8000歳の『豚の帽子亭』のマスター   作:三日坊主の三太郎

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はじまり

『豚の帽子亭』

 昔は豚の上にあって、まるで豚の帽子のようだったから、この名前になったらしいが、そんなファンタジーみたいな話が信じられるわけがなく、ただ単に変テコなネーミングの酒場と認識されている。

 また、酒は美味しいのにマスターの作る料理は激マズと評判だ。よくマスターは遺憾の意を示しているが、本当にまずいので否定のしようがない。

 

 

 そんな『豚の帽子亭』だが、豚の帽子亭史上最大の危機に直面していた。それは──

 

 

「う〜ん……看板娘がいなくなっちまったな……」

 

 

 今までは、喋るウミウシを看板娘として商売をしていたが、最近、やりたいことができたようで、出て行ってしまったのだ。

 喋るウミウシ程度で、そこまで危機はないと考えるかもしれないが、そのウミウシは明るく、飲みに来た客全員に元気を振りまいていて、常連の酒場に来る目的の割合は、ウミウシが7割、酒が3割、マスターの料理が0割と、大半をウミウシが占めている。

 定連が全員が全員来なくなるとは思わないが、確実に利益は減るであろう。ただでさえ、マスターの趣味のせいで経営がギリギリだったのに、利益が減ってしまば、8000年の歴史を持つ『豚の帽子亭』が潰れてしまう。

 

 

「さてさてさ〜て……どうするか……今からでも引き止めにいくかぁ〜?」

 

 

 ウミウシが帰ってきてくれれば、全てが丸く収まるのだが、ウミウシがこの酒場を離れると言ったときに、『お前がしたいことがあるなら、それを優先しろ』とカッコよく送り出してしまったので、潰れそうだから帰ってきてくださいなどとダサいことが言えるわけがない。

 

 

 第二の策として、新しい看板娘を探す策があるが、明るく元気で、みている人に元気を振りまく可愛い子なんて、そんな都合の良い人材が早々に見つかるわけがない。一応、タ◯ンワークにそれなりに好条件を出したおかげで、すでに応募がきているが、そんな子は、すでにもっと良い条件のところで働いているだろう。

 

 

「いっそのこと俺が看板娘になるか……?」

 

 

 仮にも、マスターが看板娘になったとしたら、今までに吐瀉物を吐く原因100%を占めていたマスターの料理が、50%ぐらいに下がるだけなので切実にやめてほしい。

 

 

 まともな策がどんどんと消えていき、ついには倒錯した策も出てきたときに、酒場のベルがなった。

 

 

「あの……すみません……ここが『豚の帽子亭』であってますか? バイトの応募に来た酒寄彩葉です……」

 

 

 マスターは、バイトの応募に来たと聞いた瞬間に、彼女の全身を舐め回すように見た。これは、決して下心があるわけではなく、この酒場の看板娘にふさわしいか見定める為の必要な行為なのだ。

 

 

「採用! 今日からお前がこの『豚の帽子亭』の看板娘だ! 早速だが制服を作るためにサイズを測らなきゃいけねえから、服を脱いでくれ」

 

 

 全身を舐め回すように見た結果、即決である。

 彩葉は、面接もなく、入った瞬間に採用されて、さらには特大のセクハラをかまされて目を点にしている。

 

 

「え? 面接とかは……?」

 

「うちの酒場は顔採用なんだ」

 

「制服のサイズは書類にもう記入しているはずでは?」

 

「冗談だ」

 

 

 嘘である。あわよくば、脱がしてしまいたいと思っていた。しかし、本気だと言ってしまえば、昨今の世間では許されざる大罪を犯す事になるので、きちんとマスターは自分を抑えた。8000年も生きているのだから、まずセクハラをするなという話だが、もうこのマスターはセクハラをするのが趣味なので、無理な話だ。

 

 

(えぇ……なんでこんな平気な顔で答えられるの? もしかして、私の方がおかしいの?)

 

 

 彩葉は、とんでもない異常を目の前に、自分の平常を疑った。

 彩葉、それ以上自分を疑ってはいけない。あいつが異常なのだ。あの異常性の塊に飲まれてはいけない。

 

 

「仕事は明日からな。業務内容も明日みっちり教えてやるから、今日は帰って良いぞ」

 

「あっはい」

 

 

 彩葉はマスターの言葉に従い、ドアを開けて、外に出た。

 

 未来の東大生の頭脳が、今までの体験を元に、酒場で起きた体験を必死に処理する。その結果弾きされた結論は──

 

 

「夢……? ……夢」

 

「現実だぞ」

 

 

 お前はもう黙っておけ。

 

 

 

 〆

 

 

 

 現代から大昔、具体的に言えば、8000年ほど昔。ある馬鹿野郎がこの世に生を受けた。そいつは、ケツから言って頭がおかしかった。

 そいつは現代で、普通の生活をしていた一般人だった。少し、行動力が他と比べてバケモノだっただけで、それ以外は普通のはずだ。多分、メイビー。

 

 

 そいつは、生を受けた瞬間に、現状を把握するために、色々なことをした。転生したときの鉄板である、容姿の確認は当たり前にしたし、転生したのだからと、かめはめ波を出そうと試みたりもした。

 

 

 その結果、そいつは自分が七つの大罪という物語に出るメリオダスであることを知った。しかし、そいつはその物語を見たことがなかった。何度か動画配信サイトで流れてきたので、ちょこっとだけ知ってはいたが、詳しい物語の流れや、キャラクターの関係性は、結構あやふやであった。

 

 

 最近の物語は、原作のルートを辿るのが一番のハッピーエンドだったりするので、そいつは悩んだ。好き勝手に行動するのか、なるべく原作のルートを辿るのか。

 

 

 そいつは悩んだ末に、答えを出した。

 

 

「ま、そんときの自分に任せるか」

 

 

 典型的なダメ人間である。

 

 

「豚の帽子亭を作ろう!」

 

 

 そいつは、行動を起こした。転生したは良いものの、面白い物は一つもなく、あるのは、言葉が通じず、自分の後をついてくるウホウホ言っている推定自分の祖先達。退屈で死んでしまいそうなので、少しでも気を紛らわせるために、『豚の帽子亭』を作る。

 

 

 しかし、そいつは大工ではなかった。建築の経験なんて、小さな頃に山にダンボールの秘密基地を作った事ぐらいだ。一瞬で崩壊したが。そんなのだから、建築は行き当たりばったりであった。

 幸いにも、資材には困らなかった。周りは木で埋め尽くされていて、腐る程あった。足りなくなったら、後をついてくる推定自分の祖先達をパシって、回収に行かせた。

 

 

「おっし! 完成!」

 

「ウッホ! ウッホ!」

 

 

 時間に物を言わせて、外見だけは立派な『豚の帽子亭』ができた。ついでに、酒場のマスターっぽい衣装も作った。

 ちなみに、推定自分の祖先達は、そいつの作業を手伝う傍で、集落を形成していた。なんとも要領のいい奴らだ。

 

 

 そいつは完成を祝い、集落で三日に渡る宴を開催し、盛大に祝ったが、『豚の帽子亭』を作ったことにより、他の集落の者も招くようになってしまった。

 残等である。竪穴住居が主流の時代に、そんな随分と先の西洋風の建物を建ててしまえば、目立つに決まっている。

 

 

 そいつからすれば、別に他の集落の奴が来ようが来まいがどうでもよかったが、元々そいつについて行って、集落を形成していた奴らは、納得いくわけがなかった。

 農業がまだない時代、食料は有限である。人口が増えれば、その分自分たちの分の食料が減る。だから、元々いた集落と、後から来た集落で、たびたび争いが起きた。

 

 

 そいつは、不介入を選んだ。そいつはこの頃、自暴自棄になっていた。この世界が、七つの大罪という物語が始まる世界とは、別の世界と気づいたのだ。

 そいつは、自分が世界の異物だと知った。

 

 

 また、他所の集落がやって来た。しかし、今度は何か様子がおかしい。

 そいつは、少しだけ様子を見に行く事にした。

 

 

「ウッホ……ウッホウッホホウホウ」

 

「ウッホ……」

 

 

 喋るウミウシが、集落の代表と話し合っていたのである。

 そいつは、頭がおかしかったが、常識はある。常識がある上で、異常行動をするのでよりタチが悪いが、それはおいておく。常識的に考えて、喋るウミウシが現実に存在するわけがない。

 

 

 そいつは介入を選んだ。もしかしたら、自分と同じ世界の異物かもしれないと考えたから。

 

 

「よっす! 何喋ってんだ?」

 

「ウッほ……ぉ……」

 

 

 さっきまでよく喋っていたウミウシが黙り込む。そして、爆発するように、穴という穴から水を吹き出して、そいつに飛びつく。

 

 

「メ゛リ゛オ゛タ゛ス゛〜〜!!」

 

「うぉわ」

 

 

 そいつは、いきなり飛びかかられると考えてはおらず、困惑しながら、ウミウシを片手で摘む。自信の作品である酒場のマスターっぽい衣装を汚されるのは嫌だった。

 

 

「ずっと゛! 一人か゛と思ってた゛!」

 

 

 これが、8000年もの間一緒に生きて行く二人の出会いとは、まだ誰も知らない。




いろPにあの豚の帽子亭のえっちぃ制服を着せると思うと、ふふ…少々下品なんですが…下品なんでやめときます
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