蛇足物語 作:ロバと子いぬ
夢を見ている。
いや、何かが違う。
これはきっと夢なんかじゃない。
これは
〜〜〜
いつも通りの世界、いつも通りの仕事。
始まっては終わり、終わっては始まる。
寂しくて、退屈で、つまらない。そんな月の日常。
『窓』だ。
突然現れた窓には、地球の人々が映っていた。
その光景は
眩しくて、こことは違っていて、複雑で、楽しそうで。
〜〜〜
まずったか〜。
地球に行きた〜い! って思って、船使って地球に来た。のはいいものの、船の機能で現地の生物……人間に『擬態』してみたらあらびっくり。めちゃくちゃちっちゃいし体が全然自由に動かない。人間って最初自分じゃこんなに何もできないのか。というか、別にこの小さい形態を経由しなくても良かったんじゃないの〜? このポンコツ船め。
とりあえず善良そうな人に保護してもらったからいいけどー。この『赤ちゃん』って形態何もできないなー。まぁでもすぐに適応できるか。今は世話してもらいながら見れるもの見よー。
〜〜〜
拾ってくれた人は『さかよりいろは』っていう名前みたい。なんかパソコン? インターネット? ってやつを解析したら色々わかったよ。月人の言語解析能力を舐めてもらっちゃ困るね〜。漢字とかいう文字はまだ難しいけど、とりあえず発話は問題なさそう。
……名前、名前かぁ。
てかお腹すいた。月じゃお腹が空くなんてこともないからまだ変な感覚。赤ちゃんの時にそういう体の感覚学べて良かったかも。いろはに『ミルク』作ってもらわないと。
〜〜〜
「決まってることが変わるわけじゃないし、受け入れて覚悟するしか、ない」
そう言った時のいろはの
いろはのことをもっと知りたい。いろはに笑ってほしい。そう思った。
こういうのを、『好き』っていうみたい。
〜〜〜
いろはがよく見ている人、ヤチヨっていう名前らしい。好きなんだって。8000歳とか地球じゃありえないみたいだし月人とかなのかも? まぁ月人がこっち興味持って来たりすることなんかないか。
ここの人たちは好きな人をずっと見るのかな。じゃあ
〜〜〜
いろはに、『かぐや』って名前をつけてもらえた!
素敵な人、好きな人につけてもらえた名前。大切にしたい。自慢したい。そうだ、
〜〜〜
そこからの
ヤチヨカップに出場して、ライバーとしていろんな活動をして、彩葉と一緒に過ごして、時には怒られて、時には笑って、時には泣いて。
ヤチヨカップに優勝して、コラボライブをして、……月のことをちゃんと思い出した。
花火に彩葉と行って、別れの決意をして、
卒業ライブをして、月に帰った。
『KASSEN』の飛び入り参加も、コーチングも、お祝いも、彩葉のバイト先へ押しかけるのも、卒業ライブへの参加も、
その全てに、
〜〜〜
月に帰って、地球でいうところの数年が経過した。
彩葉に教えてもらったお伽話のかぐや姫よろしく、
地球からお供として連れて帰った犬DOGEは、月に来てほとんど月人になったから、それを見守りながら。
そんな時、歌が聞こえてきた。
彩葉の歌が。
あの歌だ。彩葉が
一番は
歌が聞こえてきて、
「この一瞬を、最高の、パーティーにしよう……」
彩葉に会いたい。
決めた。地球に行こう。
今度はしくじらない。前は仕事を放り出したのが悪かったんだから、ちゃんと代役も立てて、姫にも相談しよう。準備に時間はかかるかもしれないけど、月の技術なら時間も戻れる。時間遡行は許可がないと行えないが、今回くらいのものなら許されるだろう。
今度こそ、彩葉ともっと一緒に……。
〜〜〜
……ここ、どこ?
気がつくと、
確か、歌が聞こえてきたはずだった。
彩葉の歌が聞こえて、地球のことを思い出して、自分の複製を作って、それから姫と協力して船を作って、歌いながら出発して。
……そうだ。隕石とぶつかったんだ。それで計器が誤作動して……。
……彩葉。
……失敗しちゃったみたい。
……彩葉。
彩葉の名前を叫ぼうとして、声が出ないことに気がついた。
駆け出そうとして、動けないことに気がついた。
水面に映る自分の姿を見て、身体がないことに気がついた。
多分これ、『擬態』できなかったんだ。
最初はそんな楽観的な感想も出てきたけど、状況を理解すればするほど思考がクリアになっていく。自分の身に起きていることを一つ一つ整理して、状況と照らし合わせていく。
……ドジっちゃったなぁ。
頭を抱えることもできないまま、ゆっくりと時間をかけて、絶望していった。
〜〜〜
存在しない膝を抱えて、
ずっと、頭の中で歌を歌って過ごしていた。たった一つの歌を。
……この一瞬を、最高の、パーティーにしよう
何千回目かのリフレインで、聴覚に何かをとらえた。
これは、人の声だ。
顔を上げると、砂浜に男の子が立っていた。小さな子だ。耳を澄ませている。
男の子が後ろを振り返った。誰かに呼ばれたのか。だめ、行かないで。私の話を聞いて。
そんな思いが繋がったのか、私の意識はウミウシの体に入り込み、
「待って!」
そう言葉を発せた。
〜〜〜
ウミウシは、
声は出せたが、最初は男の子と会話は通じなかった。言語が違うのだ。前にネットで見たどれとも異なるし、もしかしたら全然違う時代、遠い過去や未来に来てしまったのかもしれない。隕石との衝突で船は色々故障していたし……。
月人にとって、言語の解読はお茶の子さいさいだ。だが、ウミウシの体だと発話は十分にできなかった。
男の子が急に来なくなるまで。
ウミウシの身体を引きずって男の子の元まで会いにいくと、男の子は一人で横になっていた。顔色が悪かった。冷や汗をかいていた。すごく辛そうだった。でも、誰も看病する人もいなかった。
『歌ってよ』
側にきた
だから、
そうして、
おそらくここは彩葉がいた世界より遠い過去だ。だとしたら、
ヤチヨ、どっかにいるんでしょ? 八千歳っていってたじゃん。助けてよ……。
〜〜〜
時は流れていった。
様々な出会いがあった。様々な別れがあった。
月人は老いないし死なない。合理的で、全てが決まっている。でも、地球の人々は違かった。
非合理的で、争いも多くあった。争いの方が多かったと言ってもいい。その度に
月人であった
ウミウシの体でできることはなかった。ただ、見つめることしかできなかった。人々が死んでいくのを何千年も見送り続けた。
好きになった人もたくさんいた。
その誰もが死んで行った。
助けられなかった人を思い出すたび、内臓に引っ掻き傷ができるような感覚がした。
あーあの頃は嫌なこともすぐに忘れられたのに。
……弱い自分から逃げられないことって、一番恐ろしいことなんだね、彩葉。あなたの瞳の奥にある
〜〜〜
人は争いと同時に、科学技術も発展させていった。
電話、ラジオ、ブラウン管……そして、インターネット。
ウミウシの体で『Hello World』と送る。するとどこからか『Hello you』と返ってくる。衝撃だった。
科学技術は月の技術に近い。もっと技術が発展すれば、
そうだ、いつか仮想の世界に大きな広場を作りたいな。みんなが好きなことをして、殺し合うこともなく、誰も孤独にならず、いつでも返事をもらえる場所。
名前は……そこでハッとした。
バカだったなぁ……何で気がつかなかったんだろ。私が、ヤチヨになるんだ。
月での過去跳躍の許可もやたら簡単に出たと思ったよ。もう運命は決まってたんだね。
それなら、きっと、いや、必ず
……でも彩葉。もう
〜〜〜
さぁ、準備は整った。
仮想空間ツクヨミのプロトを引っ提げて、
初めてのライブは、記憶の中のヤチヨのものよりはずっと観客は少なかったけれど、底抜けに楽しかった。歌えることが嬉しくて仕方がなかった。
それから何度もライブをした。飽きることなんてなかった。いつあの子が、彩葉が来てくれるか、そう思うと毎度ヒリヒリした。
いつも観客みんなを一人一人見て、あの子を探した。
そうして、ついにその日はやってきた。
……彩葉。
泣くんだろうなって思っていたけど、
……そうか。だからヤチヨはいつも、あんなに楽しそうに、笑っていたんだ。
〜〜〜
長い、長い
時計を見れば、日付は九月十六日の朝だった。丸三日以上眠っていたのか? でも、入眠した記憶がない。気を失っていたのか。
……あれ、
とりあえず支度をして、学校に向かう。
俺の終わりは、長い夢と、少しの違和感から始まったのだった。
作中で語れない解説をします。
前話の最後、青い光をオリ主は見ています。これはオリ主を警戒していたFUSHIによるものです。
今話では、FUSHIの力によってオリ主は『原作でのヤチヨの全ての記憶』を見ています。夢だとオリ主は思っていますが、実際は『FUSHIに記憶を見させられる』→『気絶する』→『起きる』の順で物事は起きています。
まぁそれが何って感じですね。お話の関係でそうなった感じです。このお話にはご都合主義、捏造が多分に含まれています。ご注意ください。
あ、あとかぐや視点の彩葉とのお話も多分に捏造が含まれています。公式設定が出たら書き直すかも。