ある日、エルフの世界に迷い込んだら 作:1669syakusyain
「**×¥●&%♪!**」
「**×¥●&%€¥**」
周りから声がする。どうやら私は眠っていたようだ。ふかふかの掛け布団と柔らかいベットの感触にいつまでもそうしていたい気分になる。しかし、寝てばっかりではいられない。こういうときに2度寝すれば1日を無駄にしてしまうのだ。まだ眠たい気持ちを抑え、体を起こして伸びをしようとした瞬間——
「ぐおっ」
全身の関節が軋むように痛み、体制を維持できずベッドに再び倒れこんでしまう。あまりの痛みに目を見開く。視界が開けると、
2mほどの身長、とがった耳、薄緑色の肌。6人のエルフに囲まれていた。
「ぐあっ」
反射的にふたたび身体を動かし、激痛が全身を巡る。
言葉も出ない状態だが、彼女らを観察する。武器はない。服装は人間の普段着と変わらない。少なくとも即座に危害を加える意思はみられない。
肌の色も大きさも違う、2mの6人に囲まれる圧迫感で表情が強張る。聞こえていた声は彼女らの会話だった。
私は何をされてしまうのだろうか。どうやら外見と服装からエルフは人間と似た文化を持っている。生憎、仲間の女の子を追いかけ回してしまった後だ。何をされても文句は言えまい。
最後の抵抗だ。
私は覚悟を決めてエルフの方を見る。手を出してきたら精一杯の抵抗をすることに決めた。
相互に動きはない。
ベッドの下からガサガサっと音がした。予想だにしない方向からの音に、私は身体を動かそうとするも再び身体中が痛み動けない。抵抗してもムダなことを悟り、身体をベッドに明け渡した。
一体私はどうなってしまうのだろう。音がする方向に目を向ける。
ベットの下から小柄な3つの影が飛び出した。
3つの影は子どものエルフだった。子どもたちは私を興味津々といった顔で見つめてくる。その表情は屈託のない笑みで思わず毒気を抜かれた。スっと張りつめていた緊張の糸が解ける。
「**×¥●&%!**」
「**×¥●&%!**」
「**×¥●&%!**」
相変わらず言葉の意味はわからない。しかし、私を害そうという様子はなく、ただ楽しそうに何かを話している。
そうした様子をしばらく眺めていると、なにか大人のエルフに頼み事をしているようだった。彼女らは大人たちからなにかを注意されたようだ。
3人は少し残念そうな表情で扉から出ていく。続いて大人たちも扉から出ていき、部屋には私一人になった。
その様子を見て、私は罪悪感が湧いた。彼女らエルフが私の看病をしてくれたのだろう。どうやら私は恩人にとんだ失礼をしてしまったらしい。
私は何も言わず扉を出ていくエルフ達を眺めていた。
部屋を改めて見渡す。構造から判断するに、ここは病室だ。私のベッドからドア側に2つベッドが置いてあり、ベッド同士の間には仕切りがある。天井には電球がついていて部屋を照らしている。ドアの右隣にある棚には賞状と本、包帯が見えた。匂いを嗅ぐとなにやら薬品のような匂いがする。
窓の外を見ると、見知った駅が見える。駅の前のタクシー乗り場、バス停の位置、タイル、手前にある交差点はどれも私の記憶と一致している。ここは間違いなく私が生まれ育った街の駅だった。駅の向かいには大きな病院がある。どうやらここはその病院の2階だったようだ。
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しばらくして扉が開き、エルフが1人入ってきた。白衣を身にまとい、目にかけた丸メガネの奥の瞳から理知的な雰囲気を感じる。おそらくこの病院の医者だろう。
彼女は私のベッドの横にある椅子に腰をかける。
「こんにちは人間、ようこそ森人の世界へ。」
驚いた。言葉が通じるのか、それも日本語で。
「ご丁寧にこんにちは。日本語を話せるのですね、お上手です。」
「それほどでもない。たびたび君のように迷い込んでくる人間がいるから勉強したのさ。」
迷い込んでくる…そういえば先ほどエルフの世界へようこそと言っていた。私は異世界に来てしまったのだろうか。窓から見える人影は全てエルフで、人間はいなかった。
しかし、窓から見える外の景色は私の暮らす街そのものだ。まるで、世界ではなく私だけが変わったような感覚を覚えた。
振り返ると、呆ける私をどこか懐かしむように見ていた。
「単刀直入に言おう。君の保護申請が終了した。君は明日から自由にしてくれて構わない。家はこの建物の隣に用意されている。金銭は使いきれないほど用意されるだろう。」
「申し訳ない、私はそれに報いる何かを持ち合わていないのです。」
あまりの理想的な提案に反射的に断りを入れてしまう。
「何もする必要はない。なぜなら君は国賓となった。君という存在を私たちは離したくないのだ。君はただ君であるだけでいい。なぜなら森人は好奇心旺盛で君に興味津々だ。」
「本当に素晴らしい提案ですが、私は私の世界に帰りたい。私はもうすぐ家族から完全に離れ、1つ目の職に就くのです。私はどんな待遇よりも元の世界に帰りたい。」
彼女は私の目を見つめた。私も彼女を見つめ返した。ここで逸らしたら帰れなくなってしまう気がしたからだ。
「人間、君は嘘をついてる。」
彼女は椅子から立ち上がり、私に背を向けた。
「なぜなら君はここに来た。」
「どういう意味でしょうか?」
彼女は室内を歩き出す。語りは軽快で幼子をからかうようだった。
「世界観の移動は移動先の価値観に染まる必要がある。君がこの森人の世界に来たということは君は私たちと同じ価値観を持っている。君が人間の価値観に染まらぬ限り、人間の世界に戻ることはできない。」
「なによりも
君は好奇心を抑えられないだろう。私たちは好奇心旺盛なのだから。」
得意げに笑う彼女が少し憎たらしい。完全に図星だった。
「私が人間の世界に帰りたいという気持ちは変わりません。しかし、本当にあなたの言うとおりならば私はあなた達エルフの価値観を知らなければなりません。あなた達と触れ合う中で私は私自身を知り、人間の世界に帰ります。」
「素直じゃないね。そういう所はエルフらしくない。」
「当たり前です。私は人間なのですから。」
好奇心からエルフを追いかけ、穴に飛び込み、気づけばエルフの世界にいた。どうやら私は人間の世界に帰るために人間を知る必要があるらしい。そのために私はエルフと触れ合い、エルフのことを知る必要がある。私はどうしようもなく興奮していた。こういうところがエルフらしいのだろうか。
「ところで君、エルフとはなんなのかなぁ」
近い。鼻息が荒い。先ほどの彼女と同一人物なのだろうか。理知的とは程遠い野生的な姿だ。
「100年前、この世界に来た人間は私たちのことを森人と読んでいた。しかし、今人間の世界で私たちはエルフと呼ばれているのか。実に興味深い。私は君に非常に興味が湧いている。君は何を食べるのだろう。君は何を好むのだろう。あぁ、私たちが出会えたのはきっと運命だ。今日は夜が明けるまで語り合おう。」
語りは落ち着いているが、その目はまるで肉食動物だ。頭が良すぎると逆にバカみたいになってしまうのだろうか。その姿は差し詰め知識の獣だ。