蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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しばらく辛い話です(今更)。この作品の概要にある通り、救いのない話になる可能性もあります。ご注意ください。


終章の三

ヤチヨはいない、加えて、今朝見た夢は事実なのだろう。そうなるとかぐやちゃんを探すのも困難だ。かぐやちゃんの名前は彩葉さんが名付けていた。この世界でも彩葉さんとかぐやちゃんが一緒にいるとしても、同じ名前をつけた可能性は低そうだ。竹取物語もないし。

 

いや、もう、そういう話でもないか……。あの夢が本当だとすると、ヤチヨはかぐやちゃんだ。

そのヤチヨが、いない。

 

俺はただ、ハッピーエンドにしたくて。でも、俺のせいで、ヤチヨは、いなくなってしまった。

あの夢が本当なら、俺が何もしなければ、かぐやちゃんは地球に帰ってきて、でもそれは八千年前で、ずっと孤独のなかで彩葉さんを探して、そしてやっと彩葉さんと会えて……。八千年が報われるところだった。それを、俺は、無かったことにして……。

 

 

……ヤチヨがかぐやちゃんなら、かぐやちゃんを引き止めればヤチヨはいなくなる。それなら最早、みんなでハッピーエンドなんて最初から無理だったのかもしれない。

だったら、俺は、どうしたらいいんだ。

 

俺は、どうすればよかったんだ。

 

 

 

 

……。

アラームが鳴った。

そろそろ家を出ないとアキラとの約束の時間に間に合わない。せっかく会ってくれるんだ。行かないと、悪いだろう。

鉛のように重くなっている体を動かして、家を出る。

そうだ。彩葉さんのことだけでも確かめないと。

 

 

駅にたどり着く。やっぱり駅までの道もかなり変わっていた。しばらく地図アプリは手放せないな。

こんなに世界が変わっていると、アキラを探すのも困難かと思ったが、簡単に見つかったら人だかりができていたからだ。人だかりが壁となって一瞬気付かなかったが、囲まれているのはアキラだった。見た目は前の世界と変わってないが、前と違って人に囲まれてる。なんでだ?

 

近づくと、俺に気づいたアキラがこっちに向かってくる。人だかりが割れて、アキラがこちらに来る。

 

「よう、ノブ。……ちゃんと本物っぽいな」

「時間とってくれてありがとう、アキラ。って、本物っぽい?」

「こっちの話。とりあえずここじゃ人も多いし場所を移そう」

 

アキラは出来ていた人だかりに「悪い、これから用があるから。子うさぎのみんな、またな。」と言ってウインクをする。そうすれば、人だかり……アキラのファンたちは黄色い声をあげて俺たちを見送ってくれた。

なるほど。この世界だとアキラは顔も出して活動してるのか。人だかりも納得だ。

 

 

アキラについていくと前の世界でいつだか一緒に食事をした店みたいな、高そうな個室の店に着いた。アキラは慣れた様子で中へと入る。立っていても仕方ないし俺も続く。

 

二人専用の部屋に入って席に着く。やや空気が重い。いや、俺の空気が重いのかもしれない。まだヤチヨについての考えが纏まっていないから。気分はまだ重い。

 

しばらく無言が続いたが、先に話を切り出したのはアキラだった。

 

「まずは確認だけど、お前本当にノブだよな? なんかで証明出来るか?」

 

そう言われると困る。この世界は前の世界と全然違う。身分証とかは持ち歩いているが、そういう話じゃないだろう。エピソードとかそういうことを求めていると思うが、俺の知っている話と同じじゃない可能性も高い。なら、ある程度正直に言おう。

 

「身分証とかそういう話じゃないよな。そうなると、正直証明出来るもんはないかもしれん。()()世界だとどうなってるかわからないし」

 

「『この世界』、ね。ここ一年の記憶がないって言ってたけど、それだと彩葉と知り合いだったっぽい言い草なのがなのが謎だった。……お前、何者?」

 

俺が何者か。難しいな。俺の現状を説明するのは難しい。なぜなら俺の能力は証明できないからだ。能力を使えば世界が変わる。使った事を俺以外が認識することは基本的に出来ない。だから彩葉さんと会う必要があるって話になるわけだし。

仕方ない。能力の話抜きで説明するしかない。

 

「俺は……別の世界からきた零落信秀。としか言い表せない」

 

一番適切な説明がこれになるだろう。本当のことだし。

 

「この世界のノブは?」

「今は俺がこの世界の俺、って感じか。世界を変えた結果、俺が知ってる世界と違う世界になったっていう方が正しい。扱いとしては別の世界から来たのとあまり変わらないけど」

「ふうん……。じゃあ、お前の認識だと俺とお前ってどういう関係?」

 

どういう関係……なんか口にするのは少し恥ずかしいな。

 

「元チームメイトで、親友」

「なるほど。わかった」

 

アキラは何か納得した表情で頷いた。

 

「とりあえずお前のことは信じる。あと、お前のいう『この世界』では現チームメイトな?」

「え……え? じゃあまだ琴さん現役なのか?」

「そうだけど。そっちだともう引退してたのか。確かにこっちでももう引退って話してたしな。そういうこともあるか」

 

こちらの世界だと俺とアキラはまだチームメイトらしい。あれ、じゃあ雷と乃依は……?

 

「雷と乃依はどうしてるんだ?」

「らい? のい? 誰だ?」

 

そう、なるのか……。この世界だとアキラと雷乃依兄弟は出会っていないのか……。ツクヨミがないから出会わなかったのかもしれない。

……あぁ、また、ハッピーエンドになるべき『みんな』のうちの、居所がわからない人が増えてしまった。……何をしているんだろう。

 

「いや、わからないなら良い」

 

口から言葉は出たが、表情は抜け落ちてしまっていたかもしれない。こちらを見るアキラの表情は何か言いたげだったが、かける言葉が見つからなかったのかそれに関しては何も言わなかった。

仕切り直すといった体でアキラが話す。

 

「とりあえずノブのことは少しだけわかった。で、なんで彩葉のことを聞きたかったんだ。彩葉とはどんな関係だ? そっちの世界だと彩葉はどんな子だった?」

 

そうだ。彩葉さんのことを聞きに来たんだ。どこにいるか、何をしているのか聞かないといけない。かぐやちゃんと一緒にいたら一番良いけど……。

というか、彩葉さんとのことを話そうとするとかぐやちゃんのことを話すのが必須か。まぁちょうど良いか。

 

「彩葉さんとはクラスメイトだった。かぐやちゃんっていう共通の知人を通じて仲良くなって、ライバー活動とか色々手伝ったりしてた感じ。どんな人って言うと……優しくて、真面目で、頑張ってて、音楽が好き。って感じか?」

「音楽が……へぇ」

 

そういうアキラの顔は優しいものだった。

 

「彩葉はな、父さんが死んでから音楽とは距離をとってたんだ。でもそうか、そっちだと音楽をやってたか……」

 

よかったな。そうアキラは言った気がした。

 

「で、なんで彩葉を探してるんだ」

「簡単にいうと、彩葉さんも俺が元いた世界のことを多分覚えているから。事情のすり合わせもしたいし、この状況に混乱もしてるだろうから心配だからな」

「そうか」

 

アキラはそういうと、先ほどまでの優しい顔から一転して難しい表情になって黙った。何かを言いあぐねているような、そんな顔だ。

 

「それで、彩葉さんは今どこにいるんだ?」

「……」

 

アキラは押し黙ったままだ。ここまで話してまだ信用できないとかいうんじゃないだろうな。いやそりゃ普通は信用はできないだろうけど、さっき信じるって言ったじゃん。アキラはそういうの突き通すだろ。

 

「アキラ?」

「……彩葉は」

 

アキラは俯いたまま重い口を開いた。

 

 

 

「彩葉は死んだ」

 

 

 

「え……?」

 

今、なんて。

 

「一年くらい前か、彩葉は交通事故で死んだ」

 

しんだ いま しんだっていったのか

視界が歪む。頭が痛い。

なんで。どうして。そんなふうな言葉が、声にならずに口から漏れ出た。

彩葉さんが、死んだ?

そんなことがあっていいのか? 元からいなかったわけでもなく? 死んだ? なんで? 

なんで、彩葉さんが。

 

 

 

「なぁ、聞いてくれるか。彩葉のこと、家族のこと、俺のこと。前も話したけど、きっと今のお前は覚えていないから」

 

混乱している俺に気づいてから知らずか、アキラは俯いたまま独白のようにそんなことを話し始めた。

 

「父さんが死んでから、母さんは変わった。

以前よりも苛烈に、押さえつけるように、子どもである俺たちに接するようになった。

それを俺は責めることはできない。母さんなりに俺たちに強くなって欲しくてやったことだから。もっと良いやり方はあっただろうけど、多分母さんはそれしか知らなかったから。

彩葉は父さんに似て優しかったからな。母さんのそういう思いを真正面から受け止めてしまってた。押しつぶされてしまうほどに。

それに一応フォロー入れていたけど、どれだけ効果があったかはわからない」

 

アキラの話は、混乱している俺の耳に何故かスッと入ってきた。

アキラの、彩葉さんの家族の話。

 

「俺は、父さんが死んで不安定になった彩葉が俺に依存することを危惧した。

だから家を出た。

彩葉に家を出る道もある事を例示する目的もあった。

母さんとずっといると彩葉は耐えられないと思ったから」

 

それは、歪な家族の話だった。彩葉さんが彩葉さんになったのが少しわかる話だった。

 

「でも、彩葉はある程度耐えられてしまった。

母さんを絶対としてしまった。

母さんと対等になろうとした。母さんになろうとした。

でも、ずっとは耐えることができなかったんだ。

母さんの期待はそれだけ重かったし、答えようとする彩葉の思いも強すぎた」

 

彩葉さん……。

 

「結果として起きたのが事故ってだけで、彩葉は多分……もう……限界だったんだ」

 

それは、彩葉さんの死が、どうやったって起きたことだってことなのかよ。

彩葉さんが家を出なかったら、いや、家を出ててもかもしれない。避けられなかったって言うのかよ。

前の世界は彩葉さんが生きてたのに。

この世界と、前の世界、違うことといったら。

ヤチヨ。

彩葉さんはヤチヨのファンだった。ヤチヨが彩葉さんの支えになっていたなら。

 

 

 

俺のせい?

俺がかぐやちゃんを守ろうとして、全部壊したのか?

俺が何もしなければ、もっと上手くいったのか?

俺が余計なことをしたから、ヤチヨも、彩葉さんも、いなくなった?

俺は、何のために……。

 

俺は、何をしているんだろう。

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