蛇足物語 作:ロバと子いぬ
『何という急展開! 突如ツクヨミに現れたフリーダム、超新星かぐやの卒業ライブ! 泣いてる場合じゃないぞ! 最後のファンサだ! 目に焼き付けろ!!』
かぐやのファンを公言している忠犬オタ公の実況が響き渡る。泣いてる場合じゃないぞとか言ってるけどオタ公さん涙声なんだよな。オタ公さんに負けじと観客たちの声もこだましている。
観客たちはいつかのかぐやvs黒鬼の時に使われた特設会場に鮨詰め状態で押し寄せている。それだけかぐやちゃんの知名度が上がったってことだし、それだけたくさんのファンがいるということだ。多くのファンが最後のライブを見に来ているのだ。
まぁ、最後にはさせないけど。かぐやちゃんには、卒業と言っておきながらそのまま活動を続ける一番気まずい展開になってもらわないと困る。
会場の熱狂が最高潮になったのを見計らってか、あるいは天然でそれを感じ取ってか、特設会場の天守閣にあるステージに幾本ものスポットライトが灯された。
その光の中心にはかぐやちゃんが現れる。
「みんな、ありがとー!」
かぐやちゃんは天真爛漫な笑顔でファンのみんなに呼び声をあげる。
「今日でお別れみたいなんだけど、悲しくはしたくないんだ。みんなでお見送りして、ハッピーに卒業させて!」
かぐやちゃんの声に呼応するようにファンたちも声を上げる。会場の熱狂はピークを更新し続けているようだ。
でも、お別れにさせないために動いている人たちもいるんだ。悲しくなんてさせない。卒業なんてさせない。そんな志を持った
『KASSEN』場のステージの前に、七つの桃が落下する。
ぽふんという音と共に、『KASSEN』のスポーンを模して現れるのは、
「さぁ、盛り上げてこうぜ」
「勝つだけだ」
「さーやろやろ」
帝アキラ率いるブラックオニキスと、
「かぐやちゃん、いえーい」
「みてるー?」
ROKA、まみまみこと綾紬さんと諫山さん。
「さぁ、勝とう」
プロゲーマーのヘビノブこと俺。
そして、
「ライブの余興だと思ってよ。かぐや、私たちは私たちで精一杯やるから……万が一勝っちゃったら、ドンキで買い出ししてパンケーキ食べよ!」
かぐやちゃんのプロデューサー、いろPこと酒寄さんだ。
「万が一、じゃねぇだろ」
アキラが髪をかきあげながらそうツッコミを入れる。それはそうだ。俺たちは勝つためにいるんだから。
『鬼アチー! かつて鎬を削った黒鬼と名コーチのヘビノブが、かぐやのラストライブに駆けつけたぞ!』
オタ公さんの実況で黒鬼と並列で語られてる。そこまでじゃないだろ俺は。まぁいいけど。
俺たちの登場を知らなかったかぐやちゃんは、目を見開いて驚いているようだった。そして、目に涙を浮かべながら、
「そっか……そっか。みんな、自由だ!」
そう、ひまわりのような笑顔で言った。
ライブが始まる。これで月の奴らが来なかったら拍子抜けだったが、それは杞憂に終わった。
かぐやちゃんがステージでマイクを握ったとほとんど同時、俺たちの眼前……位置としては、かぐやちゃんがいる天守閣と反対の天守閣のあたりに、『月』が現れた。
不気味なほどに綺麗に輝く満月だった。
一曲目のイントロが始まると同時その月がブレる。月の内側から黒い渦が巻き上がり、まるでブラックホールのような姿になる。あるいは、ワームホールとでも形容すべきか。
黒い渦の中から、人影のようなものが現れる。
それは、姿こそ違えど、コラボライブの時に見た異形と同じ雰囲気を放っていた。
人影は七体現れた。一際大きいリーダーのような存在と、それに付き従うように動物や人を模した形の異形が六体。七福神のような姿をしている。
リーダーのような個体が、俺たちと、それと観客に向けてウィンドウのようなものを表示する。内容は……『KASSEN』のルールだ。七対七で残機は三。残機はチームごとに共有といったことが書かれている。そして、そのウィンドウが表示されてすぐに、俺たちのUIに『KASSEN』特有の残機の表示が現れた。
なるほどな。こいつらはふてぶてしくも俺たちのルールに則って戦ってくれるらしい。よく調べたことだ。
だが、好都合だ。
何たってこっちには、『KASSEN』なら右に出る者がいないメンバーが揃っているからな。
こっちのルールに従ったことを後悔させてやる。
観客たちは演出だと思っているのか、特に月の奴らに疑問は抱いていないらしい。それも好都合だ。思う存分暴れることができる。
「『KASSEN』なら俺たちの土俵だ。さぁ、始めよう」
『KASSEN』はプレイヤーの他に各陣営のミニオンたちが登場する。こちらはいつもの弓兵だが、あいてはライブでかぐやちゃんたちを襲った異形たちがミニオンのようだ。その異形が、夥しい数こちらに押し寄せている。まるで波のようだ。
最初の一撃は、乃依だった。
ヤグラに登った乃依のウルトの矢が、射程に入った月人に飛来する。着弾点から開いた巨大な氷の花が、先頭を走っていた月人のミニオンを数多く吹き飛ばした。そして、その氷を足場にアキラと雷が突撃していく。
黒鬼の連携は流石だな。さて、俺も俺でやることをやるか。
「さぁ、最初から全力で行かせてもらうぞ」
俺は波のように押し寄せる月人たちを切り開きながら、連中の中心めがけて突っ込んでいく。
当然囲まれるが、それが狙いだ、
俺は手に持っている剣……王剣を大上段に構える。
「王剣、起動」
それが、俺が決めているこの剣のウルトの合図だ。
刹那、俺の手の中にある王剣から、金色の電撃が俺を中心に球のように放たれる。月人たちはその衝撃で吹き飛ばされていく。
電撃が収まると、俺の手の中にある王剣は白と金の意匠だったものが、全体が金色に輝き、金色の稲妻を纏わせていた。
「悪いが、本気でやらせてもらう。時間もないんでな」
そう言いながら、剣を横長に振るう。そうすれば、剣から放たれる稲妻が刃を形造り、斬撃となって月人たちに飛んでいく。
その威力は高くはないが、斬撃が命中した相手は稲妻が纏わりつき、そのままダメージが蓄積されて倒れていく。
これが俺のウルト、名称は確か『ライトニングクラッシュ』。最初に電撃を周囲に放ち、その後自己強化する。強化の内容は《[遠距離攻撃の追加》》と
俺の王剣は簡単に言えば、遠距離攻撃がないしダメージが低い、その代わり触れている間ダメージが継続するという武器だ。はっきりいって弱い。が、ウルト中はそのすべてのデメリットが帳消しになる。最強武器に早替わりだ。
「はっ! おらっ!」
もちろん強化は永続ではない。本来は10秒だ。しかし、敵を倒すたびに0.5秒延長される。
つまり、波のように相手が押し寄せる状況なら……
「ずっと俺のターンってわけだ」
金雷を波のように放つ。そうすれば相手の波とぶつかり、打ち消し合う。まさに今の状況にうってつけのウルトだ。
俺はウルトを継続させながら、寄せてくる波を打ち返していった。
だが、敵は雑魚だけではない
まず落とされたのは、綾紬さん、次に諫山さんが落とされた。
二人とも俺のコーチングで強くなってはいるが、普通に考えて物量が違う。それでもミニオン相手なら倒せただろうが……
そう考えているところに、大きな影が俺の頭上に現れる。
シンバルのような武器を俺めがけて叩きつけてくるが、それを咄嗟に俺は回避した。当たればただでは済まないという判断だ。
「中ボス、ってところか」
七福神を模した、相手のプレイヤーに当たる存在が俺の前に現れた。