結ぶと解く   作:ながずぼん

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第七章【米国編】
第103話 到着と先生


 ワシントン・ダレス空港に到着したのは現地時間で12時ぐらいだった。

 直行便だったので13時間ほど飛んでいたわけだが、地球の自転と反対周りに飛んでいたからほぼ時間が経過していない。タイムリープでもした気分。

 

 飛行機を降りたら入国審査に向かう。パスポートと教授にもらった紙を提出する。「What is~」と訊かれ「sightseeing(観光です)」と言う。「How long~」と訊かれ「One month(1ケ月です)」と答え、「Where will you stay」と訊かれたら、ホテルの名前をカタカナ読みで伝えると、ポンとスタンプを押してくれた。

 

 先に審査を終えていた教授の後について手荷物の受取に行く。コンベヤに乗せられたスーツケースが次々と運ばれてくる。おれのも教授のもなかなか出てこないのでひやひやしたが、乗って来た便の最後の方に出てきた時は心底ホッとした。

 続いて税関審査だったが二人とも申告するものはなかったのでスルーで通過。

 スーツケースをごろごろと引いて到着ロビーに向かう。

 

 到着ロビーには観光ガイドなのか名前の書かれたプラカードを持った人が大勢待っていたが、おれたちの出迎えはカードを持っていなかった。その代わり見たことのある人が笑顔でこっちに手を振っている。

 

「あー!ウチヤマ先生じゃないですか!」

 

「お久しぶりですハナダさん。長旅お疲れ様でした。お元気そうでなりよりです」

 

 おれの様子を見てくれるのはウチヤマ先生だった。「大学はいいんですか?」と尋ねると「ちょうど年末休暇なので、家族も一緒に来ているんですよ」とのことだった。

 

「お疲れ様ですウチヤマ君。忙しいところ無理なお願いを聞いてくれてありがとう」

 

「いえいえ。プロジェクトに参加させて頂き感謝しています。DCの大学協会の方も上手くいったと思っています。こちらでは日本ほど就職に関与しないので」

 

「そうですか、そちらの方も骨を折ってもらってありがとう。とりあず移動しましょうか。ここは人目につきますから」

 

 到着ロビーでの再会の挨拶が済んだらウチヤマさんが借りているというレンタカーに乗り込みワシントンDCの市街地の方面へ向かう。

 ワシントン・ダレス空港を出て30分ほど走るとアーリントンの住宅街へ到着する。こんな感じ景色を映画やドラマで観ているからか既視感がある。

 とある家の前に車を停める。路駐である。まさに映画とかで観るアメリカの風景。

 

 ウチヤマ先生に招かれ家の中に入る。靴は脱がない。

 モンテビデオの時も脱がなかったけれど、個人の住宅で脱がないのは初めて。

 「ここって借家みたいな感じなんですか?」と先生に訊ねると「民泊ですよ。ホテルで何部屋もとるより安いんです」と教えてくれた。それにしてもめっちゃ広い。

 リビングに入ると女の子二人が座って絵を描いていて、テーブルの周りを男の子がぐるぐる回っている。もう一人小さな女の子が床に座ってぼんやりとしている。

 奥の方から「ほら、お客さん来たよ。テーブル片付けて!」と女性の声がする。

 総勢6名の大所帯がウチヤマ家の面々だった。

 

 「主人がいつもお世話になっております」とエプロンで手を拭いながらキッチンから出てきて挨拶をするこの人が奥さんか。先生と並ぶと随分若く見える。元バレボール部、そんな感じの人だった。この人を形容する言葉はそれぐらいしか持ってない。

 続いて子供たちが次々と名乗りを上げる。13歳と11歳のお姉ちゃん、8歳の長男、5歳の末の妹。みんなちゃんと挨拶ができて偉い。

 「ハナダです。お父さんにすごくお世話になっています。よろしくね」と挨拶をすると長男が「ちょんまげー!」と言ってゲラゲラ笑っている。それを「すみません」と元バレー部が申し訳なさそうにしている。ああ、なんか、久しぶりだこういうの。

 

 「食事にしましょう」とウチヤマ先生に促され庭に出ると、レンガを円柱に積んだバーベキューコンロがあり、そこで昼食をごちそうになった。

 串に刺さった牛肉を齧りながら「それでウチヤマ先生はどうしてアメリカに?」と素朴な疑問を投げてみる。

 

「アズマ教授のプロジェクトで、最先端科学で社会が分断しないための活動です。巨大企業の独占技術にならないよう研究者のための基金を募ってます」

 

「それって…」と教授の方を見るとニコニコしながら頷いた。アサガオさんが話していた分断されたディストピアのことか。ということは裏で糸を引いているのはやっぱり彼女なのか。最終的には火星への隕石衝突を防ぐプログラムだったりして。

 

「お金のためにせっかく人々のために開発した技術が独占されてはもったいないですからね。研究者の生活の保障と研究費を基金で賄って技術は広く使えるようにするプロジェクトです。発起人は私と彼女です」

 

 「えっ…」アサガオさんの存在ってウチヤマ先生はもう知っているってこと?

 

「しばらく前にアズマ教授から聞いていました。人類の未来のための知恵を授けてくれる人がいるということは。僕はまだお会いしたことがないんですけどね」

 

「ああ、そうだったんですか。だったら言ってくださいよ。誤魔化さなきゃいけないと思ってドキドキしちゃいましたよ」

 

「ハハハ、すみません。私はいつも言葉が足りなくていけませんね」

 

 このタヌキ、ぜんぜん反省してねえだろ。まあいいけど。

 教授からウチヤマ先生や奥さんにはあらかた事情を話してあるようだったので、アサガオさんの話だけではなく、おれの能力の話にもなった。

 どんな病気でも治せるのでは?と訊かれたときに胸がチクっとした。道具があっても使い方がわからなければ無理だし、科学も医学も知識のない人間が手を出していい領域じゃない、せいぜい洗濯物を早く乾かせかるかどうかですよと無理に笑った。

 

 ひとしきりお喋りした後で、ウチヤマ先生に滞在するホテルまで送ってもらった。

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