蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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すみません、某ストリーマーをイメージした人が出ます


三章の一

夏だ! 休みだ! 夏休みだ! 夏休みが来た! 高校2年生の夏休みだ! 高校2年生の夏休みなんて一番遊ばなきゃいけない時期なんだから。と思いつつ、実は俺の通っている学校はそれなり以上に頭のいいところなので、遊ぼうと思っても一部の友人は受験勉強を始めていたりする。俺はeスポーツの推薦を受けるなり、そのままプロ専業になるなり、割と自由が効く立場なので勉強は最低限でゲームに打ち込む日々になるだろう。あとは精々活動の間に他の活動者を見るくらいか。

ヤチヨカップも実質今日からだ。よく考えてみると、ヤチヨカップの期間は俺たちみたいな学生の夏休みにぴったり重ねられている。新規ファン数を競うっていうところも鑑みると、ヤチヨは学生たちの中から輝く原石を見つけ出すためにこのヤチヨカップを開いたのかもしれない。まぁでも正直、学生でライバー活動を始める人って大体もう始めてる気がするし、埋もれてる中の誰がバズれるかレースになる気もする。あるいは今強い人たちが順当に勝つかか。ファン10人の人がファン1000人増やすのと、ファン100万人の人がファン千人増やすのだと難しさが大幅に変わる。もちろん後者の方がやりやすい。そういう意味では、黒鬼みたいな超有名どころが勝つのが順当かなと思う。まぁ黒鬼はファンが多すぎて逆に難しそうだけど。

ちなみに俺はヤチヨカップは参加しない。プロゲーマー兼ライバーとして既に活動しているしそこそこ数字もあるが、単純にライブに興味がない。ヤチヨの横に並べるのは面白そうだし、そういうイベントに勝つのは転生者っぽいけど、まぁ俺はゲームの方が大事かな……ってことで。

 

ということで夏休みは初日からゲームだゲームだ! 『SETSUNA』の素手縛りをやっていくぞ〜。配信開始! 関係ないけど俺は配信開始の挨拶とかはしてない。

『KASSEN』、というかツクヨミでは戦うための武器を装備できる。有名どころだと、ヤチヨは高速回転して相手を切り裂く和傘。帝アキラは銃や剣にもなる鬼の金棒。雷はよくわからん槍みたいな杖みたいなやつ。乃依は開くと弓になるフラフープ。とまぁ、マジで人によって違う。そして個性がありすぎる。大体は雛形となる武器があってそれを個人で使いやすく改造していくんだが、その雛形もほとんど全部変な形をしているし多機能で面白い。あとは武器ごとにノーマルスキルやアルティメットスキル(所謂ウルト)があるが、それも含めたら本当に武器のスペックは自由自在に弄れる。よくバランスを保てるもんだと思う。ま、実際はタイマンの『SETSUNA』で強い武器種とか、チーム戦で強い武器種とかはあるけど。遠距離メインとか『SETSUNA』じゃクソ難しいからな。その辺も含めてよくバランスが取れている。運営の顔が見てみたい。あ、ヤチヨか。

『SETSUNA』。レディファイトの掛け声で始まるそのゲームは、ツクヨミにおける最もメジャーな1vs1の格闘ゲームだ。格闘ゲームの中でも3D格闘ゲームの内に入るだろう。フィールド内を縦横無尽に動き回り、相手の体力バーを2本削り切った方の勝ち。シンプルなルールだ。

そんで、俺が配信でよくやるのは『SETSUNA素手縛り』。素手は素手でスキルやウルトも設定できるんだが、それも縛る。完全なステゴロで戦うってことだ。配信だと視聴者と戦うことも多いし、これくらいの縛りで練習にはちょうどいい。上澄みのプロとかじゃない限り負け越すこともないしパフォーマンスとしてちょうどいい。変な負け方じゃなきゃ負けても配信的には美味しいし三方お得だ。

今日やるのはランダムマッチじゃなくてルームマッチ、つまり視聴者戦だ。

 

「さーてさて、今日の最初のお相手は誰だ?」

 

配信主だから喋りもする。ちなみに配信のカメラは俺のことを追尾する自動カメラだ。ツクヨミは電脳空間なのでカメラがかなり自由に設定できるのが面白い。金かかってるところはカメラをプロに依頼したりするけど、俺の通常配信はオートにお任せだ。

 

「おお、いらっしゃい。えーとお名前は……『ジャガイモジャパン』さん。流石に聞いたことある名前だな。よろしく」

 

最初に出てきてくれたのは、紫の髪に学ランを模した袴を着たアバターの人だ。ジャガイモジャパンという名前は『SENGOKU』界隈ではたまに聞く。それとスマコンの知名度を上げるのに一役買った人だったはずだ。つまり俺より有名配信者ってこと。やばい。そういう人が来るのは珍しいからちょい緊張する。

ちなみに俺のアバターは黒いパーカーを着て左目の上に角が生えている。蛇の尻尾もついているって感じだ。あと和風。ツクヨミのアバターの服装は和風が多い。これは配信用のアバターだ。配信外だとアバターを少しマイナーチェンジしてたりすることもある。『SETSUNA』全一はそのままのアバターだとフリーマッチに入るのも気まずくてね……。

っと、話が逸れすぎたな。

 

「さて、そっちは武器もスキルもオッケーだから普通に使ってもらっていいから。それじゃあ早速始めようか!」

 

『レディ……ファイト!』

 

さてさて、お相手の武器は……、氷の槍か! 槍は『SETSUNA』だと比較的メジャーな武器だ。剣よりもリーチがあって、突きという"点"での攻撃は防ぎにくい。懐に入られると長所を活かせないから俺みたいな拳系との相性は微妙。距離を取り続けれるかどうかって感じになるな。

俺は最初は様子見。というか、相手が大抵チャレンジャーだから先手を譲ってるって感じか。

 

やや間があってから、お相手は「先手必勝!」と言って突撃してきた。相手も対応型だったのかもしれないけど膠着を嫌ったのかな。まぁライバーだからかもだけど。

相手の槍の穂先がこちらに飛んで……飛んでくる! 氷のつぶてだ! しかもかなりの数、狙いもあまりつけずに数を撃ってきた。

 

『SETSUNA』では遠距離攻撃は難しい。何故なら、他のモードに比べて大幅に弱体化しているからだ。ダメージは低く、弾速は遅くなっている。これは、1vs1において、下がりながら弾を撃ち続ける、所謂『引き撃ち』があまりにも強いから付けられた枷だ。引き撃ちで勝っても面白くないから普通誰もやらないだろうが、賞金のある大会となれば別になる。そういうのを防ぐための措置だろう。

 

そんな遠距離攻撃を放ってきた相手の目的は……、まぁ十中八九目潰しだな。槍の穂先と見紛う氷のつぶては大きいし、数もあれば姿も隠せる。大きさもあって防がないわけにもいかないしな。こういう点で遠距離攻撃は強い。特に、目潰しなんかに使えば、360°どこからくるかわからない攻撃を仕掛けられる。普通の相手には有効だろうな。

氷のつぶてを弾きながら、右斜め後ろから突き出された槍の穂先……を少し通り過ぎ、柄を()()()()()

 

「ハァ!? やばすぎだろ!」

「お生憎様、その手はよく喰らうんでね。氷のおかげで()()()()()

 

鋭さを持った氷のつぶては周りの景色を反射していた。相手がどう動いていたかを見ることは俺には可能だ。それに加えて『SETSUNA』では弾速が遅くなっているし、俺じゃなくても可能だろう。

 

「まぁでも、その程度の小細工じゃあ()()()()()()俺には効かないな」

 

実際のところ、俺は氷からの反射だけで相手の位置を捉えていた訳じゃない。気配と、()()だ。

 

奇襲が破られた相手はやや冷静さを欠きながらも突きを連続してくる。が、俺には当たらない。これは別に俺の読みが特別冴えてるからとかではなく、そもそも普通の人のツクヨミでの攻撃が読みやすいのだ。普通の人は現実に近い動きをしてしまうから、予備動作から攻撃先がわかってしまう。プロレベルになると予備動作のブラフを入れてくる人もいて怖い。俺もやるけど。

さて、絵面も地味だし一度反撃するか。相手の動きを読んで……右脚を突いてくるココ!

 

「よっと!」

 

肩を()()()()()()で攻撃する。それだけで相手にダメージが入り、回転しながら軽く吹き飛ぶ。

 

 

俺が『SETSUNA』で一番強い理由は二つ。

一つ目は『読み』。前世から2Dの格ゲーなどで得意ではあったが、この世界に生まれてからはツクヨミの3Dの動きでも、状況が揃えば未来を見たのに近い動きができる。おまけの転生特典なのか、あるいは無意識に俺の『無かったことにする』力が働いて相手の動きを予想通りにしてるのかは不明だが、まぁ使いやすいのでいいやろ!

二つ目は『動きの正確さ』。『SETSUNA』のプロだと割とやる人が多いが、予備動作なしで攻撃ができる。攻撃を急に止めるのも一応できるから、フェイントなんかもより高度にできる。実際の威力ではなく、体や武器のその瞬間の動きだけを見て攻撃かを判定する仮想空間だからこそできる技だ。

どちらも1vs1の状況では比類ないほど強力だが、NPC戦や多人数での乱戦なんかだと、前者はハズレるし後者は意味がないことがあるから微妙だ。『SENGOKU』なんかだとチームワークや状況判断の方が大切だろう。

 

 

さて、意識を目の前の相手に戻す。って言っても、多分ジャガイモさんあんま『SETSUNA』やってなさそうなんだよなー。目潰しの発想はいいけど一発屋っぽいし。

 

その後も、氷の壁を建ててそこに追い込んできたり、ウルトのスロウのかかる氷の嵐を使ってきたりもしたけれど、結局動きを見てから避けるだけで完封できてしまった。

ジャガイモさんは諦めたような苦笑いをしてる。配信映えできなくて申し訳ないかも。

 

「こ、こりゃ無理だ。こうさ「おっと」

 

降参は通らない。通さない。

 

「ジャガイモジャパンさん、俺の配信知らないんすか? 降参はNG。格ゲーにおいて、最後まで諦めないのが華ってものだろ?」

 

格ゲーは、格闘ゲームは、HPバーがある限り逆転が可能なゲームだ。だからこそ数多のドラマが生まれて、だからこそ涙がある。故に、俺は格闘ゲームのジャンルで降参することを良しとしない。特に『SETSUNA』なんて確定コンボほとんどないからな。コンボの組み方も自由な分自由自在に避けられる。受け身を取るも良し。漫画みたいに後ろに飛んで衝撃を逃すも良し。某大乱闘なゲームよりも自由なコンボがずらせるのだ。そんなゲームで、諦めるなんて面白くないだろう?

 

「ってことで、こっからは俺も攻めます」

「ひっ」

 

 

その後は俺がダメージを一切受けることなくパーフェクトで勝利した。

挨拶を一つして、試合は終わる。試合後の挨拶は大事って古事記にも書いてあった。

 

「ありがとうございました。さてさて、次の挑戦者はいるかー!?」

 

そう言って次の挑戦者を求む。まぁこの感じだと今日は冷やかし来てくれないかもな〜?

 

 

 

これが俺の普段の配信形態の一つ。いつもの風景で、夏休みは始まったのだった。




※『SETSUNA』の遠距離デバフはオリジナル設定です。まぁそうでもしないとみんな使いそうだからそういうことにしました。特に物語に関係はない予定です。
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