蛇足物語 作:ロバと子いぬ
(序章の序文を少し変更しました)
三連休が明けた。俺は普通に当然のように三連休は家から出なかった。不健康? いやいや、まぁそうなんですけども……。でもほら、最近の若者はおうちでゲームがマストだから。おうちで友達とも遊べるしツクヨミ行けば実質会えるし。バイトとかない俺みたいな人なら出ないこともある。てかゲームが仕事だから仕事してたとも言うかもしれない。
さて、そんな幸せな三連休明けの朝だが、少し気になることがある。まだHR前とはいえ酒寄さんが来てない。いつも大体朝早くから来ているイメージだけど今日は割と遅めの時間になっても来てない。珍しいこともあったもんだ。
と、思ったところで酒寄さんが来た。けど、この前俺が新しい一面を見たからか、あるいは誰が見てもなのか、酒寄さんの顔色があまり良くない。疲れが前面に出ている感じがする。いや、俺は疲れてそうな事に心当たりがあるじゃないか。
赤ちゃんだ。
多分あの赤ちゃん関連で遅くなったのかもしれない。確か酒寄さん一人暮らしのはずだし、普通に考えて赤ちゃんを世話していたら手一杯になってるはずだ。あの時びっくりしすぎてそこまで思い当たらなかったな……。いや、思い至ったとて俺には何もできないか。『一人暮らしだし大変でしょ? 赤ちゃんの面倒みようか』とか言ったら俺がやばすぎる人になってしまう。結局俺は何もできないよなぁ……、とほほ。
そう考えていると、酒寄さんと目が合った。瞬間、目を逸らされた。
え、え? 何で目を逸らされた? いや、心当たりは一つしかないだろう。さっき考えていた事だ。赤ちゃんだ。でもそんな目を合わせにくくなるような事なのか? 逆に何かやましいことがあるようにしか見えないけど……、酒寄さんに限ってそれはないだろうし。
よし、前言撤回だ。何もできないと思っていたけど、俄然気になってきたし何かできることがあるか聞こう。こういうのは助けたいし。
そうと決まれば善は急げだ。
「おはよう。酒寄さん」
「ア、エート、おはよう、零落くん」
なんだか酒寄さんの喋り方がぎこちないし、頑なに目を合わせてくれない。これ絶対赤ちゃん関連で何かあっただろ……。
「先週のことだけどさ」
「せ、先週。バイト先のことなら〜ご贔屓に〜みたいな」
「そっちじゃなくて、赤ち「あー! ちょっとこっちで話そうか零落くん!」
突然腕を引かれて廊下に連れ出される。え、腕を引かれてる!? 嘘、青春じゃん……。じゃなくて、聞かれるとまずい感じなのかな。いやでもこれ青春じゃん……。
そのまま廊下の端に連れていかれた。
「悪いんだけど零落くん、あのことは内密にしてもらえると……」
そのまま小声で顔を近づけて話してくれた。え、え、すごい。これがASMRですか。じゃなくて、内密に?
「別に隠すことじゃないんじゃ……親戚の子なんでしょ?」
「そう、な、んだけど、ちょっといろいろあって」
絶対訳アリだ。誰が見てもわかる。ゲーム以外の勘がよくない俺でもわかる。訳アリの赤ちゃんって意味は分からないけど、よく考えたらアパートの前で赤ちゃんを抱いていたのも状況として意味不明だったし、あの場で誰かから預かってたとしたら誰もいないのも酒寄さんが慌てていたのも意味不明だ。
もしかして……あの子も転生者とかなのか? いや、それは考えが飛躍しすぎか。
「よくわからないけどわかった。広めたりはしないよ……。でも、家に置いてきて大丈夫だったの?」
「あー! うん! 大丈夫、なはず」
なんか大声でごまかそうとされた気がする。というか、カマかけてみたけどかかっちゃったな……。赤ちゃんなら家に一人でおいていけるわけないし。誰かに預けたのかと思ったけど、反応的に家に置いてきてそう……。でも、流石に赤ちゃんを一人置いていくとは思えないし、誰かいたのか、あるいは転生者とかで天才児だったか? 俺とか言う転生者がいるせいでなんでも考えられるからな……。考えるだけ無駄か。それより今は、
「そうかー。まぁ酒寄さんがそう言うならそうなんだね。あー、何か俺に手伝えることある?」
酒寄さんの力になりたい。これは俺の本心だ。
「うーん……」
酒寄さんはちょっと考えている。まぁ俺は見ちゃったし転生者だったとしても理解があるから好きに使ってほしいけど、酒寄さんのことだから……。
「気持ちはうれしいんだけど……。零落くんに悪いし、私に責任があるから」
ほら、酒寄さんはこういう人だ。自分でできることはやってしまう。多分だけど、人に頼ったりお願いしたりすることを嫌ってる。嫌ってるというか避けている気がする。だから、こういう困ってそうな時でも俺なんかには頼ってくれない。そういう人だ。
正直食い下がりたい。けど、それは迷惑になってしまうかもしれない。……んなことは関係ないか! 隠したいなら見ちゃった俺しか力になれないし、俺が力になりたいし!
「俺から言ったし悪くないよ。それに、あんな慌てようだったし意図してなかったんでしょ? 流石に酒寄さんに限って攫ったとかじゃないだろうし。それなら責任も酒寄さんにはないんじゃ」
「うぐ、いやまぁ、攫ったとかではないけど……。でも、関わってしまったのは私だから」
なんか一瞬図星みたいな顔したけどまさか違うよね? 嘘は言わないだろうし違うんだろうけど。というか、関わってしまったから責任があるなんて、責任感の塊みたいなことを言ってる。
「じゃあ、それを見ちゃった俺も同じでしょ。その責任を果たそうとしてるとか、どう?」
「『どう?』って……。いや、うーん」
それでも悩んでいるみたいだ。
「まぁ俺も迷惑をかけたいわけじゃないからさ。大変ならって思っただけだから」
「いやぁ……、なんと言うか……、そこまで言ってくれるんなら手伝ってほしくもあるんだけど……。何をしてもらえば……。それに事情を説明しても信じてもらえるか……」
酒寄さんが考え込むフェーズに入ってしまった。というか信じてもらえるかって、やっぱり転生者? 転生者なのか?
考え込んでいた酒寄さんだったけど、ふと、表情が暗くなった。と言うより、まるで誰かになにか心無い言葉を言われたような……。
「……ごめん。やっぱり大丈夫だから。気にしないで」
そう言う酒寄さんの顔は、どこか辛そうで。でも、明確な拒絶があって。
「わかった。でも、何かあったら頼ってもらってもいいから」
俺はそう返すことしかできなかった。
教室に戻ると友人たちから質問攻めがあった。酒寄さんとの話の内容が内容だったから忘れかけてたけど、大人気の酒寄さんに手を引かれて教室から出たからな。そりゃみんなも何話したか気になるか。しかし酒寄さんに赤ちゃんのことは口外しないように言われちゃったし、特に話せる内容もなかった。俺の表情がそんな明るくなかったのもあって、なんかみんな変に気を遣ってかあんまり追及されなかったのが幸いだ。
俺は友人たちの話を聞き流しながら、さっきのことを考えていた。酒寄さんからの拒絶、と言うべきか何と言うべきか。とりあえず酒寄さんからは大体のことに拒否をされた。俺のチート能力は『無かったこと』にする力だが、無かったものを無かったことにできない。つまり協力を拒否されてしまっては何もできないのだ。無論あの赤ちゃん自体を無かったことにするとかはできるけど、流石に倫理的にもやばすぎるし、それを酒寄さんが望むとも思えないし。
そんなことを考えながら、酒寄さんの方を見たら酒寄さんも友人に質問されていた。綾紬さんと諌山さんだ。あの三人はいつも一緒にいる。加えて、その二人は酒寄さんのガードもしている。固いガードだ。
そのあと酒寄さんと話すこともできず、結局俺は何もできないまま、今日の学校は放課のチャイムが鳴った。俺は別に部活とか所属してないし、そのまま帰宅する。教室を出る時、少し酒寄さんの方を少し見たけど、いつも通り友人たちと話しているようで、俺が話しかけるのも違うな、と思ってそのまま家に帰った。