蛇足物語 作:ロバと子いぬ
いや〜今日で映画館での上映はおしまいですか。皆さんは何回見に行きましたか? 私は立川まで行きましたよ。パンケーキは食べれてないです。
追記:ああああああああああすみません。ミスって日付が1日ずれていた。もう諦めて19日の0時に出しました。ああああああもう本当にごめんなさい。
自分で……自分を……生まれなかったことにした……? そんな、そんないたたまれないことって……。
「そんなこと……あっていいわけが……」
「……あくまでも予想だよ。でも……ノブが生まれる前のノブがいなかった世界線と、今の世界線が一致してる。これは偶然じゃないと思う」
ヤチヨの言う『一致している』だ。ところどころとかじゃなくて、ノブが生まれるまで、あるいは、『地球でかぐやとして過ごしていた期間』までが完全に一致しているのだろう。さっきまでの話を聞けばなんとなくわかるが、世界線が変われば大なり小なり『運命』も世界も変わるように思えるし、完全に一致している、ということは、その二つの世界線は同じ世界線と言えるのかもしれない。
「……でも、零落くんがそんなことするとは思えない。仮にかぐやが月に帰るのを阻止して、それを戻せなくなったとしても、零落くんがそんなことをするとは……」
「そうだね。ノブは
そこでヤチヨは一度言葉を切った。
そして、後ろを向いて、誰かを手招きする。
今いるヤチヨの部屋にアクセスできる人は数少ない、というか、ヤチヨと私しかいないはずだ。ヤチヨが招待したなら別だけど……いや、いた。もう一人、というかもう一匹だけ。
「おいで、FUSHI」
ヤチヨにそう言われて出てきたのは、ヤチヨのお供、ウミウシのFUSHIだ。FUSHIはバツの悪そうな顔で姿を現した。
「FUSHI、話してくれる?」
「……ヤチヨが望むなら」
話す? この話の流れにFUSHIが絡む要素はあったか?
FUSHIは、おずおずと言った様子で話し始めた。
「アイツが……ヘビノブが、卒業ライブの終わりに『何か』をしようとした時、アイツを警戒していたボクは、アイツにヤチヨの
ヤチヨの、記憶を。
「でもFUSHI、それは人には耐えられるかわからないって……」
「確かにそうだが、それしかヤチヨの真実を『残す』手段がなかった。アイツが過去に干渉しているのは卒業ライブ中に確定していたし、何をするかわからなかった以上、ボクも賭けに出ざるを得なかった」
真実を残す? 賭けに出ざるを得なかった? そんなの、
「そんなのはFUSHIの勝手じゃん! それで零落くんが結果的に自分を消すことになったんでしょ? そんなのって……」
「だが、アイツの勝手でヤチヨは消えた。オマエも、ヤチヨがいなかったら自分がどうなっていたか想像がつくだろう」
「だけど!」
「はーいはい。二人とも落ち着いて〜」
ヤチヨの仲裁で血が上った頭を冷ます。
わかっている。
これはきっと、誰が悪いとかそう言う話ではないのだ。零落くんは私たちのことを思って過去を変えた。その結果、望まない現在が生まれてしまった。それをどうにかするために考えた結果、零落くんは自ら消えたんだろう。
でも、
「……でも、そんなの、あんまりじゃん……」
「彩葉……」
やるせなく思ってしまうんだ。どうしようもないことかもしれないけど、申し訳なく思ってしまうんだ。
……どうにかしたくなってしまうんだ。
「……かぐや」
無理難題なのはわかっている。けれど、何もせずに取りこぼすには、あまりにお世話になりすぎた。あまりに近くなりすぎた。
「零落くんを、連れ戻す方法はないかな」
だったら、足掻いてやる。『私たちのために』なんて理由で消えさせてたまるか。
私の言葉に、ヤチヨは少し驚いた顔をした。そんなに予想外だったのかな、私が零落くんを助けたいと思うのは。
「彩葉……ふふ、そうだよね。彩葉ならそう言うか」
相手が芦花だって真実だって、零落くんだって、私を大切にしてくれた人を見捨てたりなんかしたくない。私がそう思う人間だって思い出してくれたようだ。
「でも、ごめん。零落くんを助けるのは難しい……というか、今の私の力だと不可能に近い」
ヤチヨから告げられたのは、不可能の三文字だった
「……理由を聞いてもいい?」
「理由は三つ。一つ、ノブが消えたのは時間軸にして『過去』の出来事。船の機能を使えば過去に戻れる可能性はあるけど、過去に戻せるのは『情報』だけ。思念体である私はまだギリギリ飛ばせるとは思うけど、船が壊れている以上依代がなくて何もできない可能性が高い」
過去への干渉。まずそれ自体が難しい。ヤチヨはその技術を持っているけど、それでも難しいということだろう。それに、多分ヤチヨはあえて言わなかったけど、過去に何かを行うのはそれだけで世界線が変わるかもしれない。リスクも高いはず。
「二つ、『ノブがこの世界線にいない』。つまり、ノブを助けるためには別の世界線に干渉する必要がある。過去を変えれば世界線は変わるかもしれないけど、ノブが転生者って言っていた以上、それを信じるなら世界線を変えてもノブがいる可能性はかなり低い」
世界線を越える……っていうのがあまりピンときてないけど、どちらにせよ零落くん自体に干渉することが難しいんだろう。
ヤチヨは三つ目の指を立てながら、少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「三つ、……前二つをクリアしたとして、ノブを助けようとした場合の『運命』がどうなるか、全く予想がつかない。ノブが助かるのかも、ノブ以外がどうなるのかも」
それは……。
「……かぐやが私にこの話をしたがらなかったのに繋がるね」
「そうだね」
零落くんを助けたら、何が起こるかわからない。……最悪、私やヤチヨが消えるかもしれない。そういうことを言いたいんだろう。
技術的な壁があって、それを乗り越えた上で、『運命』というどうしようもできない壁が待っている。
ヤチヨが不可能と言えるのも頷ける理由だ。
……でも、それでも。
「ハッピーエンドにみんなでするって、零落くんと言ったんだ」
零落くんから言ってくれたことだ。私を元気づけるために言ってくれた言葉。
「そう言ってくれた本人だけバッドエンドなんて、間違ってる」
バッドエンドになんてなってほしくない。自分を消すなんて、そんなエンディングがあっていいわけがない。
「私は、友達がそんな結末になるのはいやだ。完全無欠のハッピーエンドにしたい。……だからかぐや。力を貸して」
真っ直ぐ、ヤチヨの……かぐやの目を見て、宣言と懇願をする。
私の力だけでできるとは思ってない。きっとかぐやの、月の技術が必要になる。
私は強欲だ。かぐやだけじゃなくて、友人の零落くんまでもを救おうとしている。けど、ハッピーエンドにするって決めたんだ。
それに背いたら、もう私じゃない。
ヤチヨがはたっぷりと沈黙して、ぽつりとつぶやいた。
「……彩葉のバイト先、ノブに教えてもらったんだ」
バイト先……ああ、確かに前の世界線では二人で押しかけてきたことがあった。よくよく考えてみたら、今の世界線だとかぐやはバイト先に来ていなかった。芦花と真実が私のお願いを聞いていてくれたんだろう。
「『KASSEN』の分の借りはヤチヨとして返したつもりだけど、バイト先を教えてもらった分のお礼はできてなかったな」
ヤチヨとヘビノブの戦績は五分五分だったはずだ。たしか月に帰る前のかぐやと零落くんの十本は三対七だったはず。負けず嫌いのかぐやらしい。
そして、お礼ができていなかった、ということは。
「……うん。私もやる。前の世界線を知ってしまった以上、ノブがいなきゃ完璧なハッピーエンドになんてならないもんね」
「かぐや……!」
「それに、『今の』私の力じゃ難しいって言ったでしょ? こう見えてもかぐやちゃんは天才なのです。彩葉が私の体を完成させる前に、ノブを助ける理論も作っちゃうもんね」
「……ふふ、かぐやが天才で最強なのは知ってるよ」
そう言いながらかぐやを抱きしめる。なんとなく、無性に抱きしめたくなったから。
これからやることは増えた。かぐやの体を作る勉強をしながら、かぐやと一緒に世に出せないような、世界を超える発明をしなくちゃならなきゃならない。
でも、きっと大丈夫。
だって、私たちは最強だから。
次回、十年後