蛇足物語 作:ロバと子いぬ
今回は(も)迷走。本当に、文章書くの上手い人にこの作品書き直してほしい。
かぐやちゃんの卒業ライブまであと一週間となった。こんなにも大事が控えている感覚なのに、その大イベントまでの日々は実はいつもとあまり変わらない。まぁ俺のことじゃないしな。
俺側でいつもと違うことと言えば、まずは自分が所属しているプロチームのオーナーに、かぐやちゃんの卒業ライブで演出としてチートを使うかもしれないことを説明し、そのあとスポンサーの方々にも説明しに行ったくらいだ。
正直オーナーからもスポンサーからも許容されないと思っていたのだが、ツクヨミの管理人の許可を得ていることが大きかった。ヤチヨ本人にも確認してもらったことで何とか話はつけられた。前科もつかない、管理人も許可しているなら問題にはならないと判断してくれたようだ。良かった。まぁ許可が取れなかったらチームを辞めるだけなんだけどね。
さて、俺の日々はいつもとそんなに変わらないが、かぐやちゃんは違う。ライブに向けて最後かもしれない日々をゆったり過ごしている……なんてことはなく、超多忙のようだ。
それもそのはず。今やかぐやちゃんはツクヨミに知らぬものはいないと言っても過言ではない大スターだ。なんせヤチヨと唯一コラボライブをしたライバーだから。ヤチヨを知らない者はツクヨミにいない、そんなヤチヨとコラボした、ならば知らぬ者はいないだろう。という論法だ。
そんなかぐやちゃんが卒業、つまり今後表舞台に顔を出さないとなれば、企業もライバーもこぞってかぐやちゃんにアプローチをかけるのは必然だ。だが、かぐやちゃん側は、そのほとんどを断っている。
その理由として、かぐやちゃんの卒業の本当の理由をファンにはもちろん、他のライバーなどの関係者にも明かしていないことがある。信じられない話であることももちろんだし、かぐやちゃん自身が大々的に公開するつもりがないようだ。
結果的に、かぐやちゃんは『挨拶回り』ということで、世話になったライバーとのコラボや、企業の案件を受けたりしているようだ。それでも、何でもやってきたかぐやちゃんだから顔も広く、多忙な中何とかやっているようだ。
というわけで、今日はその挨拶回りの俺の回だ。
「ということで、もうすぐ卒業するかぐやだよ〜! ノブ、今日もよろしくね」
「なんか軽いね。よろしく」
かぐやちゃんの様子はいつも通りに見える。何気にかぐやちゃんと顔を合わせるのはコラボライブの前以来だから、もしかしたらめちゃくちゃ人当たりが変わってたりするかもしれないと思ったが、そんなことはないようだ。
いろPは今日はいない。なんでもかぐやちゃんの卒業ライブの曲を作っているらしい。まだタスクが増えるのか酒寄さん……。
「今日のコラボ内容なんだけどー、やっぱりかぐや卒業するわけだし、最後にどこまで強くなったか知りたいんだよねー」
「ほうほう」
「ってことで、今日はノブとガチ勝負! 十本勝負でどう?」
今までのコラボは基本的に俺からのコーチングが多かった。実戦もやったが、軽い打ち合いや教えたことの復習って感じで、ガチの勝負はしていない。
「大きく出たね。かぐやちゃんもかなり強くなったし、俺との実力差はよくわかるようになったでしょ?」
「まぁねー。じゃあノブはいつも通り素手縛りでどう?」
「ふむ。それならいいかな。……最後かもしれないし、俺から一本くらい取って見せてほしいね」
「むふふー。見ててよね」
じゃあ早速やろうか。と言って配置につく。かぐやちゃんも反対側に立つ。今回はいつも通り公開生放送なので、観客もかなり多く入っている。もちろん実況席にはオタ公さんもいる。この人かぐやちゃんの配信にいつもいるな。
かぐやちゃんはいつも通り竹で出来たハンマーを構える。俺も拳を構える。いつも通りの素手縛り、だが、かぐやちゃんと手合わせできるのはこれが最後かもしれないと思うと、拳に力が入る。……いや、最後にはさせない。そう決意も新たにできる。
緊張が高まっていく。観客たちにもそれが伝播していく。こんなにガチの勝負は久々だ。
『レディ、ファイト!』
開戦の合図が響く。俺とかぐやちゃんは同時に飛び出した。
手の内は互いに大体割れている。かぐやちゃんに教えたのは俺だし、俺でも素手なんて手数は高が知れている。となれば、あとは
「うりゃ〜!」
飛び出してきたかぐやちゃんが、大きく上段からハンマーを振り下ろそうとする。それを読んでいた俺は、間合に入る直前で急制動をかける。俺の鼻先をハンマーの軌道が掠めていく。空ぶったところにすかさず攻撃……をしたいところだが、ここではまだ踏み込まない。なぜならまだかぐやちゃんの攻撃は続いている。かぐやちゃんは振り下ろされたハンマーの軌道を強引に横に曲げ、そのまま横向きに回転してもう一撃を放ってくる。
「よっ!」
「おっと」
先ほどよりもリーチの長い攻撃だ。後ろに一歩引いて俺はかわした。攻撃しようと踏み込んでいたら喰らっていたな。危ない。
だが、ハンマーを振り抜いたところはどうしても隙になる。そこを攻撃する。
無理な体制で連撃をしたかぐやちゃんは体制を崩しかけている。そこを少し突いてやれば……
「うわわっ!」
「えいや!」
「ぐっ」
起き上がりながらハンマーを下から上に振り上げてきた。予期していなかった俺は大きく削られる。体制が崩れているとは言え、ハンマーの一撃は隙が大きくなりがちな分火力が高い。同じくらい削られた。
「やるね、かぐやちゃん」
「ノブの弟子だからね!」
嬉しいことを言ってくれるね。俺はコーチングなんてかぐやちゃん達以外にはやっていないから、そんなことを言ってくれるのは本当にかぐやちゃんくらいだ。そして、かぐやちゃんは天才的に覚えがいい。……ああ、本当に、
「本当に、かぐやちゃん、卒業するのやめてプロにならない?」
そんな言葉が出てしまう。いや、プロにならなくたっていい。ただいなくなるのはもったいない、いなくならないでほしい。ふと、そういう思いが漏れ出てしまった。
「……楽しかったけど、これでおしまい。わかってるでしょ? ノブ」
動きを止めて、笑顔でかぐやちゃんはそう返す。……やめないでというファンや周りの声に、かぐやちゃんは『楽しかったけど、これでおしまい』とだけ返している。事情も、本音も、何も語ってくれない。それが、"ライバーかぐや"としての決定なのだろう。
「……そうだね」
そして、俺は表立ってそれにNoとは言えない。酒寄さんから、月の奴ら……ヤチヨの言い方をすれば、月人か。月人に対抗して戦うことは、かぐやちゃんに内密にしておくように言われているからだ。それを除いても、かぐやちゃんが『おしまい』と笑顔で言うなら、一ファンとしてそれを止めることはできない。
「じゃあ、気が変わるくらい楽しい『KASSEN』をしてもらうしかないね!」
「ふふふ、ノブから何本も取ってやるんだから!」
そうして、再び俺たちはハンマーと拳を打ち合い始めた。
結果から言うと、十本勝負は俺の勝ちだ。けど、三本とられた。七対三で俺の勝ち。だが、プロである俺が素手とは言え三本も取られた。もちろん俺は手を抜いていない。正直に言って、かぐやちゃんの操作技術はもう俺と遜色がない。ラーニング技術が非常に高いのだろう。俺から学べるところは全部学んだと言っても過言じゃないかもしれない。俺が勝ち越したのは単に経験の差だ。読みの通し方、駆け引きのうまさ、そういう部分で勝ち越した。そして、その部分は時間という経験で埋まるものだ。かぐやちゃんはまだ2ヶ月くらいしかツクヨミにいないし、それでここまで俺に肉薄できるんだから、もっといたらプロ間違いなしだっただろう。
特に十本勝負の十戦目は良かった。ハンマーを投げて素手で殴りかかってきたのは予想外だったし少しパニックになった。『相手に誤認させる』『相手の予想外のことをする』。そう教えたのは俺だが、いざやられると俺でも少し崩れることをよく教えてくれた。弟子から教えられるなんて師匠冥利に尽きるな。
「いやー、やっぱり勝てなかったかぁ」
「いやいや、俺から三本も取ったなら勝ちみたいなものでしょ。俺プロだよ?」
「えー、でも勝ちたかったの!」
「わがままなお姫様だ。……じゃあ、勝ちは俺がもらうとして、だ」
そうしてかぐやちゃんに向き直る。
「かぐやちゃん。君にもう教えることはない」
「へ?」
「免許皆伝ってやつだ。君はもうどこに出しても恥ずかしくない、俺の弟子だ。誇っていいよ」
「……ノブ!」
かぐやちゃんが抱きついてこようとする。それはまずい。額にチョップをかます。
「痛っ!」
「ツクヨミでも女の子がそんなことしちゃダメ」
「女の子にチョップする方がダメでしょ!」
「それは俺の弟子だからね」
そう言って俺は笑う。……これが最後のコラボかもしれないのか。そんなのは、嫌だな。
かぐやちゃんも笑う。かぐやちゃんは、どう思っているんだろう。
「ありがとう。ノブ」
かぐやちゃんは笑顔だ。楽しそうに見える。でも、その心のうちに、どれだけの葛藤が、悩みが、想いがあるのかはわからない。そして、俺はそれを聞かなければならないと思う。酒寄さんじゃ聞けなかった部分を、俺がどうするかをちゃんと決めるためにも、聞きたいと思う。
俺からの免許皆伝で配信は終了した。
解散になる前に、かぐやちゃんと話すことができる。かぐやちゃんは忙しいとは言え、配信も少し巻きで終わったし、ちょうどいいだろう。
みんなに手を振るかぐやちゃんに、ボイスチャットをプライベートにして話しかける。
「かぐやちゃん、……本当に、月に帰るの?」