蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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二章の二

酒寄さんの力になれなかったその日の夜。

家に帰ってきたらまずゲームだ。『KASSEN』だ。プロゲーマーは基本的に四六時中ゲームをしなければならないからね。部活に入ってないのもそれが理由だし。もしゲームを長時間やるのが苦手な人がこの世にいるとしたら苦行かもしれない。そんな人いると思えないけど。ちなみに俺は配信もするタイプのプロゲーマーなので、今日は夜の用事までは配信しながらゲームをする。

今夜は夜に用事がある。ヤチヨのライブだ。

 

月見(るなみ)ヤチヨ。8000歳で分身もできるAIライバー。全世界での知名度はもはや知らない人がいないレベルまで来ていると思う。なぜかって? ヤチヨは仮想空間ツクヨミを使った開発者その人だからだ。ヤチヨはツクヨミを引っ提げて鮮烈デビュー。今ではツクヨミの利用者数は億に達してるし、ツクヨミ内の通貨は現実の通貨に変換もできる。最近の配信者プロゲーマーはツクヨミ内の通貨、ふじゅ〜で生活してる人もめっちゃ多い。俺もその一人。

そんなヤチヨのミニライブが今夜ある。というか毎晩のようにある。ヤチヨは配信頻度も毎日と高いしほぼ毎日ライブもしている。正直プライベートとかあるのか? と言うレベルの活動頻度だ。で、俺は今日そのライブを見に行く。まぁぶっちゃけ言うと俺はヤチヨの大ファンというわけではない。曲も聞くし配信もたまに見るけど、ライブに毎回応募するほどのファンかって言われるとそんなことはない。今日見に行くのは、ライブ後の告知目当てだ。何でも今日は重大告知があるらしい。ライブの後に告知があるとかはあまり無いので、正直かなり興味がある。あとヤチヨのライブも最近ちゃんと見てなかったし見たくなったのもある。

 

アラームが鳴った。今日の『KASSEN』を適当なところで切り上げて、ヤチヨのライブ会場に向かう。今日は〜海沿いのステージか。ツクヨミはめっちゃ広いんだが、ツクヨミの街は全面水場に囲まれた島なので、とりあえず周りの水を海と呼んでいる。実際海なのかはツクヨミを造ったヤチヨしか知らないかもしれない。昔見た空飛ぶ牛列車(しかも有名人用の豪華版)に乗ってた人なら知ってるかも。それもヤチヨだろうけど。あるいはツクヨミの全貌を知りたがるツクヨミ界のマゼランとかいたら面白いんだけど聞いたことないな。まぁどうでもいいか。

ライブ20分前、会場に到着したけど、すでに人が飽和状態と言っても過言じゃない。流石の大人気だ。会場自体はチケットを買った人しか入れないんだが、ほぼ毎日ライブやっててこの入場数はどうなってるんだ。今日は重大発表もあるから特に人気なのかもしれない。実際チケットの倍率は高かった。てか毎度高い。じゃあ重大発表関係ねぇわ。ヤチヨが大人気なだけだわ。

ヤチヨのライブはツクヨミ各所でライブ配信もされる。ライブ配信はヤチヨのファンを公言しているライバー、忠犬オタ公が大体実況というかコメントをしてる。オタ公とヤチヨは仲がいいらしくてコラボもよくしてるイメージがある。俺もゲームでヤチヨと対戦という名のコラボをしたことがあるけど、あれは本当に人間か? と思うくらい強かった。SETSUNAで余裕で勝ち越せなかったのはヤチヨだけかもしれない。

 

 

そろそろ、始まるな。

カウントダウンが始まった。

 

9、8、7、6、5、4、

 

ステージの中央、湖上に厳島神社を彷彿とさせる巨大な鳥居が創り出された。

 

3、2、1、0。

 

電子の海の歌姫が、鳥居の上に降臨する。

 

「ヤオヨロー!」

「神々のみんな〜、今日も最高だったー?」

 

ヤチヨの登場で会場の盛り上がりはピークに達した。歌う前からブチあげるなんてヤチヨはすごい。そう思った。

 

「よ〜し、今宵も皆を誘っちゃうよ⭐︎」

 

『Let's go on a trip!』

 

圧巻のライブの幕が上がった。

今回の曲は『星降る海』か。いいね。ちなみに俺はヤチヨの超大ファンって訳ではないが普通にファンではある。ヤチヨのライブは毎度仮想空間であることを活かした圧巻のパフォーマンスが売りだ。

今回も、ほら。ヤチヨの指の一振りで世界が水の底に沈んだ。

ヤチヨが水でできた橋を輝く魚と共に渡っている。そしてその後はみんな大好き、分身だ。何人ものミニヤチヨ(とみんなが呼んでる幼少版のヤチヨ。ロリヤチヨって呼んだりもする)に分裂して、会場の観客たちに声をかけたり絡んだりしてる。あ、こっちにも来た。

 

「やぁやぁ、楽しんでるか〜い?」

 

ヤチヨの歌は聞こえるまま、ヤチヨに話しかけられる。冷静に考えるとどういう技術なんだろうな。歌は前撮りとか? でも分身体みんなが喋ってるのは何なんだ。ヤチヨの素性が不明なのも相まって、ヤチヨAI説が有力なのはこの辺の謎技術からなんだろうな。

 

「やぁヤチヨ。久しぶり」

「久しぶりだね〜。ヘビノブとは前の大会以来かな? うんうん。元気そうで何より」

 

ヘビノブは俺のツクヨミでの名前だ。ヤチヨは基本的にツクヨミのみんなを呼び捨てで呼ぶ。まぁおふざけで君とかちゃんとかつけることもあるけど。というかヤチヨは結構ふわふわしてるというか適当なのでその辺も気分次第ぽい。

 

「ヤチヨのライブはいつ見てもすごいね。演出も、人も、ヤチヨも」

「ふふ〜、お褒めに預かり光栄でしてよ」

 

ヤチヨは変な言い回しが多い。古風な言い回しもたまにする。8000歳設定に忠実なんだと思う。そしてヤチヨはよく笑う。ずっと笑顔だ。

 

「おっと、そろそろヤチヨ戻らないと。またねヘビノブ!」

「うん。また」

 

ライブは短い。多分話に来てくれたのも演出の一環なんだろう。

分身のヤチヨたちが数多の色に輝く魚へと変身して、海となった空を泳いでいく。満点の星空のように、光がヤチヨを中心に、魚群のように、流星群のように空を舞う。

輝きに包まれたヤチヨが、サビのラストを歌い上げる。輝きが舞い散っていく。

そうして、曲が終わり、世界が静寂に包まれる。

曲が終わるとどうなる? そう、歓声が爆発する。

今日のライブも良かった。やっぱヤチヨは世界一の歌姫だわ。ただの一ファンに過ぎない俺でもそう思うライブだった。

 

っと、今日の目的はこれだけじゃなかったんだった。

会場の中心で大きく手を振ってファンの歓声に応えていたヤチヨの方を見る。

 

「イェーイ! 感謝感激雨アラモード! ヤチヨは果報者なのです。あ、ここでお知らせ!」

 

お、重大発表だ。イベントとかの発表なのかな。

 

「ヤチヨカップっていうイベントを開催しま〜す⭐︎ FUSHI、詳細よろしくぅ」

 

イベントか。ヤチヨ本人の名前を冠してるし、相当力の入ったものなんだろうな。重大発表っていうだけありそうだ。

ヤチヨに言われてヤチヨの肩の上から声が響く。ヤチヨの相棒? マスコット? のウミウシ、FUSHIだ。

 

「はーい! 参加資格があるのはツクヨミの全ライバー! 一ヶ月の期間の中だけで最も多くの新規ファンを獲得した人が優勝だよ」

 

こりゃまた、ヤチヨじゃなきゃ炎上必至の企画だな。しかも新規ファンの数を競うとなると、既存ファンが多い人は不利……、いや、知名度をゼロから稼ぐのも難しいし、案外そうでもないのか? 少なくとも新規にもワンチャンある企画なのは確かっぽい。

 

「優勝者にはなんと、ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈! 世界一盛り上がるコラボライブステージを一緒に作れるよ!」

 

場が騒然とする。俺も流石に面食らった。ヤチヨといえば、ライブはソロというイメージがあるからだ。実際コラボライブはやったことないはずだ。え、そんなことやっていいのか。しかも新規にもワンチャンある企画内容で? こりゃ重大発表だわ。

 

 

バーン! とライブ会場の片隅で大きな音がする。俺含め観客たちも思わずそちらを向く。現れたのは、虎たちに引かれた屋台の車。それが表すのはツクヨミではただ一つのグループだ。それに気づいたファンたちも声を上げる。

 

「黒鬼だ!」

 

黒鬼こと、ブラックオニキス。3人組のプロゲーマーユニット。アイドルとしても人気だ。3人とも鬼のツノを生やしているアバターが特徴だ。寡黙でクールな(らい)。地雷系女装の男乃依(のい)。そして中心に立つリーダーの赤髪、俺の()()()()()()()の、帝アキラ。

黒鬼はツクヨミ内でも屈指の人気を誇る男性グループだ。今回のイベントでも既存ファンの数も含めたら優勝間違いなし、新規ファンでもまぁ優勝だろうといったくらいの人気だ。

 

「よう、子ウサギども。お前らの帝様が来たぜ!」

 

そう言うとアキラは指をパチンと鳴らす。そうすればライブ会場のモニターがジャックされて、黒鬼のスポンサーやら大会の記録やらが表示される。あ、この大会俺とヤチヨと同率だったやつだ。続いてライブ映像も流れる。こいつらプロゲーマーやりながらアイドルもしてるバイタリティがヤバすぎるグループなんだよな。というか、俺がアキラとチームだった頃のアキラはこんなキャラじゃなかったから、多分今のチームメイトのどっちかの方針なんだろうな。

 

「また、祭りが始まるな」

「俺って今日も作画良すぎ♡」

 

うん、なんとなく乃依の方針な気がする。あんまりゲーム中以外喋ったことないけど。

 

「俺たちに優勝して欲しいよな? 底なしの夢を見せてやるぜ!」

 

そうアキラが締めるとあたりに紙吹雪のエフェクトが舞い散る。派手だなぁ。まぁこういうキャラだからこそ今の人気があるんだろう。黄色い歓声もめっちゃ上がってるし。

こんな宣言してるし自信満々って感じだな。正直こんな演出見れば俺も優勝は黒鬼な気がしてくる。いやでも黒鬼はもうツクヨミ内だと人気が飽和し切ってる気もするしどうなんだろうな。確実とはいえないのかもしれない。どちらにせよトップ争いには入るのは確実に見える。そんだけすごいグループなんだよな、黒鬼。

 

「ってことで俺たち優勝するから。ヤチヨちゃんコラボよろしくね」

 

アキラがヤチヨを見上げながらそう宣言する。宣言って言い方が本当に正しいだろうな。

 

「そういう運命なら、ヤチヨは従うよー」

 

ヤチヨにはどう見えてるんだろうな。未来でも見てそうな顔をしてる気がする。案外、主催者から見たら結果は見え見えなのかもしれない。

 

 

 

さて、重大発表も見れたし、俺はそろそろ戻るか、ゲームに。どうせヤチヨのライブ中はマッチング過疎ってたし、ライブも見れて満足だし。

 

会場を後にしようと背を向けた瞬間、すぐ近くからめちゃくちゃ大きな声が上がった。

 

「やぁぁぁちぃぃぃよぉぉぉ!!!」

 

うお声でっか。流石の俺でも振り返った。声の元はそれなりに近くて、すぐ目視できた。声の主はウサ耳金髪の女の子だ。側には犬?と……あのアバター、もしかして……。

 

「かぐやがヤチヨカップ優勝する! そんで絶対コラボライブもする! いろh「ちょ! 何やってるの!」

 

おそらく一人称が『かぐや』の女の子が高らかに優勝を宣言してた。そして横にいた狐耳の女の子が急いで止めた、って感じか。まぁあんな宣言すればみんな注目するもんな。てか声デカかったしみんな注目するわ。

そんなことより……、あのアバターの雰囲気、そしてかぐや?さんが言いかけてたの、もしかしなくてもあのもう一人の狐耳の女の子の名前であろう、おそらく『いろは』。まさか……あれ、酒寄さんか?

かぐやって子はおそらくクラスメイトとかじゃなさそうだけど、どういう関係なんだろう。ここ数日で酒寄さんの知らないところがたくさん目に入ってくるな。なんか、まるで物語が動き出したかのように……。まぁ考えすぎか。

 

 

 

この時なんとなく俺は感じていた。俺が転生した意味が、もうすぐわかるんじゃないかって。

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