蛇足物語   作:ロバと子いぬ

2 / 29
一章

突然だが、学生は実は割と忙しい。というか、プロゲーマーやりながら学生するのが忙しいっていうべきか。今通ってる高校は割と頭いい方だし、勉強について行くのも結構大変だ。昔に赤点回避とかで勉強のために「無かったことにする」能力をいまくってしまったせいで、勉強ができる感じになってしまったが故の事故でこうなった。普通に失敗したと思っているけど、まぁ勉強できてる方がただゲームしてるよりも心象いいかと思って諦めた。

そんな忙しい学生の俺なんだが、何と今日は夜の時間が久々に暇だ。いつもならゲームするところだが、まぁゲームは仕事としてもしてるし、たまには気分転換としてお茶するのもいいかなと思った。ということで学校から少し離れたところのカフェに来た。

 

突然だが、俺はクラスに好きな人がいる。転生者が何今世の同級生に恋してるんだ、心の歳の差考えろ、と思うかもしれないが、そんなもんだろ! よし。何となく邪念ははらえたな。

好きな人の名前は酒寄彩葉(さかよりいろは)。品行方正、成績優秀、文武両道。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。いわゆる完璧JKだ。みんなが憧れてる存在。例に漏れず俺も憧れた。噂によると学費も自分で払ってるらしい。完璧というか超人かもしれない。学費は俺もプロゲーマーのお給金があるから払えるけど、酒寄さんはそういう活動してるって聞いたことないし、本当にすごいんだと思う。そんな酒寄さんに俺は憧れてるし惹かれてる。

 

で、何でこんなことを突然思ったかというと……、たまたま入ったカフェで、たまたま好きな人がバイトしていた。何を言っているかわからないと思うが俺もさっぱりだ。ラッキー……なのか?

店に入ったところで酒寄さんがこっちにきた。うそん。

 

「いらっしゃいませ〜……あれ、えーと、零落くん?」

「あー、えーと、こんばんは酒寄さん。いや、偶々、本当に偶々入ったんだけど、酒寄さんここでバイトしてたんだ」

 

やばい。突然のことすぎて言葉がうまく出てきたかわからない。

 

「うん。こっち来た時からね。あーごめんね? 友達だからサービスとかはあんまできないかもだけど……」

「いやいや! それはお構いなく。普通にご飯食べに来ただけだから」

 

危ない。気を使わせてしまう。酒寄さんは周りの人に優しいというか、色々やってくれてしまうタイプだろうから、あんまり気にしさせちゃまずいな。

 

「ごめんね。じゃあ、一枚様ご案内しまーす」

 

あぁ、謝らせてしまった。申し訳ね〜。

そのまま案内されて席へ。メニューを見る。と同時に酒寄さんを気づかれないように見る。

木曜の夜だってのに忙しそうだなぁ。あ、他の店員さんがお水こぼした、のを酒寄さんがキャッチした。凄すぎる。完璧超人かな? 完璧超人でした。流石酒寄さん。

チラチラ見ているとバックヤードに行ってしまった。まぁずっと見てても普通に不審者だし、ご飯食べて帰るか。タコライスを注文と。

 

 

タコライスは美味しかった。普通にあの店リピートアリだな。いや、酒寄さんがいるからとかじゃなくてね? 店がね? 良かったからね? と誰に対してでもなく言い訳をしたりして、帰路につく。ご飯を食べたら普通に夜だ。歩いて帰る。今日は暇だし、気分もなんかいいし、少し遠回りしようかな。

 

 

 

やばい。やばいやばい。おそらくバイト終わりで帰宅中の酒寄さんを見つけてしまった。本当に偶然なんです! 俺はやってません! お巡りさん! いや誰にもバレてないけど思わず言い訳してしまった。偶然がすぎるぞ。遠回り万歳。

……ほんの少し、ほんの少しだけあとをつけてみようかな。大丈夫。俺にはチート能力がある。もしバレて通報されても、あとをつけなかった事にすればいい。てか好きな人を見かけたら追いかけるとか普通だろ。よし、理論武装完了。理論になってない気もするけど無かった事にできるから関係ないね!

 

はい。見失いました。ビビって遠くから追いかけてたから普通に撒かれた。いや、超人JKをバレないように尾行するとか考えたらそりゃ距離置くじゃん。普通にバレバレの可能性考えちゃうじゃん。撒かれる方考えてなかったよ。ちくしょー。仕方ない。帰るか……。

 

『俺はどうなってもいいんだヨォー!』『ワオーーン!』『パリーン!』

 

なんか進行方向からガラの悪い声と犬の遠吠えと窓割れる音が聞こえてきたんですけど……迂回しよ。

とりあえず一旦引き返して曲がり角を曲がる。そこには、

 

「あ」

「あ」

 

酒寄さんがいた。しかもその手の中には、

 

「え、赤ちゃん?」

 

そう、赤子がおくるみに巻かれて酒寄さんの腕の中にいる。いや見間違いじゃないよね。てかなんで赤ちゃんを抱いている? え? 超人すぎて神とかから授かってる?

いやでも、酒寄さん汗ダラダラで目が泳ぎまくっている。明らかに『見られちゃまずい』って顔に書いてある。

 

「あ〜〜〜え〜〜〜そう! 親戚の子を預かってて! ごめん! 失礼します!」

 

酒寄さんはそれだけ言って、僕が何か返事をする前に目の前のやや古いアパートに入って行った。

……えーと、色々なことが起こりすぎた。どうしよう。酒寄さんこんなセキュリティ甘そうな家で大丈夫なのかとか、見られちゃまずい赤子を何で抱いてるのかとか、酒寄さんでも焦るんだとか、頭によぎるけど、まず、「無かったこと」にするか。それを考えないといけない。後回しにはできない。後回しにすればするほど、過去が変わってしまうから。

 

俺は迷って……そのままにした。正直打算だ。もしかしたら、これをきっかけに酒寄さんと仲良くなれるかもしれない。完璧JKの酒寄さんの相談相手、友達になれるかも……という。弱みを握ったみたいで気分は良くないけど、キッカケっていうのは捨てたくないと思ってしまったから。

まぁ、明日から三連休だし、もしかしたらそのまま忘れられるかもしれないけど、まぁその時はその時。考えすぎないでいけばオッケー。

 

 

なんにせよ、今日は酒寄さんの知らない一面を見れてなんか嬉しかったな。そう思いながら、俺は気分よく家に帰った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。