結ぶと解く   作:ながずぼん

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第109話 年末と退屈

 ホテルの部屋に戻ったのが15時頃。これに11を足すと26。ああ、日本はもう年が明けたんだと思い、日本のみんなに新年の挨拶のメッセージを送る。

 メイさんだけすぐにスタンプの返信が来た。3時なのに寝てないのか。

 

 晩飯をどうしたものかと思案した結果、ハンバーガーをまだ食ってないなと思い、最寄りのバーガーショップを検索すると2ブロックほど北にいったところにあったので、大晦日に襲われることはないだろうというなんの根拠もない自信を携えて行ってみた。古いビルにはもこもこした文字の落書きがあったりしたが、やばい地域ではなかったようで無事にバーガーをゲットしてホテルまで戻って来れた。

 

 もうちょっと遅くに買いに行けばよかったなと思ったのは18時ぐらいにバーガーの包みを開いたときだった。すっかり冷めてしまっておいしさ半減な感じだった。

 あと作り方が雑で笑った。モスバーガーの店員さんとかまじですごいと思う。

 ベッドに寝転んで窓の外を眺める。花火とか上がるのかなーと思っていると、メッセージの返信が次々に届く。日本の連中が起きてきたみたいだった。

 返信に返信をしていると、パウラさんからビデオ通話の呼びかけがあった。

 

「パウラさんの方が1時間早く新年になるんだよね。不思議な感じがする」

 

Si.(はい。) Estoy esperando el(早めの新年) año nuevo temprano(が楽しみです)

 

 あ、そうだった。スペイン語縛りだったんだ。これはまずい会話にならない…

 むむむ…と唸っていると、彼女は「来年ニナッテカラニ、シマスカ?」と甘やかしてくる。だが断る!ということもなくべっとべとに甘えて日本語でお願いする。

 

 いままで日本での年越しはどんな感じに過ごしてきただとか、ウルグアイでの正月の様子を聞いたりしていると「ハナダサン、次ノ次ノ週末、空イテイマスカ?」と訊ねられた。「週末はずっと予定ないですよ。なにかありましたか?」と質問を返すと「私、ボルチモア行キマス。会エマスカ?」と突然の提案がある。

 

 しかし中年なのでそこは慌てない。きっと何かのついでなのだろう。

 

「え?こっちに来るの?なにか用事があるの?」

 

「アナタニ、会イニ、行キマス」

 

 彼女は照れたように笑ってそう言った。

 トゥンクした。トゥンクするしかなかった。ここでトゥンクしない奴いる?

 

「えっと、それは、デートする、みたいな話?」

 

「ウフフ。ソウデスネ。デートデス。ソノ後デ、オ願イガアリマス」

 

「お願い?」頭の奥の方でピンと来ているはずだったが、そのピンがなんなのか見えてこない。トゥンクのせいかもしれないし「ですよねー」を否定したいのかも。

 

「オ願イは、会ッテ、全部話シタ後デ、シマス」

 

 全部話した後?全部話す?あれか宇宙人の件か。それを全部話した後でどんなお願いをされるのだろう。まさか彼女も不老不死ってことはないだろうけど。

 

 「わかった。おれにできることなら、なんでもするよ」と返事をした。

 

 ビデオ通話を繋げたままにして年を越すというので、喋ったり画面の前から消えたりしながら23時にモンテビデオが一足先に新年を迎える。

 

「Feliz año nuevo. Mis mejores deseos para el año(新年おめでとうございます。今年も良い一年になりますように)」

 

 カタカナのカンペを見ながらコソ練したやつを披露してやったぜ!

 ちゃんと言えているかどうか謎だけど。

 

Fue un año(あなたに) maravilloso para(出会えて素敵) mí conocerte(な一年でした). No sé qué(今年は何が) pasará este año(あるかわからない)

 

 あ、ダメだ。ぜんぜん聞き取れない。

「いまなんて言ったの?」と訊くと「ウフフ。内緒デス」と、かわいい感じに教えてくれなかった。「じゃあもう一度お願いします」と言うと、今度は違う言い回しをされる。「違くない?」と指摘すると「言ッテイル中身ハ同ジデス」と笑っている。

 もう2回ほど言い直してもらったが結局聞き取れなくて諦めた。

 

 パウラさんは少し眠たそうにしながらこちらの新年を待って、2度目の新年の挨拶を交わしたら「寝マス」と言って通話が終了。なんかいろいろ話したけど、お願いっていうのが引っ掛かっている。頭のどこかでピンと来ているはずなんだけど。

 

―――――

 

 アメリカで過ごす元旦は、ひたすら暇だった。

 そこらへんの店は休みのようだし、テレビを点けても相変わらず何を言っているのかわからない。漫才とかいっぱいやってる日本の正月特番が懐かしい。

 部屋に籠っていても仕方ないので帽子を被って散歩に出かけた。松飾りは当然ないけれどなんとなく街にハッピーニューイヤーな雰囲気はあった。

 

 ―――――

 

 翌朝、ホテルへ迎えに来たヨハンソン、ミシュラさんと新年の挨拶を交わす。

 

「ボルチモアで迎えた新年はどうでしたか?」

 

「暇すぎて困ったよ。店も閉まっているところ多いし。一日だけで助かった」

 

「そういうことなら、どこか出掛けるよう誘えばよかったですね」

 

「それはありがたいけど、ヨハンソンたちは仕事だから悪いじゃん?」

 

「私はそんなふうに思っていないですよ。きっとアドラも思っていないです」

 

 ミシュラさんも、アーハン、みたいな感じに首を縦に振っていた。

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