12月も残り1週間ほど。都会ほど街がクリスマス一色には染まらない。街路樹の電飾は年中巻きつけてあるし、カップルばかりが歩いているわけでもない。そもそも車社会なので街を歩いている人間は少ない。
そんな中、天皇誕生日にクスメギが迎えに来た。明日の午後に外事室で面談があって、明後日にはアメリカへ飛ぶために。
先週、外事室へ連絡してハナザワ室長におれが不在のあいだクスメギを派遣してもらう件の了承を得ている。能力者であるアヤママから細々した相談を普段から受けているのでおれがいなくなると不安定になるかもしれないと。相談相手に素性を知っている者が必要だと訴えたら、そういうことならと納得してくれた。黒服やドライバーの件については黙っておいた。給料の件はママが上手くやってくれるだろう。
「よかったな、一ケ月間ママとべたべたできて」
「べたべたしねえよ。まあ、でも、室長を説得してくれてありがとうな」
「おれからおまえにクリスマスプレゼントだ。もっと喜んでいいんだぞ?」
クスメギの滞在期間中はおれの部屋を使ってもらうことにした。今夜だけはホテルに泊まる。一緒に寝ると薄い本でおれの身体が蹂躙されてしまうから。
車からポータブルナビを外してクスメギが乗って来た国産セダンに取り付ける。
「オンナのコの名前で地点登録してあるから」と教える。そしてクスメギの携帯にも店のグループに登録をする。夕方に出勤情報が届き、確認すると南方面の送迎はデフォルトの4人だった。ナビでルート選択をしてこの通りに行けばいいと伝える。
時間になりクスメギが送迎に出たのを見送って、歩いて店に行く。
10月ぐらいからジャケットも支給されていたけれど、本格的に寒くなってからは歩くことが少なくコートを持っていなかったのでまじで寒い。帰ってきたら買おう。
店に着くと、店長とパイセンがもう出勤していて開店準備をしていた。
改めて一ケ月の不在を詫び、代わりに入るクスメギのことをよろしくと頼んだ。
二人とも然程気にしていないようで「了解っすー」と軽い返事で済まされた。
テーブルを拭いて、ソファをコロコロし終わる頃、オンナのコと共にママが出勤してきた。少し遅れてクスメギが店に入って来た。
バックルームで制服に着替えたクスメギだったが、普段がスーツなので別に変わった感じがしなかったけれどママは「すごく似合ってるわ」と嬉しそうだった。
チャンスだと思い、向かい合う二人の、クスメギの背後に回り込み背中を押す。
奴がよろけてママにぶつかりそうになり、ママの肩を掴んで踏みとどまった。
「なにすんだよ!危ねえだろ!」
「メリークリスマス。おれからプレゼントです、ママ」
そう言うと「ありがとう。大事に使うわね、ふふふ」とママは笑った。
顔を赤くして「なによー」みたいになると思ってたのに相手が一枚上手だった。
開店時間になり、同伴の客が2組来店する。あと30分もすればどんどんお客さんが入ってくるのだろう。祝日とあってきょうは団体客は来なさそうだけど、ここから年末にかけてばんばん入るのだろう。前の世界ではそうだったし。
前にママが言っていた通り、ここ3日間はオンナのコたちはショールの代わりにサンタのコートを羽織っていた。首周りがモコモコしているとかわいく見える。
クスメギにアイスペールの場所や氷の補充、水割り用のサーバーとかミネラルウォーターの場所を教える。おれより全然要領が良くてあいつ一度言えば覚えていった。
そうこうしているうちに、クスメギがママの席に呼ばれる。
「飲み過ぎるなよ」と言うと「わかってるよ」と笑って返してきた。呼ばれた席の様子を眺めているとお客さんと楽しそうに話をしている。あいつこれ天職なんじゃないか?と思うのと同時に、なんかおれ全然ダメな奴じゃん…と要領の悪さに凹む。
なんだかんだ閉店まで大盛況だった。クスメギがいてくれたので早めに洗い物に手が回り、最後の客の分だけちゃちゃっと洗って業務終了になった。
帰ろうとしているとママに「素敵なプレゼントをありがとうね」と感謝された。どっちの意味なのかわからないけれど、お節介を焼いたおかげで店も助かったし、明日は地獄だろうけど明後日からは安心だ。
歩いて部屋に戻ったら身体が冷え切っていたのでシャワーの温度を上げて浴びた。
寝る前にスーツケースの中身をもう一度よく確認してから寝た。
翌朝、10時にホテルへ行きクスメギの車で東京へ。
「おまえ初日なのにそうは思えない働きっぷりだったな」と褒めると「中華屋でバイトしてたしな」と言う。「業態違くない?」と訊くと「基本的には同じだろ」と平然としている。なんか悔しい。こいつが戦力になってくれていいんだけど、悔しい。
15時からの面談の予定だったので、途中のサービスエリアでラーメンを食べたけれど13時半ごろには霞が関に着いた。予定通りだった。
14時にアズマ教授夫妻と待ち合わせている喫茶店に入る。クスメギも一緒。
二人はまだ来ていなかったので4人で座れるテーブル席に陣取る。
向かい側に座ろうとするクスメギに「おまえはこっち」と隣に座るよう言うと「はあ?」と意味がわからなさそうにしながら隣に座った。
すぐに夫妻はやってきた。アサガオさんが若返っていないか心配だったが彼女は山崎で別れたときのままのおばさんだった。手を振って二人を席に招く。
「お久しぶりです。あれから病気とかしていませんか?」
「ええ、あなたのおかげで平気よ。いまはおばさんライフを満喫中。うふふ」
クスメギは勘付いているようでめちゃくちゃ緊張した面持ちで彼女を見ている。
「教授はよく知ってますよね。こいつ、おれの”相棒”のクスメギです。こちらアサガオさん。おまえが会いたがってた人だよ」
アサガオさんはにこにこしながらカチコチのクスメギに手を振っている。