蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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蛇足は捏造設定がいっぱいだ〜そもそも高校三年生の彩葉が捏造だ


蛇足章の二

「ただいま」

 

玄関の扉を開けて家に入る。今日は学校を終えてから直帰してきた。友人の芦花と真実には悪いが、ヤチヨから聞く話を優先させてもらった。

 

学校で芦花や真実、あとは他のクラスメイトの何人かにも『零落くんって人を知ってる?』と言ったことを聞いてみたが、知っている人はいなかった。昨日見た記憶だと有名人ではあったみたいだし、誰も知らないということは少なくとも今の私が知れる距離の人ではないのかもしれない。あるいは、空想の中の人か。

 

リビングに入ってもヤチヨの声がしない、ということは、そう思ってスマホを開けばヤチヨは配信中のようだ。

ヤチヨの真実を聞いてから、ほとんどヤチヨと一緒に暮らしているようなものだが、ヤチヨ自体の活動は変わっていない。それを私が邪魔することもない。なので、一応帰ったことだけヤチヨに連絡して、私はいろいろ支度をしたり勉強をしたりしてヤチヨを待つことにする。

 

 

しばらく勉強をしていれば、スマホに通知が来る。ヤチヨからだ。『ツクヨミのいつもの場所で』とある。

私は勉強をキリのいいところで切り上げて、スマコンを装着。

ツクヨミに入る。

 

 

宇宙を思わせるエフェクトの後、いつも通り無事にツクヨミに入ることができた。

向かうのはツクヨミの頂上。ヤチヨの部屋だ。

 

権限を使用してヤチヨの部屋にワープする。最初にヤチヨの部屋に入った時はオフラインでしか入らないのかと思ったが、オンラインでも入ることは可能だった。もちろん権限が必要だけど。おかげで自宅からでもヤチヨの元に行けた。

月人であるヤチヨが作り上げただけあって、セキュリティは世界最高峰。プライバシーも万全だ。まぁ、ヤチヨから他の人のプライバシーは割と簡単に侵害できてしまいそうだけど。

 

 

「おまたせ。()()()

「いらっしゃい。彩葉!」

 

そう言ってヤチヨは私に飛びついてくるので、咄嗟に受け止める。ツクヨミの中だから感触も重さも感じないが、なぜか不思議と暖かい。いつか感触も匂いも重さも、暖かさも感じさせるようにするのが私の目標だ。

 

 

この部屋の中では、私はヤチヨを『かぐや』って呼んでいる。ヤチヨも一人称を『私』にしている。ここなら他の人に聞かれる心配はないし、やっぱり彼女はかぐやだから。と言っても、まぁ長年推してきた相手でもあるので、まだ不思議な感覚はある。こうやって急に近くなるといまだに緊張するし……。かぐやなのに……。いやかぐやでもか。

 

「今日もお疲れ様。学校どうだった? 楽しいことあった?」

「そんなに毎日変なことは起きないよ。かぐやじゃあるまいし。いつも通り」

「ちょっと。それって褒めてる?」

「褒めてる褒めてる」

 

あははと笑い合う。いつもの他愛ない会話だ。でも今日はそれだけじゃなくて、約束してたお話をしてもらう必要もある。

 

「それでかぐや。今朝の件、話してくれる?」

「……」

「ブレスレットが光り出して、記憶みたいなものが見えた話。帰ったら教えてくれるって言ってたよね」

「……そう、だね」

 

この話を切り出した瞬間から、ヤチヨはやや気まずそうというか、話しづらそうに言葉を詰まらせた。

そんなに話しにくいことなのかな? 朝の感じでもあまり話したくなさそうだったし。でも、別に話して困るようなことじゃなさそうに感じてしまうんだけど、何か深い理由でもあるのかもしれない。

 

「……ねぇ彩葉。話したくないって言ったら、どうする?」

「え? うーん」

 

話したくない、か。やっぱり深い理由があるのかもしれない。でも、今回前触れもなくブレスレットが光り出したし、覚えのない記憶も頭に入ってくるし、正直実害と言えなくもないことが起きてるわけだし……。

……それに、あの記憶が本当にあったことなら……『みんなでハッピーエンド』という言葉がなんか引っかかる。そこに彼がいないような……。

 

「そうだなあ。かぐやが話したくないなら無理にとは言わない。けど、今回急に起きたことだし、原因とかは知っておきたいかな。また起こるかもしれないし」

「そう、だよね」

「ああでも本当に、無理にとは言わないからね?」

 

困ったな。ヤチヨが嫌なことならしなくてもいいんだけど。……うーん、ヤチヨの表情を見るに、何かを恐れている感じがする。話すのが怖いのか、話したことで起きることが怖いのか。どっちにしても無理はしてほしくない。

 

「……大丈夫。話すよ。起きてしまった以上は話さないわけにもいかない。……ただ、一つだけ聞かせて?」

「なに? かぐや」

「彩葉は……何があっても、私を、ハッピーエンドに連れて行ってくれる?」

 

なんだ。そういうことか。

 

「勿論。これからかぐやが何を話すかはわからないけど、その程度で諦めたりはしないよ。ヤチヨを、かぐやを、ハッピーエンドまで連れて行く。一緒にハッピーエンドにする。そう、決めてあるから」

「……うん。ありがとう。彩葉」

 

きっとヤチヨにとってこれが必要な条件なんだろう。でも、少しもやっとはする。

 

「というか、一年も経ってるのにまだ確認しないと信じてくれないの? そのために私は人生かけてるんだから。信じてくれても良くない?」

「ち、違うの彩葉。信じてないってわけじゃなくて、ちょっと特殊な話で……」

「本当?」

「本当! 彩葉ならハッピーエンドまで連れて行ってくれるって信じてる」

 

まぁ良しとしよう。意地悪しすぎるのも良くないし。……ヤチヨだって不安なんだ。八千年も追いかけ続けてくれたんだし、一年くらいじゃまだまだ返しきれないよね。

 

 

 

「それで、あの光はなんだったの?」

 

本題に入る。光の原因がわかれば今後対処できるかもしれないし。

そう思って聞いたのだが、返ってきたのは私にはどうすることもできない、想像を超えた返答が返ってきた。

 

 

「実物を見たのは初めてだったけど……、結論からいうね。あの光はおそらく、『運命の切り替わり』、あるいは『世界線の移動』を知らせるもの」

 

 

運命の……なんて?

 

 

「そしてその後見えたっていう光景は、『以前の世界線の記憶』。つまり、前の世界の彩葉の記憶……だと思う」

 

 

前の……世界?

 

スケールが大きいというか、用語の意味がわかりかねるというか……。とりあえず一つ一つ聞いていくしかないか。

 

「えっと、何から聞けばいいか」

「ごめんごめん。月でも専門的なことは知らない人も多かったし難しいよね。じゃあはじめから説明していくね」

 

そう言ってヤチヨはホワイトボードを取り出す。

ちゃっかりメガネもしている。先生スタイルだ。

 

「まず、彩葉は運命論って知ってる?」

「詳しくは知らない、かな。運命は決まっているみたいな話だっけ」

「概ねそれであってるね。簡単に言えば、『この世界は初めから終わりまであらかじめ全て決まっている』って言うお話。パラレルワールドっていう考えの対極かな?」

 

パラレルワールドは確か……ひとつひとつ全ての行動とかで世界が分岐していくみたいな考え方だったはず。ヤチヨの話だと、運命論では世界が決まった一つしかなくて、パラレルワールドだと無限に分岐していくから、確かに真反対かも?

 

「それで、この運命論なんだけど、月の研究だと正しそうってなってるんだよね。この世界は一つしかない。あらかじめ決まった道筋を辿っている。ってね」

「じゃあ、私がかぐやと会うことも、今こうやって二人でいることも、昔から決まっていたっていうこと?」

「そうなるね」

「それじゃあ……『未来』ももう決まっているっていうことなの? 私の夢が叶うのかどうかも」

「うん。でも、()()()()()()()()。いるかもわからない神だけが知っているだけ。……私たちには未来はわからないし、未来に向けて努力することには変わりない、でしょ?」

 

そうか。決まっているからって、知ってるわけじゃない。それに、決まっているって言われたって、諦めるわけがない。それなら同じことか。変な勘違いをするところだった。

 

「それで、その運命論が関係あるの?」

「うん。私はこの決まった道筋を『運命』って呼んでいるんだけど、……実は一つだけ、『運命』を変える方法があるの」

「運命を、変える……その方法って?」

「その方法は……」

 

ヤチヨは少しだけいうのをためらって、

 

 

「過去を変えること。それがただ一つだけ運命を変える方法」

 

少しだけ日々の入ったガラスのような、憂慮するような真剣な表情でそう言った。

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