蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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短めです


五章の四

プライベートルームへの招待を受けてワープする。管理者のヤチヨ以外がワープする数少ない手段がこのプライベートルームへの移動だ。

 

招待を受けた先は、先ほど酒寄さんが皆を集めていた屋外ミーティングルームだ。他のメンバーは解散したのか、そこにいたのは柵に寄りかかって外を眺めているヤチヨだけだ。

正直ヤチヨに呼び出される理由が何も思いついてないので、ちょっと怖い。偉い人や大人の人に呼び出されたらまず叱られるのを想像するのが男子高校生なのだ。まぁ俺は人生二週目だけど。いやでも、精神年齢は体に引っ張られているので結局怖いものは怖い。

とりあえず怒られるかもしれない時はまず機嫌を伺うのが定石だ。ヤチヨの機嫌が悪いところは見たことないが、それはもし機嫌が悪かったらありえないくらい怒られることが確定する。その場合は腹を括るしかない。

 

「よっ、来たよ」

「おやおや〜ヘビノブ。待ってたよ」

 

そう言って振り返ったヤチヨは、肩にFUSHIを乗せて笑顔を湛えていた。よかった。とりあえず表情は普通かそれ以上だ。いや、ヤバいくらいキレてて笑顔の可能性もあるか……。

とりあえず別の話題で様子を見よう。

 

「待たせちゃったか。アキラとの話がちょうど終わった頃に招待が来たから、こっちの様子を伺っているのかと思ったよ」

「いやいや〜。プライベートなお部屋はヤッチョといえども見ませんとも。聞くなら堂々と行ってたよ。タイミングはそうだね、ちょうどこっちのお話も終わったところだったというわけなのです」

「管理人といえどもそりゃそうか。プライバシーを守ってくれててよかったよ。こっちは何の話を?」

 

機嫌は悪くなさそうだ。よかったよかった。

 

「彩葉からね、『かぐやの卒業ライブのプロデュースをして欲しい』ってお願いをうけたんだよ。もちろん、お任せあれ〜の一言で承ったわけさ」

「なるほどね。さk……いろPらしいよ。そういえば、こっちの話でも礼があった」

 

危ない。普通にヤチヨが酒寄さんのことを『彩葉』って呼ぶから、こっちも酒寄さんって呼びそうになった。というか何でヤチヨはいろPじゃなくて彩葉呼びなんだ。プライバシーを守ってるのはどこいったんだ。いいけども。

 

「おやおやなんだい?」

「アキラからチートを使用するかもしれない話は聞いたんでしょ? それだよ。俺も一枚噛むことになったから」

「なるほどなるほど。まぁ、ヤチヨはその戦いに参加できないことになってるからね。それくらいはやらないと」

「え? ヤチヨは月の奴らとの戦いに参加しないのか」

 

意外な話だった。ヤチヨは酒寄さんに協力的だし、『KASSEN』の実力も総合的に見たら世界で一番強いといっても過言じゃないだろうし、てっきり俺は参戦するものだと思ってたんだが。

 

「そういう運命だから」

 

そうヤチヨは苦笑いした。……楽しそうじゃないヤチヨの笑顔は初めて見たかもしれない。ヤチヨのその答えは何の回答にもなっていないけど、そんな笑い方をするんじゃ、責めることも追及することもできない。

 

「そっか」

 

そう返すことしか俺にはできない。

 

 

「ヤチヨはさ、なんでいろPに協力するんだ?」

 

その代わり、別の疑問が口をついて出た。

ヤチヨはツクヨミの管理人だ。分身もできるし、今こうして俺と話している間も分身して別の場所で活動しているのかもしれない。でも、ここまで誰かに肩入れすることは珍しい、気がする。そうでもないのか? いや、ここにはFUSHIまで連れてきているし、やっぱり特別に肩入れしている気がする。

そんな思考がよぎった上での質問だった。

 

「う〜ん、そうだなあ」

 

ヤチヨは腕を組んで小首を傾げ、考え込むポーズをした。考えるようなことなのか?

 

「まぁ、ノブになら話してもいいか」

 

そう、ヤチヨは小声で言った。

 

そして、そう言われてふと思い出した。

そうだ。ヤチヨは最初から俺のことを『ヘビノブ』と呼んでいたわけじゃなかった。一番初めにちゃんと挨拶をした時、ツクヨミがリリースされて少し経った頃の管理人のヤチヨ主催の大会。そこで俺が優勝して、初めてヤチヨと話した時、ヤチヨは確か、俺のことを『ノブ』と呼んでいた。でも次に会った時からは『ヘビノブ』呼びになっていたから、今まで忘れていたけれど……今、久しぶりにそう呼ばれて思い出した。

いや、今はそれはいい。話してくれるというなら聞こう。

 

 

「理由はね、彩葉とかぐやが大切だからだよ」

 

ヤチヨは、大切なものを抱えているかのようにそう言った。

儚くて、優しい笑顔だった。

 

「もちろん、ヘビノブや、アキラくん、乃依ちゃに雷くん、芦花に真実も大切。ツクヨミに来てくれるみんなが大切だよ? でも、彩葉とかぐやは特別に大切なの」

「それは……どうして?」

「ふふ、内緒なのです☆」

 

流石に教えてはくれないか。でも、少し意外だった。ヤチヨにも特別がいるんだな、と思った。ヤチヨって人間離れしてるし、そもそも分身とかするし、みんなに平等なAIだと思ってたから、特別枠があるのは意外だし、なんとなく親近感が湧いた。

 

「ああでも、強いていうなら……そうだね。彩葉とかぐやは、()の夢なの」

「夢?」

「夢見たものでもあり、夢に見るものでもある」

 

ヤチヨの表情は笑顔だが、その内に内包する感情は読み取れない。

それに、内容も難しいことを言う。抽象的で、正直よくわからない。わからないように言っていると言う部分もあるんだろうけど……俺がヤチヨのことを全然知らないから、そうとしか受け取れないだけなんだろうな、とも思う。

俺が首を傾げていれば、ヤチヨは俺の反応がおかしいのか、ふふと笑った。

 

「難しかったかな? ヤッチョはやっぱりミステリアスな乙女だからー、秘密がいっぱいなのです。今の話も、みんなには内緒だよ?」

「わ、わかった。内緒にしておく」

「うんうん。よろしくね〜☆」

 

先ほどまではいつもより優しいと言うか、割れ物のような雰囲気を纏っていたヤチヨだが、今はいつも通りの調子に戻っていた。おちゃらけていて適当なことを言っているいつものヤチヨだ。……いつもの状態の評価が変だけど、まぁいいか。

 

 

「さて」

 

いつもの様子に戻ったヤチヨだったが、今度は一転、真剣な面持ちになった。

 

「そろそろ本題に入ろうか。実は〜、ヘビノブにも質問をしようと思ってここに呼び出したんだよ。ヤッチョの秘密も教えたし、次はヘビノブの秘密を教えてもらおうかな〜?」

「え、俺の秘密? 別にヤチヨに隠していることは思いつかないけど」

 

俺の秘密俺の秘密……なんだろう。『KASSEN』全部でウルトを使わないようにしていること? いや、別にそれは秘密でも何でもないし、ただ俺が使いたくないだけだしな。良く思われてないとかならありそうだけど。

あとはヤチヨが特別扱いしてるって言う酒寄さんとかぐやちゃんのコーチングをしたのももしかして不味かったりしたか? かぐやちゃんの出自はヤチヨも聞いていたし、今更秘密にしていたことを責められるとも思えないけど。

うーん、特段ヤチヨに対して秘密にしているようなことは思いつかないな。

 

「ヤチヨは腹芸とかそういうまどろっこしいやり方は嫌いだからさ、単刀直入に聞かせてもらうね?」

「えっと、うん。俺に答えられることなら答えるよ」

 

それはよかった、とヤチヨはいう。そして、どういうべきか悩んでいるのか、少し考える姿勢を取ってから、ヤチヨはこう切り出した。

 

 

 

「ヘビノブ……君は一体、何者なのかな?」

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