蛇足物語 作:ロバと子いぬ
コラボから数日経った今日、俺はツクヨミのライブ会場に来ている。なんと! かぐやちゃんのソロライブがあるのだ! コラボの後にチケットをもらって、話を聞いたらライブやるんだと。流石に驚いた。だってまだかぐやちゃんってデビューして一ヶ月も経ってないからな。それでチケットもちゃんと売れているらしい。あまりの早さについていけなくなりそうだ。これは本当にヤチヨカップ入賞狙えそうな勢いだな。
今日は俺は変装してライブ参戦だ。ないとは思うけど騒ぎになっても良くないしな。俺の顔自体はかぐやちゃんとコラボしたから知られてるかもしれないし、用心するに越したことはないだろう。
会場は満員って感じで、観客たちの熱気もすごい。アクティブなファンがめっちゃ多いということだろう。かぐやちゃん自体が流行り物というか、ごく最近浮上してきたコンテンツなのもあって、熱のあるファンも多いんだろうな。求婚コメントしてる人もあんなにいたくらいだし。
俺は一応知り合いってことでちょっといい場所に居させてもらってる。役得だ。
ライブが始まった。
客席のライトが消えて、壇上のかぐやちゃん、と、着ぐるみのいろPにスポットライトが当たる。
そういえばこの前初めてかぐやちゃんと会った時、俺とのコラボに参加するのをお願いするのと一緒に、『ライブの伴奏もして』って酒寄さんに言ってた気がする。結局折れて酒寄さんも参加したのかな。まぁ絶対参加した方がいいよな。一ファンの俺としても二人で壇上に立つのを見たかった。
歌われてる曲は、かぐやちゃんの代表曲とも言える『私は、わたしの事が好き。』だ。この曲はかぐやちゃんのオリジナル曲で、俺は元気が出るから好きだ。俺はこのライブのために……というわけでもなく、かぐやちゃんがアップロードしてる曲は聞いているし、普通にちゃんとファンになっている。かぐやちゃんの破天荒で何にでも挑戦する姿は刺激になるし、単純に見ていて楽しい。歌う姿も、綺麗だし見ているこっちも楽しくなるものだ。つまるところ、かぐやちゃんは魅力的なライバーになっているという事だ。ファンがこんなに集まるのも頷けるね。
この前コラボした後に聞いたけど、かぐやちゃんのオリジナル曲は酒寄さんが全部作曲しているらしい。酒寄さんは超人JKだと思っていたが、作曲までできる超人だったらしい。言われてみれば、音楽の授業で普通にピアノ弾いていたな。今弾いているのは……ピアノ? 鍵盤のついたギターのような、なんていう楽器かわからないやつだ。というか、よく見れば『KASSEN』の時に使っていた武器だ。あの武器は双剣でもなく、ブーメランでもなく、鍵盤だったようだ。そりゃ俺でも騙されるわ。
かぐやちゃんの歌声は、彼女の性質を表すかのように元気が溢れていて、それなのに綺麗で、聞く人全てを魅了していた。
かぐやちゃんたちのライブは、大盛況で幕を閉じた。
久々にライブを見に来たけど、今回は特に『楽しい』ライブだったな。かぐやちゃんの元気が溢れていて、こっちまで元気が伝播するようなライブだった。俺含めて、お客さんたちみんな大歓声って感じだったな。会場の熱が凄かった。
こういう良いライブに参加すると、ライバーをやっている以上俺も歌のライブをしたい気持ちになるんだが、俺音痴なんだよな……。昔にやった歌枠の荒れ具合は酷かった……。一部のファンはまたやってくれと言ってくれるんだけどね。流石にね、得意分野じゃないところであんな非難轟々だとね……。ライブ、叶わぬ夢だからこそ尚更やりたくなる。やらないけど。
まぁでも、ライブで刺激をもらうと色々なやる気が出てくるものだ。配信のモチベも湧いてきたし、次の大会も9月の終わりにあるから、それに向けての調整をしっかりしなくちゃなと気を引き締める機会になった。
感謝を伝えたいけど、ツクヨミでのライブは基本的に終了後に関係者以外が会いに行けるまでしばらくかかる。今日のところはメッセージを送るに留めとこう。次にあったら感謝を直接伝えればいいか。
この前コラボするにあたって連絡先を交換していたので、それでかぐやちゃんと酒寄さんそれぞれにメッセージを送っておく。
良いライブを見せてもらったし、何かお返しをできれば良いんだけどな。
次に会う二人と機会は案外早く訪れた。ライブの数日後、ヤチヨカップ期間も残り1週間を切って、最後の追い上げを! というタイミング。
俺は開いていたアキラから来ていたメッセージを閉じて、かぐやちゃんからのメッセージを開く。何々、重要な話があるから来て! とのこと。具体的な内容を書いてないのはかぐやちゃんらしい気がするけど、重要な話ね……なるほど。
呼ばれて行かないほど忙しくない俺は、かぐやちゃんからの招待を受けてツクヨミ内をワープする。入場がフレンド限定の部屋などに招待された時はワープで移動できるんだよな。実質オープンワールドなのに便利なものだ。
そんな風に何も考えずワープした先には、
「お、ノブきた」
バスタオル一枚のかぐやちゃんと、
「だからかぐや! 零落くん呼ぶなら服着なさいって!」
頭を抱えて怒っている酒寄さん、つまり生身のいろPと、
「あ、どうも〜。バレてるならいっか。諫山でーす」
「綾紬です。彩葉とかぐやちゃんがお世話になってるようで」
かぐやちゃんの方を見て苦笑いしながら挨拶してくれた、まみまみこと諫山さんとROKAこと綾紬さんがいた。
とりあえず、俺が遠くを見ている間にかぐやちゃんに服を着てもらって、なんとか落ち着いて席につけた。
どうやらここは諫山さんのマイルームらしい。あんまり他人のマイルームに他人を呼ぶなよと思うが、勢いのあるかぐやちゃんを止めることは誰にもできなかったのだろう。
「えっと、呼ばれたってことは知ってそうだけど一応自己紹介しておきます。零落です。なんか重要な話があるってかぐやちゃんに言われて来たんだけど……?」
「そう、大事な話! これ見て!」
そう言ってさっきまでの騒ぎの下手人が見せて来たのは、巻き物型のメッセージだ。果たし状なんかを送る時に使われるイメージだけど、何が来たのやら。
なになに……差出人は『ブラックオニキス』。黒鬼!? なんでかぐやちゃんに? で、内容は……かぐやちゃんに求婚!? おいおいおいアキラどうしちまったんだ。確かにかぐやちゃんの名前が表に出始めた頃から注目してて俺に布教してくれたりしたけど、え、そんなキャラだったっけ? いや今そんなキャラだわ。割とノリでそういうことしそうだわ。てか本命は乃依だろうしそういうパフォーマンスか。納得。
「アキラがかぐやちゃんに求婚って書いてあるけど……」
「そこもだけどその上!」
上……? あ、見落としてた。アキラってか黒鬼とかぐやちゃんが『KASSEN』で竹取合戦。なるほどね。俺が呼ばれた理由がなんとなくわかった。
「なるほどね。帝とかぐや姫の竹取『KASSEN』対決か」
「そう! で、ノブが助っ人できてくれないかなーって。ほら、ノブちょーつえーじゃん?」
「ごめんね零落くん。忙しいかと思って止めたんだけど、かぐやが『聞くだけタダ』って言って聞かなくて」
完全に酒寄さんが保護者ポジションになっている。いや実際赤ちゃんの状態のかぐやちゃんの世話をしていたらしいし保護者ではあるのかな。
俺は言うべきことを頭で考えてから、すこし間を持って返事する。
「申し訳ないんだけど、俺は参加できない」
「えー! なんでなんでなんで!?」
「こらかぐや、暴れないで」
「なんでなのかは私も気になるな。零落くん、結構かぐやちゃんに肩入れしてるんだと思ってたから」
綾紬さんからも追及される。ちなみに諫山さんは釣りをしている。ただ、釣りをしながらもこっちの話には耳を傾けているようだ。
「実際かぐやちゃんを応援してるけどね。参加できないのにはいくつか理由がある。まず一つ。アキラと『大会以外で対戦しない』っていう約束みたいなのをしてる」
「なるほど?」
「二つ、多分俺が参加すると勝てない」
俺のこの発言はみんな驚いたようで、四者四様の驚き顔を見せてくれた。
「ちなみになんで……? 零落くんが参加してくれるなら、ギリギリ勝負にはなりそうとは思ったんだけど」
遠慮がちに酒寄さんが聞いてくる。断言したのが驚きなのかもしれない。それでも
「勝負にはなるかもしれないけど、黒鬼には乃依がいるからなー。多分やるのは『SENGOKU』だろうし、俺は乃依にはソロの『SETSUNA』以外だと絶対勝てないから」
「あー、接近戦しかできないんだっけ、零落くんの武器」
「そう。まぁ弾くくらいはできるけど、結局乃依に勝つことはできないし。それに、乃依のことを置いといても、俺が参加したら黒鬼はガチ本気で来るだろうからな。遊びがなくなって結局総合力でキツくなると思う」
「あぁー、まぁ納得」
とりあえず酒寄さんは納得してくれたらしい。綾紬さんも酒寄さんが納得したから納得してくれたかな。かぐやちゃんはまだどしどし地団駄を踏んでる。
「最後に三つ。これが一番大きい理由なんだけど、ほらこれ」
俺は
「さっき急にこのメッセージが来たから意味不明だったんだけど、ここに呼ばれてよくわかった。たぶん『この竹取合戦に参加するな』っていうメッセージだったってわけだ」
「あー……これは、直接言われちゃったのか」
「そういうこと。ってことで俺は参戦はできない。ごめんね」
「えー! ヤダヤダ! ノブも参加して!」
その後もヤダヤダと駄々を捏ねていたかぐやちゃんだったが、俺と酒寄さんが宥めることでとりあえず納得はしてくれた。
「ふぅ、さて、参戦はできないけど、手伝えることはある。ってことで、やる気があるならその竹取合戦までの間、『KASSEN』で教えれることは教えられるよ」
「ほんと!? じゃあかぐやとー」
「はい! 私参加する!」
そこで待ってましたと言わんばかりに元気よく手を挙げたのは諫山さんだ。釣竿をもう捨てている。
「えー、真実、さっき帝推しって言ってたじゃーん」
「帝様と対戦できる機会なんてないんだから! 私やりたい」
クラスで見る諫山さんよりだいぶテンションが高いしハキハキしてる。アキラ推しなのは本当っぽいな。大丈夫か不安だけどまぁ平気だろう。
「じゃあかぐやちゃんと諫山さんと、あとは酒寄さんかな」
「あ! 待ってノブ。彩葉は〜その、体調があんま良くないし、死んじゃヤダから……、いやでも、ゲームだし。うーん……優しくしてあげて?」
なんか逡巡がみえたな。というか酒寄さん体調悪いのか。
そう思い酒寄さんの方をみれば、酒寄さんは不用意に自分の体調のことを言ったからか、かぐやちゃんにどついている。
「酒寄さん大丈夫? 体調崩してたのか」
「あー、熱出てたけどもう平気。それよりこの子はなんでそんな簡単にベラベラ喋っちゃうのか……」
「だって、彩葉が倒れちゃったらやだもん」
「この子は……まったく」
心配されてるのがわかっているのか、酒寄さんもかぐやちゃんを見る目が優しくなっている。怒ったり優しくなったり、酒寄さんもかぐやちゃんといると感情がわかりやすいな。
「どっちにしろ俺はそんな厳しく行かないし安心してほしい。そもそも『SENGOKU』はあんまやらないから、黒鬼対策を多少教えるくらいだしな」
「それで十分。ありがとう、零落くん」
「ありがと! ノブ!」
「うおー、がんばろう!」
気合いも十分そうだ。諫山さんもテンションが高くていいね。
「それじゃあ、かぐやちゃんをアキラに渡さないために頑張るぞ!」
「「「おー!」」」
意気込んで、今日は解散となった後、諫山さんが俺に話しかけて来た。
「そういえば零落くん、帝様とどういう繋がりなの? 仲良いの?」
「え、元チームメイトだけど」
「もと、ちーむめいと……? もしかして、ヘビノブって、あの伝説の、乙事照琴とアキラとチームだった……?」
「そうだよ?」
「ひょ、ひょええええええ!!!」
まさかの、オリ主もの書いてるのにオリ主が戦闘参加しないというね。