結ぶと解く   作:ながずぼん

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第9話 脳波と洗体

 昼の少し前、おじいちゃん先生とパウラさん、あと二人ほどの看護師がぞろぞろと病室に入ってきた。

 パウラさんに「コレカラ、ケンサ」と教えられる。

 看護師たちに点滴を外された後、車椅子に乗せられて病室を出る。

 部屋の外にいる監視の警官は特に動かず、ただ視線で姿を追うだけだった。

 エレベーターに乗り低層階へ。

 

 低層階に並ぶいくつかの検査室のうちの一つに入り、パウラさんに歩けるか尋ねられる。普通に歩けると思って車椅子から降りると、やっぱり普通に歩けた。

 その部屋でまずは体温と血圧測定から検査が始まった。

 トイレで尿を取って、続いてやたら広い部屋で採血をして、DNA鑑定のためなのか口の中の粘膜も採取した。

 たまたま検査前にヨシオカさんからDNA鑑定の件が伝えられたのかな。

 採血では献血時ほど血を抜いたわけではないけれど、少し休憩が入った。

 

 休憩後はMRIで輪切りにされる。日本でもやったことあるけれど、シュインシュインと音を立てるあの機械から出てくるとサイボーグにでもなった気分になる。

 付き添いのパウラさんに促されるがままに検査室を移動して、次はあそこの部屋って指示に従おうとしたらストップがかかった。

 おじいちゃん先生がパウラさんに次の行程を告げ、通訳してとおれの方を見た。

 

 「オナカ、ヤメル、アタマ、シラベル」と教えてくれた。

 

 おじいちゃん先生についてエレベーターで少し上の階へ上がる。

 処置室のベッドに寝かされ頭にいくつも電極が取り付けられ、パウラさんからの指示に従って目を開けたり閉じたりした。

 その後、指示通り目を閉じていると、顔の前にあるライトが明滅し始めた。

 しばらくすると、モニターしているとおぼしき隣の部屋が騒がしくなってきた。

 割と長い時間深呼吸をさせられた後、そのまま眠るよう言われ、そんな無茶なと思ったけれど案外眠れてしまった。

 

 パウラさんに声を掛けられ目を覚ますと、おじいちゃん先生もいた。

 

「コレカラ、アタマ、キッテ、シラベル、イイデスカ?」

 

 いきなりとんでもないこと言われた。いいわけねえだろ。

 

「それって断ったら追い出されるんですか?」

 

「コトワッテ、イイデス、ダイジョウブ」

 

 彼女は真顔でそう言ってくれたので、おれも真顔でおじいちゃんに告げる。

 

「絶対に嫌です。お断りします。ノー!ノー!です」

 

 パウラさんがおじいちゃんに通訳すると、だよなあ、と不満そうに笑った。

 検査はここで終了したようで、車椅子に乗せられ看護師に押されて病室のフロアへ戻った。歩けるけど車椅子に乗せられるのはなんか意味があるのか。

 部屋の前には監視の警官がいてこちらに一瞥くれたので、日本語で「おつかれさまです」と言ったのだが、怪訝そうな目を向けられただけだった。

 

 ベッドに寝てちょっと腹が減ったかなと思っていると、パウラさんがちょっと遅めの昼食を持ってやってきた。トマトソースのパスタと、マッシュポテトだった。

 嬉々としてパスタを啜っていると、さっきの検査での騒ぎの原因を教えてくれた。

 

 曰く、おれの脳みそが暴走状態にあるという。超絶スピードで動いているらしい。

 ただし、MRIの画像では至って通常で、脳波検査の結果だけが異常なんだそう。

 頭痛がしたり鼻血が出たらすぐナースコールをするよう真剣な顔で告げ、彼女は部屋から去っていった。

 

 病室の窓にかかるカーテンを開けて外の景色を眺めながら、暴走する脳がこの世界を構築していて、実のところ浜松の駐車場で倒れて夢を見ているだけではないかと疑った。

 でも海は冷たかったし肋骨も痛い。飯はうまいしパウラさんはいい匂いがした。

 やっぱりここは夢の世界ではないだろう。体感がリアルすぎる。

 脳が激しく動いていてもわからないことだらけだなんて、おれの脳みそスペック低すぎやしないか。ちょっと切なくなって自嘲の笑みが出る。

 

 ―――――――

 

 しばらくしてタオルと洗面器を持った看護師が病室に来た。

 看護師というよりそういうコスプレをしている人のように見える。美人ではある。

 この国がどのくらい多民族国家なのか知らないけれど、中近東系?は少ないのではないか。そんなレア系美人があからさまに胸のところをはだけている。

 

 疑いの目を向けるおれに対して彼女はジェスチャーで服を脱ぐように指示してくる。繰り返されるその動きは最早変な踊りにしか見えない。

 身体を拭いてくれるというのだろうけど、素人のおれでも気付ける程度に怪しい。

 色っぽい感じにクネクネしているけど、どことなく照れてるように見える。

 なにをする気かわからないけれど「自分でやるからそれ置いていって」と部屋から出て行くように言った。もちろん日本語で。

 

 おれがぜんぜん乗り気じゃないのに、うっふ~ん(ハート)みたいな雰囲気を崩さず、とにかく服を脱げと促してくる。壊れてんのかこの人。

 しばし妖怪くねくねナースを眺めているとドアがノックされた。

 よかった助けが来た!とおもって「はい」と元気よく返事をすると、タオルと洗面器を持った背の高い白人の看護師が入ってきた。

 

 ねえ、なにこれ流行ってんの?

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