蛇足物語 作:ロバと子いぬ
三章もそろそろ終わりますね。
「注目のイベントが始まります! 王者ブラックオニキスが、異例の速度でのし上がって来た超新星かぐや・いろPに宣戦、そしてまさかの求婚!」
「帝のfandomは騒然としたみたいですね。まぁおそらくいつものノリでしょう」
「運命を懸けた『KASSEN』が、今ここツクヨミ特撮スタジアムで始まろうとしています!」
俺の横で琴さん──乙事照琴と、忠犬オタ公さんが、マイクを片手に大きな声でスタジアムを盛り上げている。
俺たち三人の足元には観客席が広がっており、超満員の様相を呈している。
「実況は私、乙事照琴が」
「解説は忠犬オタ公がお送りいたします。そして、スペシャルコメンテーターとして、『SETSUNA』公式大会3連覇中のヘビノブさんにもお越しいただいています! ヘビノブさん、よろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
あぁ、なんで俺、ここにいるんだろう。
対黒鬼に向けて意気込んで数日、ヤチヨカップ最終日。黒鬼とかぐや・いろPの対決の日はあっという間に来た。正直互いに時間があまり取れなかったから多くを教えられなかったが、最低限のことは教えたし策もいくつか伝えられた。やれるだけはやっただろう。
ヤチヨカップ終了直前な上、黒鬼が対戦するっていうことで特設ステージが開かれるらしく、俺は一緒にお留守番の綾紬さんと座る場所を確保しに来ていた。
「混み合ってるねー。流石の黒鬼人気だ」
「それもあるけど、かぐやちゃんの人気もあるだろうなぁ。もうファン100万人突破したみたいだし、話題性は抜群だよね」
雑談をしながら空いている場所を探していると、後ろから声をかけられた。
「お、その顔はノブくんか?」
「はい。……え、琴さん?」
声をかけて来たのは、俺とアキラの元チームメイトであり、今は大会の実況解説を主にしている
「なんでこんなところに?」
当然の疑問をぶつけてみた。今回のイベントも琴さんが実況だろうし、そろそろ控え室なりにいそうな時間だけど。
「ノブくんを探してたんだよ。隣はお友達かな? 申し訳ないけど、ノブくんを借りていくね」
「え?」
「あー、どうぞどうぞ。ごゆっくり〜」
待って綾紬さん。ごゆっくりじゃないけど。
綾紬さんの了承を得て、俺の了承は特に得ずに、琴さんは俺を引きずってどこかへ向かい出した。
「ちょちょ、琴さん!? どこへ!?」
「大丈夫。ちょっとコメントしてもらうだけだからさ」
これしばらく戻れないやつだ。
「あや、じゃない、ROKAさん、ごめん! しばらく戻れなそうだから先に席とっといて!」
綾紬さんは何故か笑顔で手を振って見送ってくれた。止めてくれても良かったんだが!
俺はズルズルと引きずられていった。
そういう経緯で引きずられた先がこのコメンテーターの席だ。突然すぎるし、アポとってほしいし、綾紬さんに悪かったし、もう無茶苦茶だ。多分面白そうだからって理由で連れてこられていそうなのが不服だ。
「ヤチヨカップの結果発表も残り一時間ですよね」
「この勝負の結果次第ではかぐや・いろPの逆転もあるか!?」
現在のかぐや・いろPの順位は14位。黒鬼とファン層がそんな被ってるわけではないだろうし、ここで黒鬼のファンを取り込めれば逆転の目もある位置だ。
「ルールは『SENGOKU』。みなさんお馴染み三対三の陣取り合戦です。ブラックオニキスの最も得意とする舞台でもあります! 実況の乙事照さん、今回の勝負はやはり黒鬼有利の戦いになるでしょうか」
「そうですね。『SENGOKU』は黒鬼の主戦場ですし、公式大会連覇中の今勢いに乗っている状態でもあります。ですが、勝負は分かりません! 手元の情報によるとかぐや・いろPチームはコメンテーターのヘビノブくんのコーチングを受けてきたようです。ヘビノブくんはどちらが優勢と思われますか」
琴さんが解説じゃなくて実況なのか……。いや確かにテンション的にそうなるか。とか考えていたら話を振られた。くそう、俺はそういうキャラじゃないんだけどな。
「高い確率で勝つのは黒鬼でしょうね。かぐやちゃんたちにはコーチングはしましたが準備期間が短かったですし。ですが、策は授けたので、100%決まった試合にはならないと思います」
「黒鬼有利には変わらないが、やってみないと勝負の行方はわからないということですね! ありがとうございます」
コメンテーターってこういうのでいいのか? わからない。事前にアポを取ってくれ。
「ところで、会場に黒鬼の姿が見えませんね」
そう忠犬オタ公さんが言ったところで、モニターに映像が表示される。虎バイクに乗った黒鬼の三人が、どこか洞窟のようなところでモブ敵たちをばったばったと斬り倒している。
「ここはどこか! 鬼ヶ島か!?」
琴さんがそんな煽り文句を言ったところで、『SENGOKU』ステージの背景の山が爆発する。そこから黒鬼の三人が飛び出してきた。今日はそういう演出か。黒鬼はイベントやコラボで『KASSEN』対戦をする時はこういう演出をすることがある。派手好きなんだろう。主に乃依が。いやアキラも割と好きか。
「黒鬼、ご来臨〜〜!」
黒鬼の姿がステージに見えたからか、会場から大きな歓声が上がった。やっぱり黒鬼人気はすごい。
三人が虎バイクから降りて、かぐやちゃんたちと向かい合う。虎バイクの虎たちはどこかへと捌けていった。
『どーも、対戦受けてもらってありがと』
キザな表情をしてアキラがかぐやちゃんたちに声をかける。かぐやちゃんと、着ぐるみを着ていて表情は見てえないがおそらく酒寄さんは微妙な対応だ。問題は後の一人だが……。
『あのわ、私、ふぁふふファンでっ』
あ、ダメそう。
諫山さんはアキラのファンだからこうなるかもとは思っていたが、予想以上に重症だ。
それに多分こういう時アキラは……、
『まみ、悪いけど手加減できない』
そう言ってウインクを一つした。ほら、ファンの子相手のファンサは欠かさないのが今のアキラだ。多分ユーザーネームから本名を予想したんだろう。あちゃ〜。
アキラのウインクをモロに受けた諫山さんはクルクルと回って倒れた。
「まみまみさん倒れましたね」
「おっとぉ! かぐや・いろPチーム、試合開始前に一名ダウンだ!」
いや、流石にギャグで倒れただけだよな。
倒れた諫山さんにかぐやちゃんといろPが駆け寄って、何やら食べ物の画像を見せている。そう言えばグルメインフルエンサーか、まみまみ。しかし反応がない。え、反応がない?
『ダメだ。起きない』
嘘だろ。
『ねぇどうする〜?』
かぐやちゃんはそう言いながら諫山さんの服についているメロンパンをむしっている。なんで?
というか試合開始前に本当に一人脱落は聞いてない。今から綾紬さんにチームに入ってもらう? 作戦とかはわかってるだろうけどきついか。俺が行く? それもコメンテーター始めちゃったから諸般に悪いな。どうするんだ。
コメンテーター席で一人頭を抱えていると、かぐやちゃんたちの側に玉手箱が落ちてくる。これはまさかっ!
『じゃっじゃじゃ〜ん! 呼んだ?』
玉手箱から煙とともに現れたのは、スポーティな衣装に身を包んだヤチヨだ。
「おっと! ここでお助けヤチヨの登場だ〜!」
お助けヤチヨは人数が足りない時にたまに来てくれる助っ人だ。ヤチヨ自身もヤチヨカップ結果発表前の最大のイベントだから、盛り上げるために出てきてくれたのかもしれない。
『ええええええええー!?』
酒寄さんはヤチヨの大ファンだったはず。こっちはこっちで倒れないでくれよ。まぁ酒寄さんなら大丈夫か。
『えぇ〜、ヤチヨちゃんが入るの?』
『この前は帝様側についておりましてよ〜』
アキラ側も想定外という顔はしているが、問題はないということだろう。
帝と顔合わせを済ませたヤチヨが、かぐやちゃんといろPに向かって微笑む。
『えへへっ、絶対勝とうね!』
役者は揃った。あとは勝敗を決めるだけだ。
法螺貝の音が鳴り響く。
『試合開始です!』