蛇足物語   作:ロバと子いぬ

37 / 37
終章、始まります。


終章の零

 

夢を見ている。

 

いや、何かが違う。

これはきっと夢なんかじゃない。

 

これは(零落信秀)、じゃなくて……

 

(かぐや)の、2ヶ月と8000年の記憶だ。

 

〜〜〜

 

いつも通りの世界、いつも通りの仕事。

始まっては終わり、終わっては始まる。

寂しくて、退屈で、つまらない。そんな月の日常。

 

()がいつも通り仕事をしていたとき、突然の非日常が現れた。

 

『窓』だ。

 

突然現れた窓には、地球の人々が映っていた。

その光景は()には眩しく見えて。

眩しくて、こことは違っていて、複雑で、楽しそうで。

()はここに行きたいと思った。

 

〜〜〜

 

まずったか〜。

地球に行きた〜い! って思って、船使って地球に来た。のはいいものの、船の機能で現地の生物……人間に『擬態』してみたらあらびっくり。めちゃくちゃちっちゃいし体が全然自由に動かない。人間って最初自分じゃこんなに何もできないのか。というか、別にこの小さい形態を経由しなくても良かったんじゃないの〜? このポンコツ船め。

とりあえず善良そうな人に保護してもらったからいいけどー。この『赤ちゃん』って形態何もできないなー。まぁでもすぐに適応できるか。今は世話してもらいながら見れるもの見よー。

 

〜〜〜

 

拾ってくれた人は『さかよりいろは』っていう名前みたい。なんかパソコン? インターネット? ってやつを解析したら色々わかったよ。月人の言語解析能力を舐めてもらっちゃ困るね〜。漢字とかいう文字はまだ難しいけど、とりあえず発話は問題なさそう。

……名前、名前かぁ。()って名前ないな。こういうのって自分で決めるのかな。でも、どうせならいつかつけてもらいたいなぁ、名前。

てかお腹すいた。月じゃお腹が空くなんてこともないからまだ変な感覚。赤ちゃんの時にそういう体の感覚学べて良かったかも。いろはに『ミルク』作ってもらわないと。

 

〜〜〜

 

「決まってることが変わるわけじゃないし、受け入れて覚悟するしか、ない」

 

そう言った時のいろはの表情(かお)は、とても綺麗だった。

いろはのことをもっと知りたい。いろはに笑ってほしい。そう思った。

こういうのを、『好き』っていうみたい。

 

〜〜〜

 

いろはがよく見ている人、ヤチヨっていう名前らしい。好きなんだって。8000歳とか地球じゃありえないみたいだし月人とかなのかも? まぁ月人がこっち興味持って来たりすることなんかないか。()じゃないし。

ここの人たちは好きな人をずっと見るのかな。じゃあ()はいろはのことをずっと見てようかな〜。いいよね?

 

〜〜〜

 

いろはに、『かぐや』って名前をつけてもらえた!

素敵な人、好きな人につけてもらえた名前。大切にしたい。自慢したい。そうだ、()のことをかぐやって言おう。そしたらみんなに自慢できる。いろはにこんなに素敵な名前をもらったんだぞ! ってね。

 

〜〜〜

 

そこからの()(記憶)は、()の知っている(かぐや)の二ヶ月間とほとんど同じ道を辿っていった。

ヤチヨカップに出場して、ライバーとしていろんな活動をして、彩葉と一緒に過ごして、時には怒られて、時には笑って、時には泣いて。

ヤチヨカップに優勝して、コラボライブをして、……月のことをちゃんと思い出した。

花火に彩葉と行って、別れの決意をして、

卒業ライブをして、月に帰った。

 

()の知っている道筋と大体同じ。違うのは、

 

(零落信秀)が記憶のどこにもいないこと。

 

『KASSEN』の飛び入り参加も、コーチングも、お祝いも、彩葉のバイト先へ押しかけるのも、卒業ライブへの参加も、

その全てに、()はいなかった。

 

〜〜〜

 

月に帰って、地球でいうところの数年が経過した。

彩葉に教えてもらったお伽話のかぐや姫よろしく、()地球であったことは忘れてバリバリ仕事をしていた。

地球からお供として連れて帰った犬DOGEは、月に来てほとんど月人になったから、それを見守りながら。

 

 

そんな時、歌が聞こえてきた。

彩葉の歌が。

 

 

あの歌だ。彩葉が()の卒業ライブのために作ってくれた、確かお父さんとの共作だった曲。

一番は()が歌詞をつけたけど、二番以降は()の知らない歌。きっと彩葉が歌詞をつけてくれたんだ。

歌が聞こえてきて、()は、(かぐや)のことを全て思い出していた。

 

「この一瞬を、最高の、パーティーにしよう……」

 

 

彩葉に会いたい。

 

決めた。地球に行こう。

今度はしくじらない。前は仕事を放り出したのが悪かったんだから、ちゃんと代役も立てて、姫にも相談しよう。準備に時間はかかるかもしれないけど、月の技術なら時間も戻れる。時間遡行は許可がないと行えないが、今回くらいのものなら許されるだろう。

 

 

今度こそ、彩葉ともっと一緒に……。

 

〜〜〜

 

……ここ、どこ?

 

気がつくと、()は誰もいない砂浜にいた。

確か、歌が聞こえてきたはずだった。

彩葉の歌が聞こえて、地球のことを思い出して、自分の複製を作って、それから姫と協力して船を作って、歌いながら出発して。

……そうだ。隕石とぶつかったんだ。それで計器が誤作動して……。

 

……彩葉。

……失敗しちゃったみたい。

……彩葉。

 

彩葉の名前を叫ぼうとして、声が出ないことに気がついた。

駆け出そうとして、動けないことに気がついた。

水面に映る自分の姿を見て、身体がないことに気がついた。

 

多分これ、『擬態』できなかったんだ。()が乗ってきた船には環境の生物にオートで擬態する機能がある。月人は思念体だから本来は体を持たないから。となると、()は依代を見つけない限り幽霊みたいになっちゃう? うぉぉん虚しい〜。

 

 

最初はそんな楽観的な感想も出てきたけど、状況を理解すればするほど思考がクリアになっていく。自分の身に起きていることを一つ一つ整理して、状況と照らし合わせていく。

 

……ドジっちゃったなぁ。

 

頭を抱えることもできないまま、ゆっくりと時間をかけて、絶望していった。

 

〜〜〜

 

存在しない膝を抱えて、()は何年も何年も波打ち際に佇んでいた。人っこ一人来やしない。()はここでただ一人、孤独と共に過ごしていた。

ずっと、頭の中で歌を歌って過ごしていた。たった一つの歌を。

 

……この一瞬を、最高の、パーティーにしよう

 

 

何千回目かのリフレインで、聴覚に何かをとらえた。

これは、人の声だ。

 

顔を上げると、砂浜に男の子が立っていた。小さな子だ。耳を澄ませている。()の声が聞こえるの?

 

男の子が後ろを振り返った。誰かに呼ばれたのか。だめ、行かないで。私の話を聞いて。

そんな思いが繋がったのか、私の意識はウミウシの体に入り込み、

 

「待って!」

 

そう言葉を発せた。

 

〜〜〜

 

ウミウシは、()と一緒に月から地球に来ていた犬DOGEが体を得た姿だった。犬DOGEの方は『擬態』がうまくいっていたらしい。狭い体に二人で同居することになっちゃったけど、()としては動けて言葉を発せられることが嬉しかった。ずっと一人で歌っていたから。

 

声は出せたが、最初は男の子と会話は通じなかった。言語が違うのだ。前にネットで見たどれとも異なるし、もしかしたら全然違う時代、遠い過去や未来に来てしまったのかもしれない。隕石との衝突で船は色々故障していたし……。

月人にとって、言語の解読はお茶の子さいさいだ。だが、ウミウシの体だと発話は十分にできなかった。()は彩葉といた頃得意だったボディーランゲージを交えて男の子とお話しした。すぐに仲良くなって、毎日のように海辺で一緒に遊んだ。

男の子が急に来なくなるまで。

 

ウミウシの身体を引きずって男の子の元まで会いにいくと、男の子は一人で横になっていた。顔色が悪かった。冷や汗をかいていた。すごく辛そうだった。でも、誰も看病する人もいなかった。

 

『歌ってよ』

側にきた()に、男の子がうわごとのようにそう言った。

 

()は精一杯歌った。この体じゃうまくできてはいなかっただろうけど、歌った。そうすれば、男の子は少しだけ笑ってくれたように見えた。

だから、()は歌い続けた。男の子が辛くなくなるまで、動かなくなるまで。

 

 

そうして、()はまた一人になった。

 

おそらくここは彩葉がいた世界より遠い過去だ。だとしたら、()はずっと後にまた彩葉と会えるのだろうか。今の状態じゃ、とてもじゃないけどわからなかった。

 

ヤチヨ、どっかにいるんでしょ? 八千歳っていってたじゃん。助けてよ……。

 

〜〜〜

 

時は流れていった。

様々な出会いがあった。様々な別れがあった。

月人は老いないし死なない。合理的で、全てが決まっている。でも、地球の人々は違かった。

非合理的で、争いも多くあった。争いの方が多かったと言ってもいい。その度に()は、誰かの『これから』が消えていくのをただ見ていた。

 

月人であった()は、そんな一回きりの『終わり』を受け入れるのに、ひどく時間がかかった。

ウミウシの体でできることはなかった。ただ、見つめることしかできなかった。人々が死んでいくのを何千年も見送り続けた。

 

好きになった人もたくさんいた。

その誰もが死んで行った。

 

助けられなかった人を思い出すたび、内臓に引っ掻き傷ができるような感覚がした。

()がうまく伝えられたら、導けていれば。

あーあの頃は嫌なこともすぐに忘れられたのに。

……弱い自分から逃げられないことって、一番恐ろしいことなんだね、彩葉。あなたの瞳の奥にある(いろ)の意味、今ならわかる気がする。

 

〜〜〜

 

人は争いと同時に、科学技術も発展させていった。

電話、ラジオ、ブラウン管……そして、インターネット。

ウミウシの体で『Hello World』と送る。するとどこからか『Hello you』と返ってくる。衝撃だった。

科学技術は月の技術に近い。もっと技術が発展すれば、()が乗ってきた船を直接ネットに繋いで、もっと自由に、体の制約なく人と接することができるかもしれない。

 

そうだ、いつか仮想の世界に大きな広場を作りたいな。みんなが好きなことをして、殺し合うこともなく、誰も孤独にならず、いつでも返事をもらえる場所。

名前は……そこでハッとした。

 

バカだったなぁ……何で気がつかなかったんだろ。私が、ヤチヨになるんだ。

月での過去跳躍の許可もやたら簡単に出たと思ったよ。もう運命は決まってたんだね。

それなら、きっと、いや、必ず()は彩葉と再会できる。ほんの、あと数十年の間に。

 

……でも彩葉。もう()はあの頃の(かぐや)とは変わっちゃった。そんな(ヤチヨ)を、彩葉はどう思うのかな。

 

〜〜〜

 

さぁ、準備は整った。

仮想空間ツクヨミのプロトを引っ提げて、()は単独ライブを敢行する。歌うのはもちろん、彩葉が()にくれた歌、いつも歌い続けた()を救ってくれた歌。八千年の間に形を変えて何度も変奏した歌。

初めてのライブは、記憶の中のヤチヨのものよりはずっと観客は少なかったけれど、底抜けに楽しかった。歌えることが嬉しくて仕方がなかった。

それから何度もライブをした。飽きることなんてなかった。いつあの子が、彩葉が来てくれるか、そう思うと毎度ヒリヒリした。

いつも観客みんなを一人一人見て、あの子を探した。

 

 

そうして、ついにその日はやってきた。

……彩葉。

 

泣くんだろうなって思っていたけど、()は最後まで笑っていた。

……そうか。だからヤチヨはいつも、あんなに楽しそうに、笑っていたんだ。

 

〜〜〜

 

(記憶)はそこで終わる。

()は目を覚ます。

 

長い、長い(記憶)を見ていた。

時計を見れば、日付は九月十六日の朝だった。丸三日以上眠っていたのか? でも、入眠した記憶がない。気を失っていたのか。

 

……あれ、()の部屋ってこんなんだったっけ。まぁいいや。変な夢をみて頭が変になってるのかも。

とりあえず支度をして、学校に向かう。

 

 

 

 

俺の終わりは、長い夢と、少しの違和感から始まったのだった。




作中で語れない解説をします。
前話の最後、青い光をオリ主は見ています。これはオリ主を警戒していたFUSHIによるものです。
今話では、FUSHIの力によってオリ主は『原作でのヤチヨの全ての記憶』を見ています。夢だとオリ主は思っていますが、実際は『FUSHIに記憶を見させられる』→『気絶する』→『起きる』の順で物事は起きています。

まぁそれが何って感じですね。お話の関係でそうなった感じです。このお話にはご都合主義、捏造が多分に含まれています。ご注意ください。

あ、あとかぐや視点の彩葉とのお話も多分に捏造が含まれています。公式設定が出たら書き直すかも。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

<本編完結>親友のお隣さん~万の羽が彩るハッピーエンド~(作者:白豆男爵)(原作:超かぐや姫!)

超人でスパダリの女子高校生・酒寄彩葉の隣の部屋に住む親友の男子高校生・神崎万羽。▼万羽の存在がもたらす、皆さんの知るものとはちょっと違う「超かぐや姫!」の物語...


総合評価:613/評価:6.38/完結:54話/更新日時:2026年05月22日(金) 13:08 小説情報

超人酒寄彩葉と借金貧乏男子が運命的な出会いをする話(作者:陸結)(原作:超かぐや姫!)

完璧超人女子高校生酒寄彩葉と莫大な借金を抱えて日夜バイトを繰り返す男子高校生有原泉が運命的な出会いをしてハッピーエンドへ向かう話


総合評価:347/評価:6.07/連載:24話/更新日時:2026年05月31日(日) 22:21 小説情報

お隣の様子が急におかしくなってしまった(作者:納豆伯爵)(原作:超かぐや姫!)

若干デリカシーがなくてお人よしの伊織零士が、赤ん坊を拾ってしまった酒寄彩葉とばったり出会ったために忘れられない夏がやってくる物語。▼2026/03/23 タグ編集しました▼2026/03/31 タグ編集しました


総合評価:1136/評価:7.29/完結:80話/更新日時:2026年05月31日(日) 00:12 小説情報

超普通人!(作者:読み手のコットン)(原作:超かぐや姫!)

大変大変〜!▼超かぐや姫の世界に原作知識あり無自覚チートありの一般男性が迷い込んじゃった!▼この世界は何本にも枝分かれする不安定な世界だからそんな劇薬1人スポーンするだけでさあ大変!▼月見ヤチヨはなぜか実体化してるしいったいどうなっちゃうの〜!?▼次回、優希気絶する▼デュエルスタンバイ!


総合評価:740/評価:6.77/連載:27話/更新日時:2026年05月23日(土) 00:40 小説情報

どうせなら、キャンバスは白いほうがいい(作者:中山の補題)(原作:超かぐや姫!)

赤ん坊のころに孤児院の前に捨てられていた男の子、清水眞白のお話。色んな人と関わって、沢山のことを知りながら成長していく。その先で、人生はどのようになっていくのか。▼


総合評価:337/評価:7.67/連載:12話/更新日時:2026年05月24日(日) 23:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>