蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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時間がないのでキリ悪いけどごめんな投稿。
やっとこの小説で書きたかった場所の三箇所のうちの一つを書き途中になれた。


五章の十

いろPが武器を構える。俺も拳を構える。

僅かな静寂が訪れる。

 

いろPが銃口をこちらに向けて、発砲する。『SETSUNA』では銃弾のダメージは大きくないが、一撃でも喰らえば俺の負けだ。避けるしかない。横に躱す。

躱しながら、銃弾の軌道を見る。ワイヤーが伸びているのを確認できた。

そのままいろPが剣を繋げ、ブーメランの形態にしながら振りかぶって突撃してくる。おそらくウルトの構えだ。

 

あの時、初めて戦った時と、同じ状況、同じ条件、同じ仕込みだ。あの時は俺がいろPの武器を誤認して、いろPが勝つことになった。

あの時と違うのは、俺はいろPの武器を理解しているということだ。

 

いろPがそのままウルトの刃をこちらに向かって射出する。いろPがあの時と同じことをしてくるとは限らない。いろPのウルトは高ダメージのエネルギー刃の生成と()()。あの時は武器ごと飛ばしたが、斬撃だけを飛ばしてくることもある。

こちらに飛んでくるウルトの背後、いろPの手に武器は……ない。あの時と同じだ。

 

ならば、あの時と同じにならないために俺がやることは簡単。足元を見ればいい。地面に伸びているワイヤーと飛んでいるいろPの武器の位置を考えて、ワイヤーに絡め取られない位置に行けばいい。それは簡単だ。

一歩横に飛ぶだけで、足を取られることはない位置に移動できた。

 

無論、その間もいろPから目を離しているわけではない。いろPはあの時と()()()、武器を放ったあとその勢いのまま俺に突撃してきている。素手での突貫だ。

そのままブーメランのように戻ってきた武器と挟み撃ちにするつもりだろうが、わかっていれば後方からの攻撃も避けるのは容易い。いろPの格闘が俺並みに強ければ話は別だが……流石にまだ実力に差がある。

甘いね、いろP。

さて、右ストレートでくるか、牽制から放ってくるか、俺をここに留めたいだろうから牽制からかな。何がきても捌いてやろう。

 

いろPが俺に突撃してくる。槍の間合いを超えて、剣の間合いを超えて、拳の間合いを超えて……え?

 

全部の間合いを超えて、俺に飛び込んできた。両の手を俺の後ろに回して、体がくっついている。

つまり……いわゆるハグの体勢だ。

感触はない。衝撃もない。匂いも、温度もない。ツクヨミだからだ。だけど、なんとなく……いろPの、酒寄さんの体温がそこにある気がしてしまって、体が固まる。

ど、どういう? どういうこと? 何が起きている? 何が目的だ?

酒寄さんのアバターの身長は俺の目線くらいの高さだ。抱きつかれていると顔は見えない。表情が伺えない。わけがわからない。

酒寄さん、そんな急に、積極的に、え? 意味がわからない。

 

いろPが顔を上げて、こちらを見てくる。

 

「捕まえた」

 

その顔はなんとなくイタズラが成功したような顔で、しかし俺が避けなかったのが不思議なのか疑問も表情に出ていた。

あ、そうだ。俺たち『SETSUNA』をしてたんだった。じゃあこれは? 捕まえたってことは……と思ったあたりで、背後から音がする。刃が風を切る音。

 

戻ってきたいろPのウルトの刃が、一つになっている俺といろPを両断した。

 

 

 

リザルトには『ダブルKO』と出ている。判定としては両者ダウンになったわけだ。だけど、俺たちの勝敗は『俺へ攻撃を当てれたか』で決まる。

つまり、酒寄さんの勝ちだ。

 

「私の勝ち。……零落くん。前に戦った時も言ってたよね。『できることがあったら手伝う』って。だから、かぐやを守るのを手伝って」

 

力強い宣言だった。俺が過去に言ったことも覚えていてくれていたらしい。……こんなの、完全に俺の負けだな。

 

「もちろん。言ったことを曲げる気もないから。俺にできる限り手伝わせてほしい」

 

俺の腹も決まった。勝負で決めたことは昔から直ぐに飲み込めたんだ。

それに……酒寄さんの本気ってのもわかった気がするし。

 

「やっぱりそうか」

 

え、何がやっぱりなんだ?

 

「零落くん、最後避ける気なかったもんね。私を振り払いもしないでそのまま受けたし」

 

なるほど。俺が避けなかったと思ってたのか。いやまぁ戦いとして見たらそうか。

 

「あー、それは、ええと、びっくりして……急に抱きついてきたわけだから」

「抱きついて……? い、いやいや! そういう意図ではなかったよ!? 零落くんの動きを止めるなら攻撃するより組み付いた方がいいと思っただけで!」

「まぁある意味最適だったかもね」

 

確かに俺の動きを止めるなら正解だっただろう。びっくりした。俺の気持ちを弄んだのかと思ったよ。

 

「ルールを鑑みて捨て身の攻撃、大正解だよ」

 

あの時と同じ状況を作って、俺にそれを意識させていた。あの時と違って俺も知識はあったが、酒寄さんも成長していたってことだ。

 

「ありがとう。素直に褒め言葉として受け取っておく」

 

酒寄さんはそうやって嬉しそうに笑った。なんとなく、その笑顔が元気なかぐやちゃんに似ている気がした。

 

「過程も良かったし、何より結果が全てだ。一緒に全力でかぐやちゃんを守ろう」

「うん。……バッドエンドになんかさせない」

 

バッドエンド。

かぐやちゃんが嫌った言葉。かぐやちゃんが言いたくなかった言葉。

 

「やっぱり酒寄さんは、かぐやちゃんが帰っちゃったらバッドエンド?」

「……」

 

そういわれて、少しいろPがハッとした顔をする。そして少し考えこむ。

そして、何かを理解したかのように言葉を落とす。

 

「そう、だね。……かぐやが帰っちゃうのは、()()()()()()()バッドエンドって思ってた。そんなの嫌だって思ってみんなを呼んだ。……けど、そうだ。かぐやがいなかったら、きっと、私にとっても……」

「そっか」

 

それだったら、俺たちがやることは一つ。

 

 

「じゃあ、みんなでハッピーエンドにしよう」

 

「……みんなで」

「酒寄さんも、かぐやちゃんも。諫山さんも綾紬さんも、アキラや雷、乃依……それとヤチヨも。みんなでハッピーエンドを作って、みんなでハッピーエンドに行こう」

「……そうだね。みんなで。もちろん零落くんもね」

「あれ、自分で自分入れてなかったか。そうだね。俺も含めてみんなで」

 

みんなが全力を出して、みんなのハッピーエンドを目指す。それが一番いいに決まってる。

だったら俺がやることは簡単だ。

 

「じゃ、俺も全力で明後日に備えないとな。大会より気合い入れないと」

「ふふ、そんなに? ありがとう」

 

酒寄さんの笑顔のためにも、やっぱりこれがいい。この選択がいいと思う。俺にできることをやるだけだ。月人を追い返す。ツクヨミで、力で。俺が一番できるやり方で。

一層気合を入れていると、酒寄さんから話し掛けられる。

 

「ねぇ、零落くん」

「なに?」

「どうして零落くんは、そんなに協力してくれるの?」

「……」

 

えっと、返答に困る質問だ。力になりたいから、と言ったら理由にならないし、なんで力になりたいかと言えば……

 

「前の時は、零落くんがかぐやのファンだから手伝ってくれてると思ってた。でも今回は、かぐやを止める、守るのに協力してくれてる。かぐやにいなくなってほしくないから、ってならわかるけど」

「……そうだね」

 

きっと、正直に話すべきではない。今話したところで、酒寄さんを困らせるだけだ。

きっと、想いを明かすべきではない。明かすとしても、伝えるとしても、今じゃない方がいいだろう。

きっと、好きって言ってはいけない。酒寄さんが好きなのは、かぐやちゃんだから。

 

でも

 

今言わないと、二度と言えない気がする。

二度と伝える機会がない予感がする。

だから、伝える。

 

 

「酒寄さんのことが好きだから。だから力になりたいんだ」

 

 

あぁ、言ってしまった。

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