蛇足物語 作:ロバと子いぬ
輪廻は巡る。
世界は、変わることのない因果を紡ぎ続ける。
全ての事柄はあらかじめ定められており、抗うことは許されるが、誰も干渉することは出来ない。
その世界の内にある者には。
別の時空から来た者ならば、あるいは、変えられるかもしれない。
だが、変えてはならない。
因果が変わり、輪廻が巡らないことは、運命を歪めることに他ならないのだから。
そして、変わることが、必ずしも良いことだとは限らないのだから。
〜〜〜
朝の学校。昨日の夜も結構ゲームしちゃったからまだ少し眠くて、ぼーっといつも見ている方を見てしまう。
俺の視線の先には、憧れのあの人。まぁ、みんなの憧れだけど。
「おっす! ヒデ!」
まだ働いてない意識と体を気だるげに声の方に向ければ、学校の友人が挨拶してくれた。返事せねば。
「ん……おぉ、おはよう」
「お前……また酒寄さんの方見てたろ。そりゃみんなの憧れだけどさぁ」
やばい。ぼーっとしてた。変な誤解されるかもしれん。
「いや違うって!」
「否定しなくてもよし。割とみんなそうだし」
みんなの憧れではあるけどさ。酒寄さん。
「それもそれで何だよ」
「てかお前ぼけっとしてる時いつもそっち見てるぞ」
バレてた。
「え? うわー……キモイかな。俺」
「割とみんなそうだし大丈夫だろ」
「それはみんながキモいかもしれない」
他愛もない会話だ。俺はこんな話を友達とするのが好きだ。
いつの間にか、不可思議だった世界が日常になっている。不思議なものだ。この世界に来た……生まれ直したって言うべきか。その時は非日常にしか感じなかったのに、17年も過ぎればそれは日常になるもんだな。
俺は
昔は違う名前だった。もう覚えてないけど。
どういう意味かというと、俺は転生者だ。能力を神様?からもらって、いわゆるチート転生をした転生者。まぁチートをもらった意味はあんまり無かったけど。この世界は平和だし。精々少し自分が楽になるために使う程度……になった。前世は多分プロゲーマーで、いろんなゲームのプロをしてた。正直その点だけ見ても強くてニューゲームだからおつりがくるくらいだ。
もらったチート能力は「物事を無かったことにする力」。前世だとなんか大嘘つきみたいな名前でそんな能力がある漫画があった気がする。覚えてないけど。これがたいそうなチート能力で、小さい頃はこれで無敵だった。世界征服まで考えてた。まぁ別に俺は頭がすごく良いわけじゃないから小さなことにしかこの能力を使ってなかった。ジャンケンで負けたのを無かったことにしたり、友達との勝負に使ったり、テストでの赤点を回避したり、そんな感じ。
でも、チート能力にも欠点があった。すぐに分かったのは二つ。一つ、無かったことにしたことは無かったことにできない。取り消しができないってことだな。二つ、元々無いものを無くせない。マイナスの掛け算みたいなことはできないから、無から何かを生み出すとかは出来なかった。まぁ当然と言えば当然だな。
それと、数年前に、もう二つ欠点が見つかった。
そして、その時から能力はほとんど使ってない。
今から3年前、戦争があった。正確に言えば戦争が起こりかけていた。確実に世界情勢は戦争に傾いてた。怖かった。こんなチート能力を授かっていたって所詮俺はゲームが上手いだけの一般人だった。ニュースではどの国がどこを攻撃しただとか、日本も憲法がどうだとか、日本も危ないだとか、不安を煽るものばかりだった。
だから願った。戦争なんてなくなりますように。この戦争が「無かったこと」になりますように。と。
その瞬間、俺は意識を失った。
意識が戻った後、直感的に理解した。これは能力の反動だ。意識を取り戻したのは翌日だった。半日以上意識がなかった。だが、周りの反応を見るに俺が意識を失ってることは気づかれていなかった。意味がわからなかったが、ニュースを見てすぐに理解した。
戦争などなかった。それどころか、世界の情勢が数年前から全く違うものになっていた。某国の大統領が俺の記憶してるものと違ったし、日本の総理まで違った。歴史が、世界が、俺の知るものと変わっていた。
怖かった。初めて自分のチートがどう言うものか理解した出来事だった。
この件からしか予想はできないが、俺の能力、「無かったことにする」力は、過去すら変えてしまう。そして過去が変われば当然現在も変わる。身の回りのことじゃなくて大きなことを、しかも抽象的に「無かったこと」にしてしまうと、大きく世界が変わってしまう。無くしたい出来事の原因を取り去っているのか、結果から逆算して世界が変わってるのかはわからないけれど、少なくとも大きく歴史が変わることは確かだった。過去の事件や人物が無くなるように能力を使ったらどうなるか……想像するだけでも怖い。
その件から、俺は能力を極力使わないようにした。といっても、もう体の一部と言っても差し支えないくらいに能力があることに慣れてしまっているから、日常生活で使ってしまうけれど、あれほどの歴史改変はまだない。
学校が終われば家に帰る。これは元の世界でも今の世界でも一緒だ。そして家に帰れば何をするか。
そう。ゲームだ。これも元の世界でも今の世界でも同じ。
でも、ゲーム自体は全然違う。
俺はコンタクトレンズ型のデバイスを装着する。そして目を瞑る。
宇宙を模した光景を見た後、水面を越え、
眼前に広がるのは、夢のような光景。摩天楼が立ち並び、モノや光が空を舞う。夢の世界、仮想の世界、電子の歌姫
ツクヨミだ。
要は仮想空間だ。前の世界でもVRに関してはゴーグル型だったりサングラス型だったりで作られてはいたが、ここまでのものはなかった。VRというよりも、もはや別の新しい世界だ。
この世界には正直何でもある。無いのは味覚と嗅覚くらいかもしれない。前世では予想もつかないような面白いゲームもあるし、貨幣もある。この世界の通貨はふじゅ〜と言って、現金にも変えられる。つまるところ本当にもう一つの世界のようなものだ。
俺はこの世界、ツクヨミのゲームにハマっている。『KASSEN』というゲームだ。格ゲー、MOBA、バトロワと、それぞれに特化したゲームモードがあったり。
つまり完成されたゲームだ。バカみたいに面白い。最高だ。転生させてくれてありがとう神様。俺はこのために生きている。
そして、
『第三回RebootCup『SETSUNA』部門、勝者、ヘビノブ〜〜!!!』
俺は高校生をやりながらこのゲームのプロをしている。ユーザーネームは「ヘビノブ」。狭き門ではあるが、まぁ前世プロゲーマーなんで。特に格ゲーモードの『SETSUNA』ではおそらく全プレイヤーで1番強いのが俺だ。他のモード、3対3のMOBAに近い『SENGOKU』や7対7のバトロワの『KASSEN』だと元チームメイトのアキラとかに勝ち負けになるが、『SETSUNA』なら負け越しはしない。多分。
ということで、俺は転生した先で、高校生とプロゲーマー、二足の草鞋で頑張っている。
これから始まるのは、そんな俺が紡いだ蛇足の物語。誰も知らない、知るべきじゃない。でも、そこに後悔なんてきっと無かったんだ。
オリ主のせいでKASSENのモードKASSENを8対8に改変しようと思ったけど、別にかぐやカウントしないで7対7って事にしたほうが七福神的にいい気がしたのでそうします。