蛇足物語   作:ロバと子いぬ

22 / 29
五章の二

今日は九月二日。夏休みが終わり今日から学校が始まる。

 

突然のかぐやちゃんの卒業&卒業ライブの発表から一夜経った。このニュースは瞬く間にツクヨミ中を駆け回り、多くの人に衝撃を与えた。それもそうだろう。わずか1ヶ月と少しでヤチヨの初のコラボライブの相手となり、今やツクヨミにかぐやちゃんを知らない人はいないくらいの知名度となっている。ファンも今となっては数百万人いるだろう。そんなかぐやちゃんの卒業はショックも大きい。

俺もショックを受けた。けど、一昨日の酒寄さんとの会話があったから予想はしていた。かぐやちゃんが月に帰るなら、ライバーも引退しないといけないのは当然だ。ただ、コラボライブでの一件が卒業の理由の一端なら、それから二日経っての卒業発表ということは、おそらく昨日かぐやちゃんと酒寄さんの間で何か転機があったのだろう。一昨日はかぐやちゃんの話題に触れたくもなさそうだったし……。

というか、普通ライバーの卒業はただ『配信者を辞める』というだけだ。ツクヨミにいれば会うこともあるかもしれないし、ツクヨミに来なくなったとしてもこの世界のどこかには居る。特にかぐやちゃんみたいな顔出ししているライバーなら会えることもあるかもしれない。でも、かぐやちゃんの卒業は話が違う。もう二度と会うことができないだろう。俺はそれを知っている。うわ、普通の人よりショックな感じがしてきた。

 

兎にも角にも、酒寄さんのとかぐやちゃんの間で何かがあったなら聞きたい。ちょうど今日から学校もあることだし、真面目な酒寄さんなら来ないことはないだろう。

 

朝のHR前、酒寄さんは夏休み前と変わらないように席に着いている。夏期講習最終日はどこか上の空のようだったが、今日はそんなこともない。普段通りに見える。

 

「おはよう。酒寄さん」

「おはよう。零落くん」

 

俺が声をかければ、夏休み前と同じように、にこやかに反応してくれた。()()()()()酒寄さんって感じだ。

 

「調子大丈夫? かぐやちゃんの件もあったし」

「ありがとう。大丈夫」

 

でも、俺はこの夏休みで酒寄さんのことを知った。酒寄さんは学校では成績優秀品行方正完璧JKだが、少し口うるさいきらいがあって、お金に厳しくて、超人なだけじゃなくて年相応の感性があって、かぐやちゃんに優しくて、そして、かぐやちゃんが好き。そんな酒寄さんが、かぐやちゃんが月に帰るとわかっていて、普段通りな方がおかしいと思う。

きっと、普段通りに取り繕っているのだろう。酒寄さんは真面目だから。あるいは、今までの『普段通り』も無理して作っていたのかもしれない。

 

「……やっぱりかぐやちゃんは帰るの?」

「うん」

 

なんでもないような顔で酒寄さんはそう言った。その姿は、どこか痛々しかった。

 

「酒寄さんはさ、それでいいの?」

「……かぐやがそう決めたから。かぐやの気持ちを尊重したい」

 

無理やり搾り出したような言葉だった。表情こそ取り繕えているのかもしれないが、酒寄さんと関わっている人なら誰でもわかる。無理をしている。

 

「酒寄さん……本当に大丈夫?」

「うん。最初からわかってたことだし、元の生活に戻るだけだから、大丈夫」

 

酒寄さんは最初から『かぐやちゃんが月に帰るまで置いておく』と言っていた。それに、ライバーとして活動した実績は残るかもしれないが、かぐやちゃんが帰っても酒寄さんの生活は元に戻るだけだろう。間違ったことは言っていない。

でも、その言葉は、自分自身に言い聞かせているように見えた。

……間違ったことは言っていなくても、納得できないことはある。

 

「酒寄さんがそう言うならそうなのかもしれないけど……、今の酒寄さん、無理してるように見えるよ」

「え?」

「自分の気持ちに正直になってもいいと思う」

「自分の、気持ち……」

 

これ以上は他人から言われても難しいだろう。酒寄さんが自分でどうするかだ。

ちょうど、HRの始まりを告げる鐘がなった。俺は席に戻りながら、

 

「お互い、後悔はないようにしよう」

 

それだけ言った。

……俺も、自分の気持ちと向き合う必要がある。酒寄さんへの想いと。

 

 

 

 

その日の夜、晩御飯を食べてゲームをして少し休憩しているときに、酒寄さんからついさっき連絡があったことに気がついた。

『ごめん。全然大丈夫じゃなかった。このあとツクヨミに集まれる? 皆にもかぐやのことを話して、何かできないか相談したい』

っていう内容だ。きっと、酒寄さんが自分の気持ちに向き合った結果なのだろう。かぐやちゃんの出自という、二人だけ(かぐやちゃんも入れて三人だけ)の秘密を皆んなに伝えるのは、ちょっとなんというか、少しだけ嫌な気持ちもなくはないんだけど、そんなどうでもいい俺個人の感情は今は考える必要はない。すぐに了解の連絡をしてツクヨミに入る。

 

ツクヨミに入れば、既に酒寄さんからプライベートスペースへの招待が来ていた。すぐに承諾して移動する。

 

移動した先はツクヨミの屋外ミーティングルームだった。俺がついた時には酒寄さんの他に先客が五人もいた。諫山さん、綾紬さんと、

 

「おせーぞノブ」

「俺たちより遅いとか、ヘビノブも偉くなったね〜」

「(無言で人差し指と中指を立てる)」

 

黒鬼の三人だ。三人ともすごい忙しいと思うんだが、かなり急な呼び出しにも関わらず酒寄さんの元にきていた。流石、アキラはお兄ちゃんだな。それと乃依はどの視点から言ってるんだ。しかし俺が遅いのは事実。

 

「ごめん、ゲームしててさっき気がついた」

 

本当のことを言って謝罪しておく。正直に言ったところで遅れた理由も悪い気がするけど、嘘をつく理由もない。

 

「ううん。急に呼び出したのは私だから」

 

酒寄さんがそう言ってくれたおかげでそれ以上言葉で責められることはなかったが、乃依からは非難の視線が飛んできている。ごめんて。

 

「これで揃ったか?」

 

アキラがそういうと、アキラの横でドロンッと煙が破裂した。煙が晴れると中から人影が現れた。

 

「おまたせ〜⭐︎ ヤッチョも来たよ!」

 

ヤチヨだ。ツクヨミの管理人であるヤチヨなら、この前のかぐやちゃんを襲った白い異形についても調べがついているのかもしれない。色々話も聞けるだろうし呼び出したのだろう。

 

これで全員揃ったのか、酒寄さんが話し始める。

 

「みんな、突然の呼び出しに応じてくれてありがとう。みんなに話したいこと……話さなきゃいけないことがあって、ここに呼びました」

「かぐやちゃんのことか?」

「うん。信じてもらえるかはわからないけど……みんなの力を借りたい」

 

そこから、酒寄さんの告白が始まった。

かぐやちゃんが七色に光る電柱から生まれた子であること。

かぐやちゃんが月から来た宇宙人であること。

かぐやちゃんが次の満月にツクヨミに迎えが来て月に帰ること。

 

概ね前に聞いた通りの話だった。七色に光る電柱から生まれたのは聞いてなかったが、数日で今の姿に成長したのも知っているから今更生まれがどうこうで驚くこともない。いやそんなこともないな。なんだよ七色に光る電柱って。ゲーミング電柱とか電気の無駄遣いだろ。

俺のそんな心の中のツッコミとは裏腹に、横でアキラは

 

「電柱で生まれた……わかるっ!」

 

とか言っている。何がわかるんだ? そりゃかぐやちゃんは破天荒だったけども。

 

一笑に付されてもおかしくない話であるように感じたが、

 

「築地生まれじゃなかったんだ!」

「海行っても肌真っ白だったもんね」

「月のプリンセス……わかるっ!」

 

と、それぞれ納得できる部分もあったらしく、すぐにみんな信じていた。酒寄さんの人徳もあるだろう。雷と乃依は基本リーダーのアキラに従うので、アキラが納得しているなら良いって感じだろう。

 

 

「ヤチヨ、かぐやを守ることってできないかな」

 

そこまでダンマリを決め込んでいたヤチヨに酒寄さんが尋ねる。ヤチヨはツクヨミの管理人だ。ツクヨミ内に迎えが来るならば、保護することや、あるいは月からの使者のアクセス元がわかれば遮断することもできるだろう。

 

「調べてみたけど、どこからアクセスしてるかもわからなかったんだよね。ごみん」

 

できないらしい。管理人でもわからないとなると、相手はあんなツクヨミなんてものを作るヤチヨよりも高度な能力を持っているのかもしれない。そうなると、保護しようにも相手の方が上手な可能性もある。それも難しいだろう。

 

「じゃあ、ライブも中止して、かぐやちゃんが一生ツクヨミにログインしないっていうのはどう?」

 

綾紬さんがそう提案する。確かに、ツクヨミに迎えが来るならツクヨミに入らなければ良い話ではある。だけど……

 

「それも考えたんだけど……。元々電柱から生まれるような存在だし、ツクヨミに入らなくても強引に現実からログアウトさせるように攫って行くと思う」

 

管理人が保護するのもできない、現実で保護するのもできない。一見八方塞がりのように見える。けど、俺にはもっと簡単な方法が浮かんでいる。横を見れば、アキラも同じ考えのようだ。

アキラと目が合う。互いにフッと笑みが溢れた。

 

「相手が現実では手出しできないなら、ツクヨミで追っ払えば良いんでしょ?」

 

俺とアキラ以外は思いついてないなかったのか、ハッとなってアキラの方を見た。

 

「なんだよその顔は。そのために俺らを呼んだんだろ? 任せとけって。宇宙人だろうがなんだろうが、ツクヨミに入ってくれるなら好都合だ。ここなら俺らが一番つえーし。力ずくで叩き潰せば良い。な、ノブ」

「そういうこと。向こうがどんな高度な文明を築いてるかは知らないけど、ツクヨミの中なら負けないでしょ」

 

酒寄さんは呆れたような、でも決意を秘めた顔をした。

 

「……私もやる。何ができるかわからないけど……、お願いします」

 

そうして、俺たち皆んなに頭を下げた。

 

「じゃ、準備だな。乃依」

「え〜あれ? めんどくさ」

「リーダーは絶対」

「はいはい」

「ノブもちょっと来てくれ」

「ん、了解」

 

なんだか知らないが、黒鬼は動くと決まれば即行動をする。準備に何かするのだろう。俺も呼ばれたし、そちらに行くか。

と思ったら、意外な人物に引き止められた。

 

「あ、ヘビノブ。後でヤッチョの所にもちょ〜っと顔を出してくれる?」

 

ヤチヨだ。ヤチヨに対して何かをした覚えはないけど……まぁ何か俺に用があるのはそうなんだろう。この流れからしてかぐやちゃんに関する何かが。本当に心当たりはないけど。なんかコーチングでミスったか?

まぁいい。後でと言われたし、とりあえずアキラの方に行く。と、その前に。

 

「いろP」

 

本名は一応避けて呼ぶ。名前はかぐやちゃんのおかげで大公開されてるけど名字はされてないからな。俺が名前で呼ぶのもちょっと馴れ馴れしいし。

 

「これが、君の正直な気持ち?」

「……うん!」

「じゃあ、絶対守ろう」

 

それだけ告げて、俺はミーティングルームを後にして、アキラの元へと移動した。




余談ですが、この作品には私の思想がいくつか含まれており、そのうちの一つをオリ主にも反映させています。

それは「思いを言う」です。
超かぐや姫って、言わない。言えない。言いたくない。が結構大事な作品だと思っています。もちろんそれは美しい。けれど、思いを伝えるということは、時には不適切であっても、大切なことだと思っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。