蛇足物語 作:ロバと子いぬ
文章が綺麗な人に書き直してほしすぎる。
「……いや、悪い。今のノブは彩葉と仲が良かったんだよな。そんなお前に話す内容じゃなかったな……。ノブ? どうした?」
朧げながらアキラが何か言っているのがわかる。けど、全然頭に入ってこない。
俺のせいで彩葉さんが死んだ。俺のせいでヤチヨが消えた。その事実が、俺の頭の中でぐるぐると回っている。堂々巡りだ。
彩葉さんを生き返らせる……彩葉さんの死を『無かったこと』にすることは可能だ。でもアキラは言っていた。『もう限界だった』って。俺は過去の出来事を『無かったこと』にはできるが、『無かったこと』にしたことがなどと起きないわけじゃない。事故を無かったことにしても、いずれは……。
ヤチヨ。ヤチヨがいれば彩葉さんは死なないかもしれない。でも、ヤチヨを蘇らせる方法は、俺には思いつかない。俺は、自分で『無かったこと』にしたことを『無かったこと』にはできない。もう、取り返しはつかない。なにをしても、ヤチヨは戻ってこない。
「みんなでハッピーエンドにするって言ったのにな」
「ノブ?」
俺はフラフラとした足取りで立ち上がり、店から出ようとする。
「ちょ、どうした?」
慌てたアキラに肩を掴まれるが、俺はもう、今は誰にも構ってほしく無かった。
「悪い、帰るわ……すまん」
俺は無気力にアキラの制止する手を振り払って、店から出た。
アキラは追って来なかった。
日が暮れた頃、俺は家にたどり着いた。道なんてほとんど覚えてなかったはずなのに、気がついたら家に着いていた。
家に着く頃にはもう少し冷静になっているかと思ったが、全然そんなことはなく、俺ほとんどは後悔と絶望で渦巻いていた。わずかに残った冷静な部分だけが思考を回していた。
カバンを下ろして、服も着替えずにベッドの上で丸くなる。スマホが鳴ったので何となしに通知を見れば、学校の友人から連絡が来ていた。そういえば病院に行くことになってたな。まぁいいか、後で返せば。
暗い部屋の中、エアコンの稼働音だけが響いている。そういえば朝家出る時エアコン消さなかったな。まぁ、いいや。
黒い感情を頭の中で回し続けたまま、俺はぼうっとすることしかできなかった。
彩葉さんのお父さん。
ほとんどの思考が黒い感情に染まった中、わずかに残った思考が気がついた。
アキラは『父さんが亡くなってから』と言う話をしていた。ならば、アキラと彩葉さんのお父さんが死ななければ彩葉さんだけでも助かるのかもしれない。
わからない。が、今の俺にできることはそれくらいだ。やるだけやってみる。鈍くなっている思考でできることなんてこれくらいだ。
顔もわからない、いつ死んだのかもわからない彩葉さんのお父さんの死を『無かったこと』にできるかはわからないが、この能力はイメージだ。イメージできればやれるはずだ。今の俺には、ベッドで丸くなったまま使えるこの能力がひたすらありがたかった。
息を吸って、吐く。そしてイメージする。
【彩葉さんのお父さんが死んだのを『無かったこと』にする】
意識が暗転した。
〜〜〜
気がついたのは、九月十七日の夜だった。スマホのカレンダーを確認しても、今度は一年経っているなんてことはない。2031年だ。今回はほぼ丸々一日飛んだらしい。やっぱり変わった過去の大きさによってかかる時間が変わるのかもな。そう思った。
意識は飛んでいたが、俺の思考の重さは変わっていない。だが希望が少しだけ湧いていた。これで彩葉さんが生きていれば、もしかしたらまだ何かやりようがあるかもしれない。みんなでハッピーエンドを目指せるかもしれない。そんな淡い希望を抱いていた。
彩葉さんの現状を確認するために、アキラに連絡しようと連絡用のアプリを開く。今度は前と違ってアプリは変わっていない。
ない。
サ行に酒寄の名前がない。
何故? いや、そうか。
アキラは以前言っていた、父が死んで無かったらプロゲーマーになってなかっただろうって。ということはそういうことなのだろう。
俺はこの世界だとアキラと知り合っていないんだ。全く別の人生を歩んでいるんだ。
俺は、無二の親友をも失ってしまった。
もはや何も考えられなくなっている頭で、考える。
彩葉さん。彩葉さんだけでも無事ならばいい。調べる手段は限られる。アキラ経由で知ることはできない。インターネットの力に頼るくらいしか、今の俺にできることはない。
そう思って『酒寄彩葉』で検索する。
出てきたのは一つの記事だった。
『京都府の自動車事故。被害者は酒寄さん一家』
頭が真っ白になった。
震える手で、ニュース記事を見る。十年前の記事だった。
四人で車に乗っていた酒寄さん一家がトラックに突っ込まれて、母以外は亡くなってしまったという内容がそこには書かれていた。
母以外、ということは、彩葉さんと、アキラは……。
まただ。
また俺が余計なことをしたせいで、大切な人が、親友が、いなくなった。
もう、何も考えたくない。
俺はベッドに丸くなって布団を頭から被る。
何も見たくない。何も考えたくない。
俺はただ、ハッピーエンドにしたかっただけなのに。
近づこうともがくほど、遠ざかっていった。
もう、俺は、どうしたらいいかわからない。
渦巻いた思考がさらに渦巻き、俺の意識はそのうち闇に飲まれていった。
〜〜〜
夢を見ている。
真っ白な部屋にただ一人、俺はいる。
『転生先で貴方が得る権能は、『過去の否定』です。因果軸に干渉し、世界線を更新する。付随して、世界線変更後に貴方が存在すれば記憶を引き継ぐ権能も得ます』
誰かが俺に話しかけている。ただ、相手の姿は見えない。
……そうだ。これは俺が転生する時に見た光景だ。真っ白い部屋にただ一人、『神』から、淡々と言葉だけを伝えられた。
『この権能は全ての事象に適用できますが、この権能で否定した事象を否定することは出来ません。但し、因果軸でそれ以前の因果を否定することで、事実上権能の使用を無かったことにすることが可能です』
これは……つまり、『無かったこと』にしたことを『無かったこと』にする方法があるってことか? そんなことを伝えていたのか?
『例えば、
俺の、転生の、否定。
つまり、俺がいなくなれば、みんな、元に戻る。
『ここでの会話は貴方の記憶からは消去されます。ですが、必要な時がくれば復元されることでしょう』
あぁ、忘れていたのはそういうことか。
『……貴方の物語が、良き結末を迎えることを願っています』
……その言葉を聞いた途端、俺の意識が浮上していく。
〜〜〜
目を覚ます。
すっきりとした朝だった。今まであった黒い靄は晴れ、悩んでいたことの解決策が見つかった感覚だった。……そして、事実そうだった。
今回も夢の内容ははっきり覚えている。
俺が転生する時、神と話した内容だ。
俺のできることをずっと昔に教えてくれていた。『必要な時』というのは、俺が必要とした時ということなのだろう。
俺が行ってしまったことを、取り返す方法を。
ヤチヨはいなくなった。
俺が余計なことをしたからだ。
かぐやちゃんはわからない。
もしかしたらどこかにいるのかもしれないが、彩葉さんとは出会っていないだろう。俺が余計なことをしたからだ。
彩葉さんは死んだ。
俺が余計なことをしたからだ。
アキラも死んだ。
俺が余計なことをしたからだ。
ヤチヨの記憶を鑑みれば、俺が余計なことさえしなければ、ヤチヨと彩葉さんが再開することは約束されていた。
彩葉さんならきっと、ヤチヨがかぐやちゃんだって気づいて、ハッピーエンドにつれていけたはずだ。それを、俺は止めてしまった。
簡単なことだった。
俺がいなくなれば、全て元に戻る。
ハッピーエンドに、きっとなる。
『良き結末を』か。ハッ。……運命とやらが決まっているなら、俺のこの結末も神はわかっていただろうに。
まぁ、元々俺は転生者。一度きりの人生に付け足された、アディショナルタイムだ。ヤチヨ曰く元々この世界にいなかったらしいし、いなくなった方が良いんだろう。
余計な付け足しは、いらなかったんだ。
【俺は、俺の転生を『無かったこと』にする】
これが
誰も知らない、知らなくて良い。知るべきじゃない物語。
──ああ、でも。
みんなでハッピーエンド、俺は入れなかったみたいだ。
ごめん。彩葉さん。
ということで、これにてオリ主視点のお話は終わりです。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
この文を書くにあたって、書きたい場面が三つあると言いました。そのうちの一つが今回にありました。
また、この作品には私の思想が含まれているとも言いました。その場面に含まれています。
それが『蛇足は必要ない』という部分です。
『蛇足』は『オリ主』ともルビを振ることができます。
私はオリ主モノやクロスオーバーが好きなのですが、超かぐや姫!という作品は別です。原作が唯一のヤチヨがヤチヨとして救われるエンディングだと私は強く思っています。
そういう意味で、オリ主は必要ない、という思想が含まれた作品でした。感想で察してる人もいましたね。
オリ主である蛇足が主役の物語、ということで『蛇足の物語』。『蛇足物語』というタイトルとなっておりました。
ということで皆様、このような拙い文を読んでいただきありがとうございました。
次回更新はいつも通り二日後予定です。