蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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今回で五章は終わりです。


五章の十六

動揺してフリーズしていた俺だが、向き合っていた砲撃型の七福神が再びこちらに攻撃してきたことで気を取りなおせた。急いで相手の攻撃地点を読んで王剣で受け流す。あっぶねぇ。

いや、あっぶねぇじゃない。俺の中ではもっと衝撃的なことが起きている。

 

「酒寄さん、さっき俺がやられたの()()()()()の?」

「え、うん。見間違い……ではなさそうだったし、どういうこと……?」

 

俺はさっき、俺が攻撃を受けたことを『無かったこと』にした。そして、普通の人は俺が『無かったこと』にしたことを覚えていられない。正確に言えば『無かったこと』になったんだから覚えているも何もないのだが。存在しないことを記憶できる人はいないわけだし。

現状なぜか俺が『無かったこと』にしたことを認識できているのは、ヤチヨと月の奴らだけだった。だからヤチヨも月の住人なのかと思っていたんだが……なぜ酒寄さんが?

 

「一つだけ確認だけど、酒寄さんって数年前の戦争のこと覚えてる?」

「え? 戦争?」

 

どういうことだ? この反応は覚えていないというか、理解できないという方が近い。まさしく俺の能力に対する普通の人の反応そのものだ。ということは、最近になって酒寄さんも俺の能力で『無かったこと』になった物事を知覚できるようになったか、あるいは、俺の能力を誰しもが知覚できるようになったかだ。

いや、後者はないな。もし誰もが知覚できるならオタ公さんが実況で取り上げているはずだ。何回も能力使ったし。

では何故……いや、今考えても意味ないか。

 

かぐやちゃんのライブも終盤に差し掛かっている。ライブが終わるまで守ればいいのか、あるいは全員撃退しないといけないのかはわからないが、どちらにせよライブの終わりがタイムリミットではあるはずだ。時間がない。

 

「ごめん。なんでもなかった。それより今は時間がないから、、さっきのの詳しい説明は後で。とりあえず今は、さっきみたいに攻撃を受けても俺が『無かったこと』にするから、酒寄さんは防御はあんまり考えなくていいって思ってくれればいいよ」

「えっ、と? どういう……?」

「月からお姫様も降ってくるんだ。こういうことができる人もいる。とにかく、攻撃は全部俺が『無かったこと』にする。攻めてアイツを落とそう」

「……わかった。後で詳しく聞くとして、信じるからね」

 

説得とも言えない説得はなんとかなった。あとは倒すだけだ。

二人で並んで砲手の七福神へと向き直る。そして二人同時に飛び出す。

とりあえず俺は露払いだ。ミニオンたちにウルトの斬撃を飛ばしながら、砲手の銃口の向きを確認する。

 

ミニオンたちは俺の斬撃を受けて、赤金色の稲妻に包み込まれていく。……いやまて、チートを使う前までミニオンたちは俺の斬撃で一撃だったはずだ。それが今は稲妻を受けてやっと倒れている。ミニオンたちの耐久が上がっている? というよりこれは、ステータス自体が上がって……?

 

砲手の方に注目すれば、酒寄さんへと銃口を向けている。だがこの位置ならカバーが可能だ。砲撃一閃を、辛くも俺の剣で弾き飛ばす。……こっちも威力が上がっている気がする。この感じで強化されていくなら何発も受けれないか。なら、その前に倒す。

 

二人で相手へと距離を詰めていく。幸いにも相手は連射をするタイプではない。ミニオンを片付けながら距離は詰められる。

次の一撃を弾けば、すぐに俺たちの間合いだ。俺たちは両翼に散開する。そして両側から巨体の相手へと飛び掛かる。左右から攻撃を受けた砲手が選択したのは、俺ではなく酒寄さんを狙うことだった。

それもそうだろう。先程まで攻撃を弾いていたのは俺。攻撃が効かなかったのも俺だ。そんな奴らが二手に別れたなら、倒せそうと思える方から攻撃する。

 

酒寄さんへと光線が放たれる。

防御を捨てている酒寄さんに、あっけなく光線は着弾する。かに思えた。

さぁ、ぶっつけ本番だがやれるはずだ。俺の能力の拡張。出来事を『無かったこと』にするのであれば、部分的に否定することもできるはずだ。

 

世界がブレる。そして視界が戻れば、酒寄さんは放たれていたはずの光線は、()()()()()()()()()。砲手は驚きの表情を浮かべている。

それを極至近距離で受け流す。武器への負担は大きかったが、なんとか耐えてくれた。よくやった王剣。

 

俺が行ったのは、"攻撃対象を酒寄さんじゃ『無かったこと』にする"という能力の使い方だ。今までこんな部分的な使い方をしたことはなかったから出来るかどうかはぶっつけだったが、うまくいってよかった。

 

攻撃を受けなかった酒寄さんは慣れていないからやや驚きつつも、すぐに気を取り直して、ウルトを刃に纏わせて相手を大きく斬りつけた。

だが、浅い。相手も即座に砲身で防御をしていた。相手の武器は削れたが、相手自体は倒れていない。

 

なら、もう一撃だ。俺がまだいる。近接で最大威力をお見舞いしてやる。相手のステータスが上がっていようが、チートで底上げされた俺の全力を耐えれると思うなよ。

相手の眼前に躍り出た俺は、全力で刃を振るう。

 

 

その瞬間、視界にエラーメッセージが表示される。

 

『CHEAT DETECTION』

 

チート検出の文字。これが意味することは、チートを停止されたということ。

 

 

俺の刃は相手を真っ二つに裂くことはは叶わなかった。

それどころか、体から力が抜ける感覚がする。先程までの全能感がなくなっている。手に持っている王剣からも、禍々しい赤が消え去っていた。

 

力は抜けたが、まだ動けはする。もう一撃を入れようとしたが、ここで横槍が入った。シンバルを持っていた七福神だ。遊ばせていた相手戦力がこちらへと援軍に来たのだ。

瀕死の相手を前に、もう一撃を入れることは叶わず、一度距離を取らされた。

 

チートが解除された。ヤチヨが裏切ったのか? 月と繋がってるならなくはないが、今更だ。ヤチヨの行動とも矛盾する。それなら、月の奴らがハッキングして、ツクヨミのチート検出機能を復活させたと考える方が辻褄が合う。

ここに来てのパワーダウンは痛いどころの話じゃないが……泣き言を言っても仕方ない。

 

と、上空から何かが降ってくる。

地面に大きな痕を残しながら落ちてきたのはアキラと、その相手をしている七福神だ。巨体をアキラがなんとか抑えている。だが、アキラの顔からもチート特有の紋様が消えている。それでもアキラは相手の攻撃をなんとかいなしているようだ。

 

相手の攻撃を弾いて、少し余裕のできたアキラがこちらに振り向く。

 

「ここはいい。彩葉はかぐやちゃんのほうへ! 走れ!」

 

そう言われて俺は酒寄さんとともにかぐやちゃんの方を見る。曲はもうラストの終盤。そして、かぐやちゃんのすぐ近くにはあのリーダー格らしき月人がすぐそこまできていた。

俺たちのこの『KASSEN』における天守閣はかぐやちゃんだ。そこを落とされれば、なんにせよ負けだ。

 

「酒寄さん。行って。攻撃はこっちでなんとかする」

 

酒依さんはアキラの方を見て、こちらを少し見て、頷いた。そのまま俺たちの天守閣、かぐやちゃん向けて駆けて行く。

 

残った俺とアキラは肩を並べて立つ。

 

「チート切れたけどどうする?」

「どうするも何も、やるしかねぇだろ」

「そりゃそうだ。なんとかするか。俺は酒依さんの援護もするから前衛頼んだ」

「オッケー。さぁ、やるか」

 

さぁ、最後の悪あがきだ。

 

 

 

 

 

 

死闘を繰り広げていた最中、突然戦っていた月人たちの動きが止まった。戦意を喪失した……というより、戦う意味がなくなったかのようだった。

 

 

俺とアキラも動きを止めて、月人たちが見ている方向を見る。その方角には、俺たちの天守閣があった。

 

天守閣に向かっていた酒寄さんは、天守閣にたどり着く直前で立ち止まっていた。正確に言えば、止められていた。酒寄さんと天守閣の間には、壁のように大量の月人が立ち塞がっている。ミニオンではない月人だ。

……初めから、茶番だったか。こいつらはこちらのルールに則った演出をしただけで、力で押し倒すならいくらでもやりようはあったわけだ。

よく見れば、俺もアキラも大量の月人に囲まれている。動くなということだろう。

 

そして、かぐやちゃん卒業ライブ最後の曲のアウトロがフェードアウトした。

 

 

全てを悟ったような笑みを浮かべるかぐやちゃんの前に、月人のリーダーらしき奴が大軍を引き連れて進み出る。そしてそのまま恭しく跪いてみせた。かぐやちゃんは本当に姫だったのかもしれない。

 

かぐやちゃんは旧知の仲を迎え入れるように

 

「はるばるようこそ」

 

屈託なくそう言った。

 

「逃げちゃってごめんね。でも、すっごい、すっごい楽しかったんだ!」

 

顔を上げた月人の表情は、少し微笑んでいるように見えた。

 

 

かぐやちゃんは、月人たちに連れられて空へと昇って行く。

光る雲に乗って、ゆっくりと、空へ、月へと。

まるでお伽話のラストシーンだ。幻想的ですらあった。

 

「最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんな、ありがとー!」

 

そんな状態でありながらも、かぐやちゃんは来てくれていたファンたちに手を振った。

 

「えへへ。名残惜しいけどこれでおしまい。それから……」

 

付け足すように、あるいは最後に伝えたいこととして、言葉が紡がれる。

 

 

「彩葉」

「……大好き」

 

たった一人に向けた言葉が。

 

 

その言葉を最後に、かぐやちゃんと月人は空へと昇って行く。その姿は光り輝く星となり、崩れて消えて行く。少しずつ、少しずつ、だが確実に。

消えていく。

 

 

……ダメだ。ダメだ。ダメだ! そんなのはダメだ! こんな終わりはあってはいけない。こんな別れで終わってはいけない。こんなバッドエンドで終わっちゃいけないんだ。

約束しただろう。ハッピーエンドにするって。こんな一方的な終わり方なんで認められない。

 

だったらどうするか。簡単だ。『無かったこと』にする。こんなバッドエンド、こんな報われない結末なんて『無かったこと』にしてやる。

 

そうだ……月人が迎えに来なければいいんだ。

 

そうすればかぐやちゃんはずっとここにいる。帰ることなんてないはずだ。少なくとも、こんなバッドエンドにはならないはずだ。

月人は俺の能力を察知できる。でもそれがどうした。それでまた迎えにくるならまた来なかったことにすればいい。イタチごっこ上等だ。

 

今になってやっとわかった。きっと俺の力はこのために与えられたんだ。

バッドエンドを回避する力、そう言う力だったんだ。

 

だったら話は早い。

 

 

俺は、月人たちがかぐやちゃんを連れて帰るのを、『無かったこと』にする。

 

能力を行使する。その刹那、俺の視界は一瞬()()染まった。

 

 

 

 

 

 

世界が明滅する。

能力が正常に発動した感覚を得ながら、俺の意識は暗闇に落ちていった。




・蛇足
『楚の人が祖先を祭る行事で、召使いに酒を与えたが、酒は召使い全員に行き渡るほどの量がなかった。そこで、地面に蛇の絵を最初に描いた人が飲もうとなった。ある人がすぐに蛇の絵を描き、左手で酒を引き寄せながら右手で蛇に足を描き足し『私は蛇に足を描く余裕すらある』と言った。その間に蛇を描き終わった人が酒を奪い取って『蛇に足はないからそれは蛇ではない』と言って、結局酒は後者が飲むことになった』
と言う話が元となっている。
転じて『余計な付け足し』『不必要な付け足し』と言った意味がある。



あ、五月は三十一日まであるので、次回更新は三日後です。
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