蛇足物語 作:ロバと子いぬ
トップレーンのヤグラ近く、木製の橋の上で、帝アキラとかぐや・いろPの両陣営は相見えた。
『遅かったな』
人数的に不利なはずのアキラだが、そんな素振りは全く見せず、自信に満ち溢れた表情で二人を待っていた。
『なんでこっちに? ミドルから天守閣にいけばそのまま勝ちだったんじゃないの』
『ブラックオニキスはな、みんなに夢みせなきゃいけねーんだよ』
黒鬼は、アキラはそういう奴だ。もちろん勝ちに行くところは勝ちに行くが、エンターテイメントであることは忘れない。面白いものを好み、面白いものを魅せる。全くもってライバー向きのやつだ。
そういうアキラだからこそ、きっとこの『KASSEN』をセッティングしたんだろう。
残機的にも、状況的にも、この戦いに勝った方が、この『KASSEN』に勝利するだろう。
睨み合っていた両者だったが、語る言葉は尽くしたと、互いの獲物を振るい激突した。
身軽ないろPと、ジェット噴射を利用しながら緩急のある攻めをするかぐやちゃん。それをいなしながら、アキラは的確に反撃を入れていく。いろPもかぐやちゃんも、俺のコーチングでかなりレベルは上がっている。実際にアキラに薄く攻撃は当たっている。だが、決定打にはならない。むしろ受けている攻撃の方が多いだろう。
『くっそ! なんであたんないのー!』
『フェイントを織り交ぜるなんて、新解釈だが……
『いったぁ!』
二戦目に雷にかぐやちゃんの攻撃がクリーンヒットしたのは、向こうの想定にない行動をしたからだ。雷が『直線的で分かりやすい攻撃をする』というイメージをかぐやちゃんに持っていたから出来たこと。その情報を共有されたアキラは、かぐやちゃんのフェイントも勘定に入れて戦えている。先ほどのようにはいかないだろう。
俺が教えられたのはフェイントくらいなので、手がバレた後は、自力で勝ってもらうしかない。
いろPもワイヤーアクションを利用したヒットアンドアウェイで攻めるが、ワイヤーでの移動中に飛び移られて壁へと叩きつけられる。
『くっ……』
そこに並ぶように、弾き飛ばされたかぐやちゃんがダメージボイスを上げながら転がっていく。
『ち〜くしょ〜! だが勝つ!』
かぐやちゃんが、立ち上がりながら横に並んだいろPに笑いかけた。そして、いろPはそれを受けてか、肩の力が抜けたように見えた。
『ねぇ』
立ち上がったいろPが、アキラに声をかけた。
『もしうちらが勝ったら、そっちもお願い、聞いてくれるんだよね?』
アキラは少し驚いた表情をしてたけど、すぐに気を取り直して頷いた。
そういえばかぐやちゃんに見せてもらったアキラからの果し状に、負けたら結婚、勝ったらお願いを聞くとか書いてあった気がする。それの話だろう。
かぐやちゃんといろPは顔を見合わせて頷くと、互いに逆方向に大きく円を描くように走り出す。そして倒れた柱を伝って高台へと上がっていく。
まず仕掛けたのはいろPだ。その手には……かぐやちゃんのハンマーが握られている。双剣で攻められると思っていたアキラは正面から受けてしまい、大きく弾き飛ばされた。
『武器の入れ替えか!』
アキラが着地した先にハンマーが飛んでくる。もちろんアキラは回避するが、背後にいろPの武器を持ったかぐやちゃんがやってくる。そしてハンマーをキャッチしながら、ブーメランをいろPに投げ返した。
お……? よく見るといろPの武器のワイヤーの先がかぐやちゃんのハンマーについている。これは何か考えているな。
いろPは投げ返された武器をキャッチして、双剣状態に変形してアキラへとその片方を投擲する。ワイヤーが伸びている方だ。アキラは回避して、剣は背後の柱へと突き刺さった。
いろPは片手剣となった状態でアキラに詰め寄る。まるで意識を惹こうとしているように。そしてアキラの斜め上後方からかぐやちゃんが大きく振りかぶったハンマーを叩きつける。
だが、アキラは後ろに目がついているように、あるいは予想していたかのように、いろPを軽く転がしてかぐやちゃんの攻撃をかわした。大きく振りかぶったからか、かぐやちゃんのハンマーは地面に突き刺さってしまっている。嘘だろ? 突き刺さったハンマーを抜こうとしているかぐやちゃんをアキラが蹴り飛ばす。
いろPも立ち上がってカバーに行こうとしているが、アキラが銃でかぐやちゃんにトドメを刺す方が早い。遠距離武器でもクリーンヒットならトドメをさせるくらいに、かぐやちゃんにダメージは蓄積している。
『こういう状況なら、彩葉は自分を囮にしてくると思ってた。……ゲームセットだ』
その瞬間、何かがアキラの体に飛来して巻き付いていく。あれは……柱に突き刺さっていたいろPの剣だ。いろPの剣から伸びたワイヤーが、アキラに巻きついていき、アキラを拘束する。
状況を理解したアキラが声を上げる。
『ハンマーにワイヤー……? 囮はかぐやちゃん!』
俺が最初に二人に教えたことだ。『相手に誤認させる』。いろPはわざと前に出てアキラに『自分が囮だ』と誤認させた。あるいは、もともとアキラがいろP……というか、酒寄さんの性格を思ってそう判断したのかもしれない。どちらにせよ、かぐやちゃんといろPは見事に格上の相手に誤認させることができた。俺も正直かぐやちゃん終わったと思っていたから、周りすらも誤認させていた。
そして、動きが止められたアキラは、詰みだ。
『彩葉!』
『かぐやの考えることくらい、わかってるっつーの!』
緑のウルトの輝きに包まれた剣で、いろPがアキラを両断する。
「なんと! いろPが帝を撃破ー!!!!」
「二人のチームワーク、すごすぎるンゴwww」
会場の歓声は大爆発していた。ジャイアントキリングが嫌いなユーザーはいないのだ。実況解説も大盛り上がりである。
衝撃の兄妹である告白から、兄妹の因縁の対決になり、そして、プロである兄を妹が討った。こんなドラマチックな展開はないだろう。明日のネットニュース一面は決まりだ。
『……やりゃあできんじゃん』
崩れ落ちてポリゴンに還元されながら、アキラはそんなことを口にしていた。……アキラは、妹であるいろPに勝ってほしかった……いや、勝ちにこだわれるアキラに限ってそれはないか。俺の参加禁止にしたし。でも、いろPを気にしてこの『KASSEN』を仕掛けたのだろうし、何か満足する結果が得られたのは確かなんだろうな。……よかったな、アキラ。
いろPのもとにかぐやちゃんが走り寄ってくる。
『えへっ、二人は最強!』
『当然』
かぐやちゃんといろPは黒鬼の天守閣へと駆けていく。三戦目は一、二戦目に比べてリスポーンまでの時間が早い。残機が残るのを防ぐためなんだろう。アキラはまだもう一回リスポーンが可能だ。アキラが復活してまた襲いかかってくる、あるいは自陣の天守閣に辿り着かないように急ぐ必要がある。
『彩葉があぶなくなったら、かぐやが助かる!』
『かぐやがミスっても私は置いてくー』
『なんでぇ!?』
そんなやりとりをしながら、二人は駆けていく。いろPが驚くかぐやちゃんを見て、耐えきれないと笑い出し、それを見てかぐやちゃんも笑う。観客席からも『あの二人、なんかいいね!』『応援しようかなー』なんて声も聞こえてくる。
……きっと、前のいろP……酒寄さんだったら、こんな笑い方はしてなかったのかもしれない。学校で見せている笑顔とは全然違う、心から楽しそうな笑顔だ。もしかしたら綾紬さんとか友人には見せていたのかもしれないけど……俺が見ることは無かっただろうな。……きっと、かぐやちゃんが変えたんだろう。羨ましい、けれど、俺にはきっとできなかったことだ。俺は……そんな酒寄さんの笑顔を、ずっと見ていたいと思った。きっと、よりもっと、酒寄さんのことが好きになってしまった。そんな気がする。
おっと、試合はまだ終わっていなかった。かぐやちゃんといろPが黒鬼の天守閣にたどり着く前に、アキラはリスポーンした。アキラが選択したのは、かぐや・いろPの天守閣へのダッシュだった。
復活後即ウルトを起動。ウルトの加速をすべて天守閣からヤグラへのジャンプ台の加速に利用して、一瞬でヤグラまでたどり着くと、そこから地上ビークルで天守閣へと走っていく。理論値に近い移動速度だろう。途中でモブを撃ちながらさらにウルトも溜めている。だが、流石にかぐやちゃんたちの方が速い。
先に天守閣にたどり着いたのはかぐやちゃんたちだ。
『こっからは見てて! かぐや大活躍!』
階段にいるミニオンを蹴散らしながらかぐやちゃんが天守閣へと登っていく。頂上にはすぐにたどり着いた。
アキラは今やっと天守閣が見えたところだ。
『うぇーい! 勝ち確ぅ───え゛!?』
「あ」
ドカーン! と爆発の音が響いた。と同時に、かぐやちゃんが打ち上げられる。
「あーっと!? 雷の地雷トラップだー!」
雷の地雷トラップなどの設置オブジェクトは脱落後も残る……それを失念していただろうかぐやちゃんは、見事に吹き飛んでいった。
『あのアホ!』
そう言いながらいろPが急いでカバーをしにいくが、その隙にアキラはもうかぐや・いろP側の天守閣に辿り着いている。再びリキャストが上がったウルトを使用して、階段を駆け上がっていく。アキラのウルトは2秒しか加速が持続しない、その代わりに、使用した瞬間にリキャストタイムがスタートする。つまり、2秒の間にミニオンを倒しまくれば、即座にウルトを再起動できる。天守閣の階段にはミニオンが大量にいる。それが示すことは……。
「逆転ー! 決まってしまった! 勝者、ブラックオニキスーっ!!」
最後に天守閣で突き上げられたのは、ブラックオニキスのリーダー帝アキラの拳であった。
試合が終わればいつもなら感想戦、なのだが、今日は違う。後ろに大切なイベントが控えてるからだ。
『KASSEN』特設会場のリスポーンエリアにいたヤチヨがいつのまにかいなくなっていた。
『いと大義〜〜』
ヤチヨは上空に現れた。いく筋のスポットライトがヤチヨを下方から照らしている。
優雅に舞い上がるヤチヨが皆の、ツクヨミ中の視線を集めていた。
『と〜っても楽しい『KASSEN』でした! そして今、ヤチヨカップの投票が終わったよ〜! FUSHI! 集計をお願い!』
ヤチヨの肩にいるウミウシ、FUSHIの目が光って画面が映し出される。
『それではヤッチョとコラボる人を発表!』
FUSHIの口からニョキっと巻物が飛び出す。ちょっとキモ……いやかわいいな。うん。飛び出した巻物をヤチヨが見る。
同時にモニターにヤチヨカップ参加者の名前が下から順番に凄まじい勢いで流れていく。
『ヤチヨカップの優勝者は〜〜⭐︎』
とうとう上位が表示されていく。このまでかぐやちゃんたちの名前は、ない。
《三位、テレリリ・ティート・テート》
《二位、ブラックオニキス》
……ブラックオニキスが二位、か。ということは。
ヤチヨを照らしていたスポットライトが、地上の二人を照らし出す。
《一位、かぐや・いろP》
『めでたしや〜⭐︎』
今日一番の歓声が爆発した。観客席からも、かぐやちゃんやいろPへの好意的な声が上がっている。みんなに祝福された、みんなに祝われる、勝ちだ。
「えっ、負けたのに、えっ……やっ、やったああああああ!!!!!」
大喜びするかぐやちゃんと、腰が抜けてしまっているいろPが皆に祝われている。俺もお祝いの輪に加わろうかと思ったが……ここで出しゃばるのは良くないな。
俺が黒鬼との『KASSEN』に参加しなかった理由は実はもう一つある。それは、『下手をするとヘビノブと黒鬼の戦いになってしまう』からだ。そうするとかぐやちゃんたちへ黒鬼のファンが流入しないかもしれない。もし俺が参加していたら、この結果になっていなかったかもしれない。助っ人にヤチヨが出てくれたのも助かったな。二人がさらに映える結果となった。
……二人の勝ちに、少しでも貢献できたならよかった。今日は陰ながら二人をお祝いするとしよう。
そういえば、試合に勝ったけどアキラは結婚は嘘と言っていた。よかったよかった。結局、俺もアキラも同じことをしようとしてたのかもしれないな。ある意味では俺らも似たもの同士なのかもしれない。
……ここからは、クライマックスに向けてハードな展開が待っているかも。この物語を、最後まで見届けてね。