蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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五章もそろそろ半分くらいは書きたいこと書きましたかね。いやぁ、本文を書けば書くほどプロットが音を立てて崩壊していきます。助けてください。


五章の五

「君は一体、何者なのかな?」

 

ヤチヨはそう尋ねてきた。その表情は、どこか超然的で人間離れした雰囲気を纏っていた。答えに間違えれば、何かされてしまう。そんな感覚がした。

……これはいろいろ意味が考えられる質問だ。抽象的だし返答に困るが……、俺に直接、ツクヨミの管理人が、二人きりの時に聞いてきている。その意味を考える必要はあるだろう。

とりあえず、質問の意図を尋ねる必要があるし、すっとぼけるか。

 

「えっと? ヤチヨも知っての通りプロゲーマーのヘビノブだけど」

 

ヤチヨももちろん知っていることを言ってお茶を濁す。これで避けれればいいけど……。

 

「あはは、それは知ってるよー。本名は零落信秀。2014年1月27日生まれ。出身は東京都立川市で一人っ子。現在東京都立川市曙町×-×-××で一人暮らしをしている。。東京都立武蔵川高校二年三組。高校では友人にヒデと呼ばれている。小学生の時からアマチュアのゲーム大会で優秀な成績を残し中学二年生で異例のプロデビュー。現在でもプロゲーマーとして活動している。ツクヨミにはリリース2週間後に初ログインした。でしょ?」

「ヤチヨ、プライバシーって知ってるか?」

「ヘビノブもツクヨミの利用規約って知ってる? 運営が必要と判断した場合は、収集した情報は使うって書いてあるよ☆」

 

この管理人……まぁ別に他の人がここにいるわけではないからいいけども。住所とか経歴とかツクヨミの中じゃ調べようもないであろうことまで知ってるのかよ。特に高校での呼ばれ方を知ってるのはあまりにも怖すぎるよ。どうやって調べたんだ。

 

……とりあえずヤチヨは、俺の基本的なプロフィールはほとんど知っていると判断して相違ないだろう。住所や高校まで知っているというのは、つまるところいつでもお前の場所に乗り込めるぞ。と言っているようなものだし。

じゃあ、ここまで俺のことを調べてあるヤチヨが聞きたいことはなんなのか。『何者だ』というのはどういうことなのか。正直、心当たりは一つしかない。俺が明確に他の人たちと違う部分、それは、

 

俺が、転生者であることだ。

 

俺は別の世界から転生して生まれ直した転生者だ。といっても、この世界と元の世界は歴史もほとんど同じだし、この世界のほうがスマコンという技術がある分文明が進んでいるなー、と思う程度の違いしかないけど。でも別の世界から来たことは確かだろう。

事実として、俺は『物事を無かったことにする』というチート能力を持っている。これが何より転生者であることの証拠だ。

 

疑問なのは、ヤチヨがどうやってそのことを知った……というより、俺が何かしら他の人と違うという疑念を抱いたのか。それがわからないことだ。俺に直接聞いてきたということは、何か確信のようなものがあるのだと思うけど、そんな変なことはした覚えがない。転生者だからと言って、別に俺はこの世界の未来を知ってるわけでもないし、この世界の物語とでもいうべきか、そういう部分を知っていて干渉したわけでもない。俺が転生者である証拠のチート能力も、ヤチヨと会ってから使った覚えはないし……。

 

俺が考え込んで黙っていると、痺れを切らしたのかヤチヨから再び声がかけられた。

 

「ヘビノブも、ヤチヨがそういう普通のプロフィールのことを聞いているわけじゃないってわかっているでしょ? さっさと吐いちゃいなよーほらほら」

「そんなこといわれてもな」

「うーん強情だなぁ」

 

強情と言われても……正直、俺が転生者であることをヤチヨに公開してもいいものなのかかなり悩んでいる。今まで誰にもこのことは話したことはないし、話すつもりもなかった。話しても意味不明だと思われるだけだし。俺のチート能力だって、他の人に話しても意味はないし。なぜなら、他の人は俺が『無かったこと』にしたことを()()()()()()から。俺の能力で『無かったこと』になった物事は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。覚えているのは俺だけになる。だから俺が赤点を取ったのも俺しか覚えてないし、記録もない。俺しか知らない過去だ。

 

()()()()()、ヤチヨがなぜ俺を怪しんでいるのかがわからない。わからないからこそ、ヤチヨに公開してもいいものなのか悩んでいる。ヤチヨはさっき本人も言っていた通りミステリアスで、謎も多い。というかわかっていることの方が少ない。ヤチヨの目的が読めない。

 

 

「そうだなあ。じゃあもっとわかりやすく、イエスかノーで答えられる質問にしようか」

 

俺が答えに窮しているのを察してか、ヤチヨは次の一手を打ってきた。イエスかノーで答えられる質問。つまり、もう逃げ道はない。

 

 

 

「ヘビノブ、君は……いや、()()()()()()()のかな?」

 

「へ? 月から?」

 

思っていたものと全然違う質問で、思わず聞き返してしまった。あれ、ヤチヨは俺が転生者だって気づいているわけじゃないのか? いや、俺の生まれまで調べてるなら普通に人から生まれてきたこともわかっているはず。じゃあ、月から人の元に転生してくることがあるってことか? かぐやちゃんは電柱から出てきたらしいけど。なおさら訳がわからなくなった。いやでも、その質問なら明確に

 

「いや、普通に地球生まれ地球育ちだけど」

 

と答えられる。

 

その返答が意外だったのか、ヤチヨは目を丸くしてパチクリと瞬きをいくつかした。

そして十分時間をとってから、ヤチヨは再び質問をしてきた。

 

「え、ノブは月人じゃないの?」

「月にはこれっぽっちも関係ないね」

「本当に?」

「うん。誓って本当」

「……ノブが生まれた頃に世界線が変わったはずなのに

「え? なんて?」

「わわー! なんでもないのです!」

 

大きな声を出されて誤魔化されてしまったけどなんか言ってたよな? おそらく根拠となる何かがあるんだろうけど、それを聞き出すのは難しいか。

とりあえず、ヤチヨはなんらかの根拠があって、俺のことを月から来た存在だと思っていた。だから俺だけを呼び出して、それを確認しようとした。ってことか? ……結局、なんで確認しようとしたかもわからないな。そっちは聞いても文句は言われないだろう。

 

「ヤチヨは俺のことを月の住人……月人って言ったか。それだと思ってたわけだ。だからそれを確認したかったのか? 何のために?」

「……そうだね。ヤチヨの知る限り、君は()()()()()()()()()()()()のはずだから、君が何のために彩葉に近づいているのか知る必要があったの。もちろん、君が彩葉のことが好きなのは知っているけれど、それが真の理由とは限らない。もし彩葉の妨害をするつもりなら、何としても止める必要がある」

 

なんなんだ。俺の周りの奴らはみんな俺が酒寄さんのこと好きなの知りすぎだろう。そんなにわかりやすいのか? そんなはずないんだけど。

それより……『本来この運命にいない存在』、か。それはそうだろうな。

 

「なるほどね。事情は何となくわかった。それに、ヤチヨの懸念はある種正しいよ。だって俺、転生者だもん」

 

さっきまで伝えるかを悩んでいたのが嘘のように、さらりと言葉が出た。何故かって言ったら、ヤチヨの態度があまりにもしおらしくて、とても酒寄さんを害そうなんて考えているように見えなかったからだ。

俺が正体を隠そうとしたのは、ヤチヨの目的が俺たちと反対だった時、つまり『月にかぐやちゃんを返す』のが目的だったら、俺のことは隠したほうがいいと思ったからだ。実際ヤチヨは月との戦いに参加しないつもりらしいし、十分あり得ると思っていた。でも、ヤチヨの顔を見ればその懸念は無くなった。だからすぐに言葉が出てきたんだろう。

 

俺の言葉に、ヤチヨはまた目を丸くしてフリーズした。AIらしく(本当にAIかは知らないけど)、予想外の情報を処理するときはフリーズするらしい。

また少し時間が経ってからヤチヨは動き出した。

 

「転生、者? それって、漫画やラノベみたいな?」

「そう。といっても別にこの先の未来を知ってるわけでもないし、この世界も元の世界もあんまり変わらないけど」

「……むむむ、なるほど。……それなら説明がつく、かな」

「納得してもらえた?」

 

ヤチヨは今度は顎に指を当てながら目を瞑っていろいろ考え込んでいるようだったが、恐る恐るこちらに向き直ると、

 

「じゃあ、ノブって本当に、彩葉のためだけに……?」

「……そんなにわかりやすいかな、俺」

「よよよ〜。本当にごめんね〜;;」

 

泣きたいのはこっちなんだが、まぁいい。別に他に人もいないし、酒寄さん本人に聞かれたわけでもない。……この分だと本人に気づかれてそうでちょっと嫌なんだが、考えないようにしよう。

 

 

 

「えっと、聞きたかったのはこれだったのかな?」

「うん! ごめんね〜ヘビノブ。時間を取らせちゃって」

「それは大丈夫。でももう遅いから落ちようかな」

「あぁ、それなら最後に一つだけ、いいかな?」

 

おまけのように、ついでのように、ヤチヨの口から言葉が紡がれる。

 

 

「戦争を無くしたのもヘビノブなの?」

 

その質問に、俺は少し押し黙ってから、

 

 

()()()()()?」

 

と返した。

 

「……そっか。遅くまでごめんね? おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

 

ヤチヨはいつもの笑顔で俺のことを見送った。その笑顔を見ながら、俺はそのままツクヨミからログアウトした。

視界が移り変わる最中、ヤチヨの肩のFUSHIからの視線が鋭く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

俺以外の人間は、俺が『無かったこと』にしたことを覚えていない、というか、覚えるも何もなく『無かったこと』になっているはずだ。だが、ヤチヨは()()()()()()()()()()()()()()()

……これが何を意味しているかは、正直わからない。だが、俺の中にヤチヨへの疑念が生まれてしまった。わかっていたことだが、まだ何かをヤチヨは隠している。それも重大な何かを。だから、俺は知らないふりをした。

ヤチヨの考えはわからない。だが、俺の能力を伝えるのは危険だと判断した。

 

 

──この選択がどんな結末をもたらすのかを、この時の俺はまだ知らない。

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