝食当番は自分なので部屋を出て階段を降り
トースターに食パンを三枚放り込んでスイッチを入れてから、ポットでお湯を沸かす
冷蔵庫からレタスとトマトを取り出して適当なサイズに切りボウルに入れて、粉チーズとクルトンも加えてサラダを作る
卵とベーコンも冷蔵庫から出してベーコンエッグを作る
かぐやが当番の時に比べれば簡素なものだと考えて、苦笑してしまった
夏休み前なら食べないかゼリー飲料だけだったのに
本当にかぐやが来てから生活が変わった。
三人で朝食をとって少しすると何かが冷蔵便で届きかぐやがそれをニコニコしながらキッチンへ運んで行った
彩葉は夏期講習へ向かう為に部屋に戻っていった
「…………で…………それは一体…」
キッチンでは、かぐやがまな板から尻尾がはみ出すほど大きな魚を前に出刃包丁を構えていた
「白甘鯛!通称シラカワ!」
違うそうじゃない。魚種を聞いたわけじゃない
「これは、一体…」
制服に着替えて部屋から出てきた彩葉が頬を引き攣らせながら言った
「料理配信用に買ったの」
昨日届くって言ってたな。こんなに早く届くものなのか…………
「炭で焼きたいんだけどぉ、ダメ?」
「「絶対ダメ」」
パニックムービーか救急車の未来しか見えない
「ダメかー」
ダメに決まってるだろ…………
「じゃあ……私出るから…………かぐやの事見張っててね」
「りょーかい、いってらっしゃい」
彩葉が玄関でローファーを履いて扉に手を賭けた瞬間
起きた時からつけっぱなしのスマコンの拡張デバイスのイヤホンがノイズを拾った
全身に悪寒が走り反射的にARモードを起動させる
「!?」
何故か昨日見た灯篭頭が、複数体リビングルームにいた
ストレージに仕舞われた武器を出現させようと、虚空に手を振るうが何も起きない
当然だ。ここは【ツクヨミ】じゃない現実世界だ
奴らは武器を出そうとした仕草を見た瞬間蜘蛛の子を散らすように慌てふためき逃げていき煙のように消えた
「「かぐや!」」
彩葉も悪寒を感じ取ったのか声を上げた
かぐやの方を見ると出刃包丁をまな板の上に放り出して自分の腕を見ていた
…………違う見ているのはかぐやの手首…………ブレスレットだ
かぐやはブレスレットを少し眺め、奴らが消えていった方を見てから
「…………あんまり怖がらせないであげてね…………」
オレンジ色に輝く瞳で困ったようにそう言った
「「ッ!」」
やっぱりあいつらはかぐやを狙っていた
そして今のかぐやの言葉と表情で、嫌な予感が完全に確信に変わる
今回追い払えたのはラッキーでしかない。
次は間違い無くない
あいつらは月から来たかぐやのお迎えだ
ないよ、剣ないよぉ!
ここだけコソコソ小話ロングの予定だよ見たいのを選んでね☆
-
七夜のツクヨミ初ログイン
-
彩葉と七夜が友達になった話
-
黙って両方書け!