蛇足物語   作:ロバと子いぬ

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三章長いけど、ここが多分一番長いです。

エイプリルフールを避けての投稿です。ストックないから遅れただけともいう。


三章の三

黒鬼のスクリムに参加してからさらに数日。俺はかぐやちゃんの配信を見ていた。今日は雑談、というかお料理解説配信だ。普通にためになることを話してる。ちなみにほぼ毎日配信している。

かぐやちゃんは初配信で顔出しをしちゃったらしく、開き直って普通に顔出しもしているライバーになっていた。企画もやって挑戦もやってゲームもやって歌も出して、伸びるために思いつく限りのことを二番煎じとかそういうことを気にせずに全部やっているようだった。アキラが『まさに破天荒』と称したのは的を射た発言だったように思えた。それに実際数字も伸びている。まだまだ上位には遠いけど、すごい速度でヤチヨカップのランキングをあげているようだ。

特に直近は、美容系ライバーのROKAと美食系ライバーのまみまみとコラボで『KASSEN』をした動画をあげてさらに数字を爆発的に伸ばしたらしい。てかこれ、どう見てもROKAって綾紬さんだしまみまみって諌山さんだよな? 名前も確かろかさんとまみさんだった気がするし。ってことはやっぱりいろPは酒寄さんっぽいな。……あれ、じゃあかぐやちゃんはどこの誰なんだ? 酒寄さんと綾紬さんと諌山さんって基本三人でいた気がするし、あと一人誰が……。

 

まて、まさか、あの赤ちゃんか?

 

酒寄さんの言い草的にあの赤ちゃんが訳ありなのは確定だ。『信じてもらえるか』とか言ってた気がするし、喋る赤ちゃんとか転生者とかそういうものだと思ってたけど、もしかして超成長したのか? ヤチヨカップの発表は夏休み開始前日、その前の三連休の前に酒寄さんが赤ちゃんを抱いてるのを見たはずだから、3~4日で超成長したのか? うーん、そういうタイプの転生者とかならあり得はするか。

 

『んでー、はまぐりの出汁を取るときはね〜』

 

今日の配信は普通にタメになることを話しているな……ん? 横目でコメント欄を見ていたら、ヤバいコメントが多数見えた。

『かぐやちゃん結婚して』『かぐやちゃん愛してる』『ケコーン汁』『かぐやちゃんをお嫁さんにしたい』『いろP結婚して』などなど……うわぁ、女性ライバーだとこういうこともあるのか。やばい求婚コメントはすごい勢いで消されてるが、それよりすごい勢いでコメントが投稿されてる。しかも投げ銭付きで。執念がやばすぎる。

 

『ちょっとちょっと、みんかかぐやに会ったこともないでしょ〜? ワガママ言うしー、めんどくさいしー、キュートな悪童なんだよねー』

 

かぐやちゃんがそう言ってコメントを抑えようとしたけど、逆効果みたいでヤバいコメントは加速してる。あーあー、こういうのは対応しっかりしないと。

 

『よし、じゃあこうしよう! いろPに勝ったら結婚! 名付けてかぐや争奪KASSEN選手け』

 

……画面が準備中に切り替わった。かぐやちゃん、動画とか配信でぶっ飛んでることは言ってたけど、今回もやばいことを言ってしまったらしい。というかいろPに勝ったら結婚とか、配信止まったってことは勢いで言ったらしいし大変なこと言ってる。酒寄さん大丈夫かな……。

 

 

少ししたら配信は再開した。なんと発言は撤回しないらしい。まじでかぐやちゃん争奪戦が『SETSUNA』で始まった。いくら酒寄さんが超人JKだからって、流石に可哀想なんじゃ…‥と思っていた。

 

圧勝、連勝、完勝。プロの俺から見ても普通に強かった。酒寄さん……いろPはかぐやちゃん目当てで襲いかかる野郎たちを、素手や時に曲刀のような双剣を使ってバッタバッタと倒していった。正直爽快だった。しかもいろPのアバターは着ぐるみをかぶってヒットボックスも大きい。それでも圧勝していた。ちなみに双剣は攻防揃ってる代わりに結構難しい。そもそも扱いにくい。ツクヨミのシステムだと強いけど、簡単に振り回せる代わりに両手が干渉するのが難しい。

 

と、ここで俺は気づいた。もしかして、俺が参加すれば酒寄さんと話せるんじゃないか? 今は夏休み期間で会うこともないし、お近づきになるには割といい機会なんじゃ。ツクヨミ内で偶然会うなんて難しいし。

よし、そうと決まれば参戦だ。ツクヨミにログインしながら参戦希望を出す。酒寄さんのあの強さを見て参戦をやめた人もいるだろうし、すぐ順番は来るだろう。あ、でも俺の配信用のアバターで行ったらあんま良くないか……。お忍び用の変装をしておこう。名前も適当なのに変えて……、あと武器出すのも大人気ない気がするしとりあえず素手縛りでいいか。

 

ツクヨミにログインして、『SETSUNA』のロビーに来てみれば、いろPが29連勝を叩き出しているのが見えた。そして次の挑戦者は俺らしい。そして俺の後ろは誰もいなそうだ。予期せずトリになってしまった。

 

『さて次は〜、えーと、『金閣寺の一枚天井』さん!』

 

なぜか実況席にいる忠犬オタ公に呼ばれて決戦のフィールドにでる。仮の名前は適当に決めた。ちなみに変装姿は、フードを目深にかぶって顔を隠して蛇の尻尾を消している。不審者スタイルだ。ワンチャン俺がヘビノブだってバレるかとも思ったけど、観客の反応を見る限りバレてはなさそう。

別に勝つ気はそんなにないけど、トリでしらけさせるのもアレだろうし、そこそこ本気でやるか。

 

『ではいろPも位置について〜』

 

いろP……酒寄さんも連戦の疲れを見せることなく位置につく。休憩は挟んでるだろうけど結構きついだろうに。あるいはあの程度の相手なら疲れもしなかったのかも? 俺の顔を見て、不審者を見る目を向けてきた。いやまぁ……扱いとしてはかぐやちゃんに求婚してきた一人そりゃそうなんだけど、ちょっとくるものがあるな。

 

 

『レディ〜ファイト!』

 

 

開始の掛け声と同時にいろPが突撃してくる。無手の俺を見て先手必勝と思った感じかな。俺はいつも通り先手を譲るつもりだったからちょうどいい。すでに手の内を見せているからか、こちらが素手だからか、いろPは最初から双剣を抜いて攻撃してきた。

武器、特に刃のある武器を素手でいなすのは難しい。正面から開けられないからだ。俺は剣の側面を押すことで剣の軌道を逸らしてやる。正直いろPは結構手練っぽいのであんまり曲芸じみたことはやりたくないんだが、パフォーマンスとして必要だろう。横、縦、斜めと縦横無尽に、しかしコンパクトに振り下ろされる剣を、弾いたり避けたりして捌いていく。お、いま剣の挙動を慣性無視で無理やり動かした。プロでも使われるテクニックだ。今までの試合で使ってなかったから油断していたので危なかったが、何とか避けれた。危ない危ない。

埒が開かないと思ったのか、いろPが大きく剣を切り払った。俺は合わせてバックステップして距離を取る。

 

いろPが少し息を整えてから、声をかけてきた。

 

「……あなた、何者? 今までの人と違って強すぎる」

 

よし、話すタイミングができたな。打ち合いながら話してもいいけど落ち着きたいし。とりあえずボイスチャットを外に聞こえないようにクローズドにする。

 

「その前に。酒寄さんだよね?」

「え、え、え!?」

 

驚きの声をあげていろPが周りをキョロキョロする。ああ、他の人に聞かれてないか確認したのか。というかその反応が答えだな。

 

「あぁ、大丈夫。ボイチャをクローズドにしたから聞かれてないよ」

 

あわてていろPがボイチャを操作した。

 

「いやいや、え? 私のリアルの知り合いの人? ……誰ですか?」

「零落です。まぁわかんないよね。今不審者スタイルだし」

「零落くん!?」

 

クラスメイトと知ってかワタワタしている。もしかして普段の学校での態度と全然違うところを見せたからヤバいとか思ってるのかな。まぁ酒寄さんはそんな器でもないか。

 

「零落くんがなんでこんなのに参加して……いや、というか何で私ってわかったの? いやまぁかぐやは配信でよく私の名前呼んじゃうことあるけど、別にいろはなんて名前の人他にもいるでしょ? 顔も配信じゃ出してないし」

「あー、普通にかぐや……ちゃんのリスナーだからたまたま配信見てて。酒寄さんってわかったのは、ヤチヨカップの発表があった時のヤチヨのライブでかぐやちゃんが目立ってたじゃん? あの時近くにいて、たまたま着ぐるみを着てない時の酒寄さんを見ちゃったんだよね。それでもしかしてと思って確認しにきた」

「あー……………はぁ………………」

 

この世で一番大きなため息がいろPから出た。

 

「確認ってことはカマかけられたんだね。連戦後だからって油断したー……。仕方ない。気づかれちゃったならまぁいいよ。で、零落くんもかぐやに求婚しにきたの?」

「いやー、酒寄さんか確認しに来たのと、冷やかし?」

「ふーん、じゃあ……さっさとやられてよ、ね!」

 

そう言って酒寄さんが再度攻撃してくる。今度は本気と言わんばかりに、先ほどよりも振りが鋭い。当たったら結構ダメージを受けそうだ。

だが俺にはギリギリ届かない。いや結構ギリギリなんだけど、え? もう少しちゃんとした人に教わるなりしたらプロと渡り合える強さしてるんだけどこの人。完璧超人とは思ってたけどゲームまでなのかよ。ヤバすぎるな。

なんとか連撃をかわしていく。おっと、銃も混ぜてきた。流石に避けきれない……わけでもないな。ギリギリで体を逸らして避ける。

 

「いやいや、でも俺トリらしいし、もっと遊ばないとな」

「そういうのいいから!」

 

銃をと言葉を織り交ぜながらいろPが攻撃してくる。喋りながら戦うのは配信してる俺の方が得意じゃないかなー? 

 

「てか、あの子、かぐやちゃん。あの子ってあの赤ちゃん?」

「ぶっ!?」

 

吹き出して、何もないところで足をもつれさせていろPが転んだ。てかこれも図星なのか。流石にびっくりだな。俺という転生者がいるから驚きの底値は更新しないけど。

いろPが立ち上がって再び攻撃してくる。

 

「い、いやいや! 普通に考えたらそんなわけないでしょう!?」

「普通に考えたらね。でも前に『信じてもらえるか……』とか言ってたでしょ? 酒寄さん」

「そ、れはそうだけど!」

「てか戦ってる途中だからか反応がわかりやすすぎるよ」

「うぐ」

 

実質的な肯定だ。

 

「すごいね。どういう仕組みなの?」

「……私が聞きたいよぉ」

 

やるせなさそうに武器を払って距離を取ってきた。

 

「……なんか大変そうだね、酒寄さん」

「もう本当にね。……あいつが来てから大変なことばっか」

 

そう言ういろP……酒寄さんの顔は、着ぐるみ越しだったけど、口では文句を言いつつも口角が上がっているように見えた。

 

「勉強も邪魔するし、やることなすこと無茶苦茶だし、本当に……」

「でも酒寄さん、なんか楽しそうだね」

 

え、と酒寄さんが顔を上げる。思いもよらぬって顔をしている。自覚ないのかな?

 

「やっぱり。学校で見る時よりイキイキしてる気がする」

「……」

 

無言の返答をもらった。もしかしたら、酒寄さんは認めたくないのかもしれない、かぐやちゃんによって変わったことを。

……これは、応援しないと嘘か。

 

「酒寄さん、酒寄さんはヤチヨカップ、かぐやちゃんと勝ちたい?」

「……そりゃ、やるからには一位を狙わないと意味ないから」

「そんなことはないと思うけど、うん、そうか」

 

じゃあ、やることは一つか。俺も微力を尽くすとしよう。幸いにもこのかぐや争奪KASSEN選手権は一本先取だ。

ボイスチャットをオープンにする。

 

「よし、じゃあこうしよう。俺に一撃でも入れられたら君の勝ちだ」

 

『何ということだー! 挑戦者、大きく出たぞー!』

 

言われたいろPがキョトンとする。発言の意図も何もわからないって顔だ。しかし、周りから見ればここまで連勝してきたいろPに対して舐め切った発言に取れるはずだ。実際観客からの視線は痛い。

いろPにも舐められてることは伝わったらしい。

 

「……その発言、一度言ったからには撤回しないでよね」

「もちろん」

 

そう一言だけ言葉を交わして、再び拳を交わす。舐められてるとわかむても拒否をしないってことは、実力差は理解してるらしい。さてここからは俺も攻撃をしよう。

いろPの剣が振るわれれば俺は逸らし、拳を放つ。いろPも反撃が来たことに驚きながらも後ろに飛んで躱した。

 

「こっちからは攻撃してこないとでも思った? さっきまでは小手調べ。ここからが本番だよ」

 

再びの肉薄。こっちは一撃ももらえなくなったけど、避ける逸らす合間に攻撃はできる。いろPもなんとか避けようとするけど、避けきれない俺の攻撃が当たる。ゲームと言えど好きな人攻撃するのちょっとアレだな……俺はそう言うの割り切ってるタイプだけどさ。

 

「ほらほら、当てないとかぐやちゃんは貰っていっちゃうよ」

「っ! かぐやは渡さない、っての!」

 

そう言って酒寄さんが1発こちらに射撃してくる。それを体を逸らして避け、肉薄する。酒寄さんも大きく剣を振りかぶっている。ウルトの構えだ。肉薄した俺に、ウルトのエフェクトで緑に輝く剣が飛んでくる。片方の剣を投げて使うウルトなのか。だが、当たらなければ関係ない。俺はそれを横にステップして避け、酒寄さんの方へ向く。……武器がない? 

まさかと思い、一瞬振り返る。後ろからは、ウルトのエフェクトを放ったままのブーメランのような武器が軌道を描いて戻ってきていた。酒寄さんの武器は双剣だと思っていたが、実は違ったらしい。そんなんわかるか!

だが、手遅れじゃない。飛んできたブーメランを更に躱す。いろPが捨て身で同時攻撃していたら危なかったが、これなら何とか……っ!

 

急に、足が絡め取られてつんのめった。

 

倒れながら、いろPに回収された武器を見れば、武器の先端からワイヤーのようなものが出ており、それが俺の足を絡め取っている。ワイヤーの反対は俺の後方の壁に繋がっている。いつだ? いや、あの射撃か! おいおい、やや難しい双剣高いかと思ったら、ワイヤー付きの分離可能ブーメラン使いかよ! どんなピーキーな武器使ってんだ。

体勢を崩した俺に、いろPの刃が降ってくる。これは、避けれない。

 

 

振り下ろされた刃から、()()()()()()()()()()()()()

 

 

観客から、驚きの声や、息を呑む声、あるいは知っているのだろう、歓声も聞こえてきた。

 

これは証だ。『SETSUNA』と言う一対一においての最強の証。俺しか使ってない、俺のための、俺を象徴する武器。

白色をメインに金の意匠が施されたツヴァイヘンダー。通称『王剣』。ピーキーな性能すぎて、全一になっても誰も真似してくれなかった。

 

『何ということだ! あの武器は、王剣! 王剣です!』

 

実況が大きな声で知らせてくれる。名前くらいは知ってる人もいるかもしれない。

 

「な、その武器……なんであなたが」

 

いろPも知っていたらしい。それなりに有名になったもんだ。

 

「なんでって、そりゃあ」

 

仕方ない。咄嗟に負けたくなさすぎて武器を出しちゃったし、武器を出したならもう変装する意味もない。変装を解く。

 

「俺、ヘビノブって名前で活動してるし」

「え、えええええええええ!?」

『なんと、挑戦者は『SETSUNA』最強のヘビノブだったぁあ!』

 

いろPも驚いたようだ。実況も驚いてるし、観客たちもざわめいている。俺も別にファン数100万超えてるプロゲーマーだしな、ツクヨミなら認知度はあるか。特にここは『SETSUNA』を見にきてる人たちだし。

はてさて、どうしたものか。武器出しちゃったし……いや、こうするか。

 

「さて、一撃でも俺に入れれたら勝ちって言ったけど、素手縛りを破らされちゃったし、武器出してなかったら当たってたしな。流石にこれで続けたら俺がカッコ悪すぎる」

「え?」

「ってことで、この勝負は君の勝ちだ。いろP」

 

いろP……酒寄さんが驚きのまま固まっている。

 

『な、なんとぉ! 挑戦者サレンダー宣言! よって勝者、いろP!』

 

実況の忠犬オタ公の勝利宣言で、観客たちから大きな歓声が上がった。おそらく今日イチの歓声だろう。俺が参加して企画を盛り上げる、ってのは達成できたみたいだな。

 

「う、うそ、ヤチヨと引き分けたヘビノブに、勝ち?」

「そうそう、君の勝ち。あぁそうだ。配信にお邪魔しちゃったし、今度困ったことがあったら言ってよ。できることなら手伝うから」

「あ、はい。ありがとう」

「応援してる。じゃあまた」

 

そう言ってロビーから退出する。

ふふふ、久々に酒寄さんと話せたし、勢いで何か手伝えるなら手伝う約束も取り付けられた。頼ってくれるかはわからないけど、大きな前進だ。

俺はウキウキ気分でツクヨミからログアウトした。

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