蛇足物語 作:ロバと子いぬ
知らない声がする。
「──転●先で貴●●得る●能は『過去●●●』です。●●に干●し、世●●を●新する。付●して、世●●変●後に貴●が●●すれば記●も●●継ぐ●能も得●す」
いや……違う。知っている。俺はこれを聞いたはずだ。
「こ●●能は全●の事●に●用でき●●が、こ●●能で●●した事●を●●する●とはで●●せん。但●、●●●上で●れ●前の●●を●●する●とで、事実●●能の●用を無●●たこと●する●とが可●●す」
俺がこの世界に来る前に……、姿も思い出せない、《神》から。
「例●●、『●●●●●●●●いう過去』を●●すれ●、貴●の●能による●界への影●●無かった世●●になる●しょう」
《神》からの言葉は途切れ途切れで、何を言っているかはわからない。
「こ●●の●話は貴●の記憶か●は消去●●ます。●すが、必要●時が●●ば復元され●ことで●●う」
記憶、消去……それだけは聞き取れた。おそらく、このことは忘れさせられていたんだろう。
必要、時、復元、ということは、いずれ思い出すのかもしれない。
「……貴●●物語が、良き結●●迎える●とを願って●ます」
意識が、浮上する。
〜〜〜
夢を見ていた気がする。なーんか大切そうな夢。いや、夢に大切も何もないか。夢って大抵忘れるもんだし、そもそも夢って自分の記憶の整理とかで行われるもののはずだから、自分の記憶の範疇の話しか夢に出ないだろ。多分。
最近そんな感じのことを思いながら起きることが多い気がする。夏休みくらいから。なんか疲れてるのかなあ、俺。ゲームしかしてないんだけどな。
ヤチヨカップが終わって、かぐやちゃんと酒寄さんは生活が一変したらしい。それもそうだろうな。一ヶ月前はライバーですら無かった二人が今や一躍時の人だ。案件やコラボの依頼も多いそうで、特にかぐやちゃんは毎日色んな配信に出ている。まぁでもヤチヨカップ中も割とそうだった気がするけど。あと引っ越しもするらしい。まぁ顔バレしててあのセキュリティは怖いよな……。
そんな生活激変中の彼女たちとは違って、俺の生活は変わらない。毎日ゲームをする日々だ。……と、言いたいところなんだが、ヤチヨカップの影響で少しツクヨミ生活に変化があった。
やたらとコーチングの依頼が来るのだ。やれアマチュア大会に出るからコーチングしてほしいだの、コミュニティ大会のコーチをしてほしいだの、挙げ句の果てにプロ仲間からもそういう連絡が来ていた。とりあえずそれはその全てにNoを突き返しておいた。だって俺、現役のプロだよ? 次の大会9月末くらいにあるんだよ? 流石にそんなたくさん面倒は見てられない。というかプロ同士でコーチングを依頼するなよ。
しかし困るのが、Noと返された相手から決まってくる言葉だ。
『かぐや・いろPにはやったのに?』
……これの返答には少し困った。リアルの知り合いだし、応援してるライバーだからコーチングした。と言えればいいのだが、リアルの知り合いであることを明かすのは向こうに迷惑がかかってしまう。それは避けたい。かと言って、『期間が短かったから』とか事実ではあるが本質じゃないことを返してしまえば、短期間のコーチングならいいのか? と思われてしまう。
仕方ないので、『推しだから優遇した』ということにしておいた。俺の外聞は多少悪くなるかもしれないけど、必要経費と捉えるしかない。いつぞや酒寄さんが言った風に言えば、関わってしまったのは俺からだからな。それに、こう言っておけば今後もバリバリ優遇できる。
優遇特権っていうことで、黒鬼とかぐやちゃんたちの『KASSEN』の後も、何度かコーチングを配信でやることになった。前はアキラに見せないために非公開でやったからな。初心者向けの内容も多くあるだろうし、配信としてもウケた。なんか前よりかぐやちゃんといろPの距離が近くなっていた気がするが……気のせいかな?
そんな少し忙しくなった日々をいくつか終えて、今日は『KASSEN』のライバー、プロイベントだ。黒鬼も参加している。
俺はこういうイベントは気分で参加したりしなかったりするのだが、今回はアキラと少し話したいことがあったので参加した。黒鬼は忙しいし、軽い雑談をするために時間をとってもらうのも悪いからな。
このイベントでは、『KASSEN』のゲームモードの『KASSEN』がメインイベントになる。
『KASSEN』は7vs7の殲滅戦だ。プレイヤーは広いマップで、相手のプレイヤーを全員倒すか、相手の天守閣を占拠することを目的に戦う。ミニオンも各チームごとに湧く仕様になっている。『SENGOKU』とは異なり、残機は全員共有になっている。3回まで復活ができるが、復活権は好きなタイミングで使用できる。つまり、強い一人に復活権を全部渡すこともできるし、やられたら即復活もできる。そこは戦略だ。マップ上に相手の位置は表示されないので、遭遇戦になることも多いから、基本的には天守閣の占拠でゲームが決まることが多い。
今回はイベント運営の好意でアキラと同じチームに入れてもらった。アキラと大会以外で敵として戦わないっていう謎ルールを優先してもらえたということだ。ありがたい。
「よっ、アキラ。変わりないか?」
「ようノブ。それ、わかってて聞いてんだろ」
言われて俺はくつくつと笑う。アキラ、というか黒鬼としては生活に特に変わりないのは知ってるが、評判にすこし障りがある。かぐやちゃんたちとの『SENGOKU』が原因だ。最初二戦は明らかに実力差を考慮した戦い方をしていたから問題ないが、三戦目が問題だ。ちゃんとやってちゃんと負けかけている。しかもヤチヨが参加しているとは言え無名のアマチュア相手にだ。これを受けてプロチームのファンの間でプチ炎上というか、黒鬼の評判自体に傷がついたとも言える状況になっている。
「いやー、俺は正直あのままかぐやちゃん達が勝っちゃうかと思ったわ。雷に救われたな。まぁ雷も油断してたとは言え二戦目かぐやちゃんにやられてたけど」
「あれは雷も反省してたから言ってやるなよ。てか、かぐやちゃんも彩葉……いろPも普通に強かったんだけど。お前さ、かぐやちゃんからの『KASSEN』の依頼受けるなって言ったよな」
「だからコーチングで止めといたじゃん。まぁ俺が参加してたら試合もヤチヨカップもあの結果にならなかったかもしれないけど」
「それはそう。お前が参加してたらエンタメできないから」
俺の戦い方は映えないからな。俺じゃ雷と乃依と相打ちもならないし。
「てかアキラ、お前酒寄さんの兄だったのかよ。だから前のスクリムのときかぐやちゃん見てたのか?」
「いや、あの時は気づいてなかったな。あの後声とかが乗ってもしかしてってなった感じ。……てかノブ、お前の方こそその呼び方、彩葉と知り合いか? だからコラボとかもしてたのか?」
やべ、つい普通に酒寄さんって言ってしまった。なんなら目の前のアキラも酒寄さんだ。ミスった。
「あ〜〜、まぁ、クラスメイト」
「は〜、は? クラスメイトってお前。そんな偶然あるか? てかクラスメイトなのにあの『KASSEN』選手権にもでてたのかよお前」
「あれはいろPの正体の確証を掴みに行ったんだよ。あそこまでは俺も半信半疑だったの」
「はぁ〜ん? 本当はどうなんだか」
「ちが、俺は別にかぐやちゃん
「お前……まぁ、いいか」
なんか変な誤解か何かを受けている気がする。誤解を解きたいが、こういう時は変なこと言って墓穴を掘るのがオチだ。話題を変えるが吉。
「アキラの方こそ、なんでかぐやちゃん達に『KASSEN』を?」
「彩葉の様子見、かな。あんま連絡とってないから、元気か〜ってことでな。あとは普通にかぐやちゃんのファンだし」
「それで数字伸ばさせるためにコラボってことか」
「ま、そういう意図もないことはないな。てかそれはお前もだろ、ノブ」
「まぁね。せっかくなら酒寄さんの力になりたかったし」
「……お前、マジか」
なんかまた誤解が進んだ気がする。俺なんか墓穴掘ったか? いや知らん。もう気にしても仕方ない。
「まぁいいや。お兄ちゃんよかクラスメイトの方が頼りやすいだろうし、なんかあったら彩葉の相談とか受けてやってくれ」
「めっちゃ兄貴面じゃん。いや兄貴か。わかってるよ。元からそのつもりだし」
「ああでも、ノブに彩葉はやれないかもなぁ」
「な、なに急に。てか今度は父親面かよ」
「まぁ、父さん死んでるし。実質俺が父親面ってことで」
突然の爆弾カミングアウト。え、父親が亡くなってる? ってことは酒寄さんもってことか。それは……
「それはなんか……ごめん」
「俺はいいよ。あぁでも彩葉にはあんまり言わないように頼むわ。きっとまだ飲み込めてないから」
「わかった。いや申し訳ない。不躾なことを言った」
「いいっていいって」
アキラの表情は明るい。アキラの中ではもう乗り越えたことなのかもしれない。いや、そうとも限らないか。アキラは強いし賢いから、隠せてしまえてるのかもしれない。
……俺なら、その死もなかったことにできる。
「……なぁ、アキラ。もし父親が死んでなかったら、アキラはどうしてた?」
「うーむ、もう結構前だからな。まぁでも、プロゲーマーには成ってなかっただろうな。まぁわかんねえわ。考えた事なかったし」
「そりゃそうか」
「父さんが死んですぐはそりゃ考えたけどさ。起こってしまった事は変えられないし、俺に今出来ることをやらないとって思ったから。……まぁ、それで彩葉と全然連絡取らなくなってたから、良いことかはわかんねえけど」
そう言うアキラの顔は、なんというか、辛い時期を送った人の笑顔だった。
「まぁ今は彩葉も楽しそうだし、そんな『もしも』は意味ないかな。それよりかは、お前との今後の対戦のことでも考えた方が面白そうだ」
「ふっ、なんだよそれ」
「また面白い飛び道具探してっからなー。お前の驚く顔が今から楽しみだわー」
「またかよ。本番で変なもんぶつけんなっての」
そう言って俺達は笑い合った。アキラが酒寄さんの兄なのは驚いたけど、それで何か変わるわけでもない。俺たちが友達なのには変わらない。そう思えた日だった。
イベントは俺とアキラで破壊した。多分俺らは今後このイベント出禁だと思う。