蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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五章の十一

「酒寄さんのことが、好きだから」

 

言ってしまった。絶対今じゃないのはわかってるはずだったのに……。でも、俺の予感が言っていた。このタイミングを逃したら、二度と酒寄さんに想いを伝える機会はないって。

 

「え、え? えーと、その好きっていうのは……?」

「前は尊敬的なものだったけど、今は恋愛的なもので」

「あ、あー」

 

酒寄さんは困惑の表情だ。まぁそうだよね。俺勢いで伝えちゃったし、戦ったあとだからムードも何もない。いや、ある意味ムードは良いのか?

 

「えっと、本気で?」

「うん」

 

ええい、ままよ。もうこのまま突き進むしかない。

 

「俺が力になりたいだけだから、返事とかは良いよ。気にしなくても良い。忘れてもらっても良いから」

 

ごめんやっぱ無理。引きます。引かせてください。

 

でも本当のことしか言ってない。酒寄さんが好きで、酒寄さんの力になりたい。それ以上は考えてない。それだけだ。酒寄さんがかぐやちゃんのことが好きなのはわかってるし、そこに口を挟むつもりはない。

でも、かぐやちゃんを守るにせよ、守れないにせよ、後から言うのは違うかもしたんだ。今が最後のタイミングだったに違いない。

 

てか無理だ。この雰囲気のままいるのは無理だ。もう帰ろう。帰る。

 

「ええと、本当に気にしなくていいから。明後日頑張ろう。今日はもう遅いし解散にしようか。話してくれてありがとう」

「待って」

 

うそ。待つんですか。

 

「返事を、させてください」

 

返事を、するんですか。

唾を飲み込む。やけに喉が渇く。うそ。こんな勢いなのに。答えを聞くんですか。

 

「い、いや、無理に答えなくてもいいよ」

「でも、今答えないと零落くんに申し訳ないから」

「え、えぇ」

 

酒寄さんの目が本気だ。本気で答えようとしてくれてる。

 

「わ、わかりました。先に言っておくと、酒寄さんがどう答えても俺は明後日全力で酒寄さんのことを手伝うから」

「ありがとう」

 

 

一瞬の沈黙が流れる。

 

緊張する。この世で一番緊張します。やばいです。

ごくり……。

 

酒寄さんが口を開く。

 

 

「ごめんなさい。零落くんの気持ちには応えられません」

 

 

分かりきった、聞きたくなかった答えが、帰ってきた。

 

 

「……一応、理由を聞かせてもらっても?」

「好きな人が、いるから」

 

やっぱり、か。

 

「それってかぐやちゃん?」

「え、な、なな、なんでわかっ……いや、えっと、その」

「見てればわかったよ」

 

ずっとかぐやちゃんのことを見てたもんね、酒寄さん。

 

「……そんな分かりやすかった? 私」

「まぁね。……どんなところが好きなの?」

 

これは悪あがきだ。俺はまだ諦めてない。これから先、俺がかぐやちゃんを超えられるかどうか知るための質問でもある。まぁ、今の俺には傷になりそうだけど。

 

「そうだね……ワガママで、可愛くて、自分勝手で、優しくて、だらしなくて、私に笑顔をくれるところ、かな」

「それって全部じゃない?」

「そうね。そうかも」

 

酒寄さんはここにはいない誰かを見つめながら優しく笑った。きっと、今の酒寄さんの視線の先には同じ人がずっといるんだろう。かぐやちゃんが。

……勝てないなぁ、これは。

 

「始めはワガママなところばっかり目立って見えたけど……今思えば、最初から好きだった気もする。不思議だな」

「好きな人はそうやって見えるものなんだよ。きっと」

「そうなのかな」

「そうだよ」

 

俺もそうだもん。

 

最初は憧れだった気がするけど、今思えばずっと惹かれていた、好きだったと思う。そういうものなんだろう。

 

 

俺の恋は脆くも砕けた。だけど、好きな気持ちがそれで全部変わったわけじゃない。酒寄さんの力になりたいのは変わらない。

俺のやること、やるべきことが更にはっきりしたな。

 

「じゃあ、尚のことかぐやちゃんを月に返すわけにはいかないね」

「……そうだね。えっと……」

 

俺がそうやって言ったら酒寄さんが居心地悪そうにする。まぁ手伝ってくれるって言ってる人フッたわけだし気まずいか。

 

「大丈夫。さっきも言ったでしょ? どう答えても手伝うのには変わらないって」

「……ありがとう。手伝ってもらうなら返事は保留した方が良いのかもしれないとも思っちゃったけど、それは零落くんの気持ちを利用しているみたいで申し訳なかったから……」

「それはこっちの方が申し訳ない。こんなタイミングで告白したらかぐやちゃんを盾にしてるみたいだったもんね……」

 

あはは……と酒寄さんに苦笑いを返される。まぁ実際俺の考えが回らなすぎていた。自分本位すぎたな。

 

「そんな中でも、正直に返事をくれてありがとう」

「えーと、なんて返したらいいのかな。どういたしましても違う気がするし」

「それでいいよ。酒寄さんの気遣いも気持ちも知れたから、ありがとう」

 

俺の気持ちを伝えて、酒寄さんの気持ちも知れた。それはこちらからは感謝しかない。

 

「酒寄さんの恋を応援するためにも、かぐやちゃんを全力で守らないとね」

「そうだね。……ちょっと茶化してない?」

「あはは。そんなことないよ」

 

今のは茶化して言ったけど、これが俺の本心だ。

かぐやちゃんは酒寄さんが好き、酒寄さんはかぐやちゃんが好き、そんな二人が他の誰かの手によって離れ離れにされそうになっている。そんなの、許せるわけがない。

かぐやちゃんの話が本当なら少しは自業自得なところもあるのかも知れない。でも、それでも、二人は一緒にいるべきだ。そう俺は思う。

改めて、俺は宣言する。

 

「ハッピーエンド、みんなで掴みに行こう」

 

そう言いながら拳を突き出す。

 

「うん。みんなでハッピーエンドに。ね」

 

酒寄さんも拳を出して、二人で拳を突き合わせる。ある種の誓いのようなものだ。

かぐやちゃんを絶対守るという誓い。

 

「もう夜も遅いし、落ちようか。酒寄さん、何から何まで付き合ってもらって本当にありがとう」

「ううん。こちらこそありがとう。明後日もよろしくね」

「うん。じゃあおやすみ」

「おやすみ」

 

 

手を振って酒寄さんがログアウトする。

 

残ったのは俺一人だ。

誰もいない『KASSEN』場に俺一人だけ。急に何故か、心が苦しくなる。

俺一人しかいないなら、少し、感傷に浸ってもいいか。

 

「フラれちゃったか」

 

独り言を呟きながら地面に座り込む。

 

「わかってはいたけどな。酒寄さんがかぐやちゃんのことを好きなこと」

 

確認の独り言だ。出来事をまとめるだけの。

 

「やっぱり今じゃなかったよな。申し訳なかったな」

 

反省もあった。まぁでも、結果には関わらない話か。

 

「……ダメだったかぁ」

「フラれたか?」

 

突然後ろから声をかけられた。え、え?

振り向くと、アキラがいた。

 

「よっ」

「いや、『よっ』じゃないが」

 

なんでいる? この場所招待限定にしていたはずなんだが。いや、酒寄さんが招待したら入れるか? いやでもなんでには変わりないけど。

 

「急に呼ばれたから様子を見にきてみたら、落ち込んでる親友がいたらそりゃ声をかけるだろ」

「いやお前な……」

 

アキラはズカズカと俺の隣に来て座った。

 

「てかお前急いだなー。()いては事を仕損じるって言葉知らないの?」

「うるさいな。しょうがなかったんだよ」

 

もう二度とチャンスないと思ったし。

 

「まぁまぁ、辛いことあったらお兄さんに吐き出してみ? 話したら楽になるかもよ?」

「お前……はぁ」

 

失恋したやつの話を聞くにしては態度が明るすぎる気がするけど。……まぁ、いまなら話を聞いてくれるだけマシか。

 

「仕方ないから話してやるか」

「おうおう。話せ話せ」

 

 

 

ツクヨミの、ミラーボールでできた月の下、俺は親友に、日が回るまで好きな人の色々なことを話した。

……よく考えたら、こいつ酒寄さんの兄なんだよな。絶対話す相手間違えた気がする。やらかしたな。でもまぁ、なんの文句も言わずに聞いてくれたのは……ありがとう。




俺がこの小説書き始めたのが、三つ書きたい場面があったからなんですよ。
そのうちの一つが『オリ主が彩葉にフラれる場面』だったんですね。
倒錯してる? いやいや、男オリ主アンチって言ってこんなに書いてる時点で倒錯してるのはわかるでしょ。
あと書きたいところは二つ。その場面になったらまた言います。
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