蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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五章がやってまいりました。ここからの内容が書きたくてこの小説を始めたので、私はワクワクです。
今回は短めです。


五章の一

最後にアクシデントはあったが、かぐやちゃん、いろPとヤチヨのコラボライブは大盛況に終わった。閉会後もその熱は冷めやらず、その夜はツクヨミ中がコラボライブの話題で持ちきりになっていると言っても過言ではない盛り上がりようだ。

俺ももちろんめちゃくちゃ楽しんだし、今直ぐにでもかぐやちゃんと酒寄さんに『最高だった』と伝えたいくらいなのだが……、事情を多少知っている俺としては、最後のアクシデント──白い異形の襲来は、あまりにも懸念する事項としては大きすぎた。

酒寄さんにメッセージをしてかぐやちゃんの様子を聞くか? いや、そもそもコラボライブで疲れているだろう二人に、これ以上の負担をかけるのも申し訳ないか。

直接どこかで話せると良いけど……。

 

 

コラボライブ翌日の八月三十一日。今日は夏休み最終日……ではなく、九月の一日が日曜日なので、夏休み最終日イブだ。自分で言っておいてなんだけど夏休み最終日イブってなんだ? まぁいいか。

夏休み最終日イブでも、今日も今日とて俺はゲームをする……わけではなく、今日は学校に来ている。夏休み最後の夏期講習があるからだ。と言っても、もちろん俺は勉強目的で来ていない。そもそも夏期講習今年一回しか行ってないし。

目的は酒寄さんだ。酒寄さんと話すために来た。

真面目な酒寄さんならライブ翌日でも学校に来ているんじゃないか。という雑な読みで来たが、俺の読みはなかなか外れないことで有名だからな。もちろん今回も当たったようだった。しかしながら、酒寄さんは来るのがいつもより遅くて、授業が始まる前に話しかけることができなかった。……それに、なんとなく上の空に見える。

 

「……ですので、ここは自分ではどうしようもないという意味になります。また、せ給うという表現があることからここの主語は位の高い人であることがわかり──」

 

授業中に話しかけるわけにはいかないしな。というか別に先生に当てられるかもしれないから俺もちゃんと話聞いてないといけないか。うわ、夏期講習出ないで終わったところを話しかけにいけばよかったな。

ちらりと酒寄さんの方を見れば、酒寄さんは教科書を見ている。いつもと変わらない、か?

 

「……では、ここの訳を酒寄さん。わかりますか?」

 

ほら、こうやって当ててくるんだよな立花先生。俺も話聞いとかないと。

 

「……」

「酒寄さん?」

 

あれ、酒寄さんが即答しないなんて珍しいな。

 

「あ、えっと……わかりません」

 

その時俺に衝撃走る。

あの酒寄さんが『わかりません』と言った……? 初めて見た。そりゃ酒寄さんも人だから凡ミスがあったりすることがないわけではないけど、わからないと言っているのは一度も見たことがない。

やっぱり、ライブで何かあったのか。いや、思い当たるのは一つだ。かぐやちゃんに関連する何かがあったんだろう。そうとしか思えない。なんとかいつも通り夏期講習には来たけど、その何かで酒寄さんの頭の中はいっぱいなんだろうと思われる。

 

「……大丈夫ですよ。じゃあ次に零落くん。わかりますか?」

 

……ん? 待って。酒寄さんのことを見てたら俺当てられた? やばい。えっと、えっと、

 

「はい。えーっと、ここは助動詞らるとあるので──」

 

夏期講習やっぱ出ない方が良かったかもしれない。

 

 

 

夏期講習でも変わらず授業の終わりにはチャイムが鳴る。今日の日程は終わりだ。そこからは学生の夏休みの本懐が始まる。つまり休みだ。

チャイムが鳴り終わって早々に、俺は酒寄さんの元に行く。

 

「こんにちは、酒寄さん。今日はちょっと遅かったね」

「……あ、零落くん。お疲れ様」

 

やっぱり酒寄さんは上の空といった感じで、レスポンスもいつもより悪い。普段の酒寄さんならプロゲーマー並みの反応速度を見せているはずだ。

 

「昨日のライブ、めちゃくちゃ良かった。最高だった。もう本当に言葉では表せないほどに最高だったよ」

「ありがとう。今朝遅れたのはライブの疲れからかな。あはは……」

「それでも変わらず夏期講習に来てるのは、流石酒寄さんって感じだね。休んでも良かったんじゃない?」

 

これは褒めてるのかどうなのかちょっと怪しい言い方になってしまったな。

 

「いやいや、そういうわけにもいかないから」

 

そうはいっても酒寄さん。見るからに集中に欠けてるよ。

 

「……でも、あんまり勉強に身が入ってなさそうだけど」

「そ、そうかな?」

 

……聞きにくいけど、聞かないのも変だろう。ここらでかぐやちゃんのことは聞かないといけない。

だって、酒寄さん、辛そうだから。俺が力になれるならなりたいと思うから。月のことを知っている俺しか、もしかしたら今は力になれないかもしれないから。そう思えば、言葉が出てくる。

 

「……かぐやちゃんに何かあった?」

「……」

 

酒寄さんの表情が固まった。

 

「ライブの最後のアレ……月が出てた。それと九月の十二日、調べたけど、次の満月の日だよね」

「……」

「かぐやちゃんの出自を考えたら、関係ないとは思えない。もしかしてだけど、お迎「零落くん!」

 

酒寄さんに遮られた。

 

「……ごめん。用事あるから帰るね」

「酒寄さん」

「ごめん」

 

それだけ言って、酒寄さんは荷物を直ぐにまとめて足早に教室から出て行った。俺は、止めなかった。

……わからないけど、少なくとも言えるのは、酒寄さんの中でまだ考えが固まっていないんだろう。俺が決定的なことを言いそうになった時にそれを止めたってことは、まだ信じられてないか。あるいは、まだ聞けてないか。

どちらにせよ、まだ俺が踏み込んで良い話ではなかったみたいだ。ミスったな。

前もあったな。かぐやちゃんがかぐやちゃんとわからなかった頃、手伝えることがないかって言って、断られて、その後にいろいろ教えてもらった。今回は全然話は違うけれど、酒寄さんも落ち着いたら連絡をくれるだろう。かぐやちゃんを迎えがくるまで置いておくと言っていたということは、逆に言えばいつか迎えが来るとわかっていたということだ。酒寄さんもそれはわかっていたはずだ。その話をしていた時は、酒寄さんはむしろ迎えを待っているようだったけど……今は違うんだろう。

 

なんにせよ、俺にできることは変わらない。手伝えることがあれば手伝う。こっちからも手伝えることは探すけど、酒寄さんから今はいいと扱われるなら、手伝える時に手伝うだけだ。

今は待つ。しかできない。

 

 

 

 

次の日、夏休み最終日の夜。

かぐやちゃんの卒業と卒業ライブが発表された。

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