結ぶと解く   作:ながずぼん

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第105話 昼食と信用

 ひとまず検査内容についての話が済んだら「私たちと信頼関係を築かないといけませんね」とヨハンソンが言い、4人でランチを食べに行くことになった。

 駐車場からヨハンソンが車を回してくる間、ミシュラさんが「ボルチモアハ、チアン、ワルイデス、ミナト、ダケ、アンゼン」と教えてくれた。というか暗にふらふら出歩くと危ないと警告をされたのだろう。

 モンテビデオでもここでも観光できないのか、毎日午後が暇なのにきついな、と思っていると「港のあたりには観光施設がいくつかありますから飽きる前に帰国できますよ」と教授が慰めてくれた。治安悪化の原因は貧富の差だとも教えてくれた。

 

 ヨハンソンの車に乗って10分ほど走ると、レンガのビルにアイビーかなにかの葉が生い茂るカフェに着いた。人気の店らしく「マツ、カモ」とミシュラさんが言っていたが運よく席が空いていてすぐに入ることができた。

 他の客が食べているものを見ると、どれもこれもカロリー爆上げメニューだった。

 席に座るときにヨハンソンが「ここは朝食の店なんですよ」と言っていたが、朝からマヨネーズを1本飲むような感じに見えた。見た目と違って淡泊なのかな。

 ヨハンソンに相談してパンのような皮の中に蟹が入っているやつをオーダーした。

 うまいのだが、ボリュームが尋常じゃない。いわゆるデカ盛りの店でもあった。

 

「それで、あのときミシュラさんは何をしに病室に侵入してきたんですか?」

 

 彼女にそう質問したときに「ブッ…」とヨハンソンが噴き出した。

 テーブルの下でヨハンソンの脛のあたりを蹴飛ばしたと思われる彼女は俯き加減に「honey trap」とだけ短く呟いた。いや、まあ、そうなんだろうけど。「雑すぎませんか?」と尋ねると、彼女は必死で恥辱に耐えるように唇の端を噛んでいる。

 

 見かねたヨハンソンが当時の状況を教えてくれる。

 彼曰く、人工ワームホールの調査をしていた二人の元にウルグアイに突如現れた謎の男の情報が入ると、すぐに現地入りして病院関係者などに聞き込みを行った。

 そいつは日本人だと言っているが身元を確認できるものがない。というわけでごたごたしている隙にアメリカへ連れ去ろうとしていたところ、彼の身柄とバーター取引でものすごい条件が提示されたから手を出すな、むしろ日本が保護するまで陰から護衛しろと本部から連絡が入る。

 調べるだけ調べて日本に返せばいい派のミシュラさんと、ぐすぐすしていると横取りされちゃうんじゃね派のヨハンソンがそれぞれ勝手に動き洗面器祭りになった、ということだった。

 

「じゃあやっぱり不審者の侵入ってことで大使館に保護させたってこと?」

 

「そうです。早く保護しなければウルグアイ海軍の他にもロシアや中国が出てくると予想していましたから」

 

「ものすごい条件っていうのは…?」

 

 ヨハンソンはアズマ教授に視線を送った。教授は視線を受け取ると頷いた。

 

「6年前からワームホールの調査を日本だけでは手に負えないと判断して同盟国との共同研究とすることにしたのです。その際に彼女の存在も同盟国には明らかにして強引な調査や機密の漏洩を防いでいたのです。それで今年、日本人が巻き込まれたらしいと彼女に相談すると会って話がしたいというので、各国へあなたに手を出さないよう要請しました。それが彼女の意思であると」

 

「その女王の指令があるから、おれを護衛してくれるわけですか?」

 

 アサガオさんの命令ってそんなに強制力あるの?と思い訊ねると、ヨハンソンがそうではないと教えてくれる。

 

「いいえ。今年になってミスターアズマから提示された条件は、あなたの安全確保とある人物の捜索です。達成できたら女王との面会が約束されています。本部もまさか会えるなんて思っていなかったので、あなたの護衛が至上命題となりました」

 

 やっぱりなにか足りない気がする。ただ会って話するってだけでここまで言うこと聞くかなあ。彼女からなにかとんでもないご褒美があるんだろうな。

 

「ミシュラさんも6年前からヨハンソンと調査をしていたんですか?」

 

「No。ワタシハ、ニネン、マエカラ、カレト、シゴト、シテイマス」

 

 そのときヨハンソンの笑顔が微妙な感じになったように思った。

 なにかあったっぽいが、ミシュラさん表情が能面すぎてわからない。それよりどうしてハニートラップ仕掛けているのに黙って踊っていたんだ?

 

「で、ミシュラさんは病院でどうして何も喋らなかったんですか?」

 

「アノトキ、ワタシ、ニホンゴ、デキマセン、イマハ、スコシ、ハナセル」

 

 そうだったのか。だから無言で謎のセクシーダンスをしていたのか。

 しかしまあ、パウラさんといい彼女といい、外国語の目覚ましい上達っぷりは本当に凄いなと感心する。頭の出来がおれなんかとは違うのだろうな。

 

 店の外にちらほら待ちの人だかりが見え始めたので、店を出てホテルへ戻ることにする。おれが食べたやつ30ドルぐらいして贅沢しちゃったなと思ったが、ヨハンソンたちが出してくれるというので助かった。教授の話では港に近いところの治安が守られているのはお金持ちが多いかららしい。安全を金で買うのがアメリカ社会ということなのか。それはさておき懐事情としては外食は控えたほうがよさそうだった。

 

 ヨハンソンの運転でホテルに送り届けてもらい、車を降りたときに「少しは信用してもらえましたか」と訊かれ「裏切ったら干物にしてやるよ」と笑って答えた。

 どこまで信用していいのか正直わからないが、言葉も含めて彼らに頼るしかないわけで、警戒しつつ仲良くやっていくしかなさそうだ。

 

 万が一のときは時間を止めるやつが好きに使えればいいんだけどな。

 あれの発動方法がさっぱりわからん。

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