目が覚めると隣にはパウラさんがいる。ベッドが2つあるのに同じベッドで寝ている。おれはすっぽんぽんだし彼女もすっぽんぽんだ。これはとんでもないことだ。
大変名残惜しいが既にイチャイチャタイムは終了している。これから大仕事が待っているのだ。やれるなんて言ってしまったが、サヨさんを消滅させないようにパウラさんと分離させなければならないのだ。
そっとベッドを抜け出し服を着て一度自分の部屋に戻る。
歯を磨いて顔を洗ってヨハンソンに電話をする。彼ならおれの話を理解できる気がしていた。無理だったらアサガオさんに訊くしかないけど…
「おはようございますハナダさん。おやおや、私が恋しくなったんですか?」
おまえの中にクスメギが入っているだろ。出てこい殴ってやる。
「ヨハンソン、真面目な話なんだ。触れると対消滅してしまう対象をどうにか消滅させずに脳に定着している状態から引き剥がしたいんだ。力を貸してくれ」
「それは脳に定着した情報体を、あなたの能力で宿主から分離させたいと?」
やっぱり一発で理解してくれた。おれの世話係なんだから能力周りの知識があるだろうとは思ってた。聞けばそういう思念体みたいな存在からの接触がアメリカでも以前にあったらしい。その後、どうなったのかはわからないみたいだけど。
「話が早くて助かる。脳内のどんなことをイメージすればいい?」
「私は専門家ではないので、詳しくは説明できませんが、定着状態というのは脳神経回路に量子的定着をしていることを指すと考えます。なので脳活動の周波数パターンを読み取って本人とは別のパターンと区別することから始めます」
「周波数パターン?それはどうやって見分けるんだ?色でわかるか?」
「あなたのイメージがどう見えているかわかりませんが、視覚より聴覚じゃないですかね。思念体の声を聞くようなイメージというか」
「声か、わかった。で、特定したら次はどうすればいい?」
「思念体の自己認識が肉体側の人格として認識されているので、そのベクトルを逆転して思念体は思念体として自己認識を成立させます。このときに思念体側の意識に働きかけられれば成功率は上がると思います」
「その流れを逆転させるためには、なにを解けばいい?」
「再帰ベクトルの結合点です。思念体の自己認識が肉体側に流れている結合点です」
「ありがとう、ヨハンソン。明日お昼おごるよ」
「あはは。私が受けた恩に比べればこんなの大したことないですよ。でもまあそうですね、日本に帰る前にのんびり旅行にでも行って抱いてもらいましょうか」
「その旅行、アドラさんも誘っておくよ。本当に助かった、ありがとう」
通話を切ってヨハンソンのアドバイスをメモした紙を持って部屋を出る。
とその前に、空港で買ったお土産を荷物の中から引っ張り出してそれも一緒に。
パウラさんの部屋のドアをノックする。すぐにドアが開いて中へ入れてくれた。
『ヤリ逃げかと思いましたが戻って来たので見直しました』
いきなりクズ野郎扱いされたが彼女は笑っている。冗談を言っただけだよね?
『二人を元に戻す方法を調べに行ってたんだ。寝てたから起こすの悪いと思って』
「おはよう、ハナダさん。昨夜はありがとう… わたしブラックホールで死ななくてよかったです。パウラにも、あなたにも出会えて本当によかったです」
少し照れている様子だったけれど、すぐに真っすぐ目を見て感謝された。
「これから二人を戻してサヨさんは妖精になるけど、それで本当にいいの?」
「はい。パウラにはパウラの人生を生きて欲しいです。わたしはパウラの傍に居続けるし、もしも誰かの身体に入れるなら友達になります。そして誰かに恋をしてデートをして幸せになります。ハナダさんはお家に帰っちゃうから…」
言葉に詰まる。が、ここで誤魔化すのが偽善なのだろう。言うべきことを言う。
「おれは奥さんがいるけれどあなたを抱いた。その事実は墓まで持って行くけれども後悔はしていない。あなたと過ごした幸せな時間はおれの中にずっとあって、誰かの幸せのために役に立つものだと思う。例えあなたがおれを忘れてもあなたを好きだという気持ちはあなたにも消せないよ。ありがとうサヨさん」
正直な気持ちを言い終えたら彼女を抱きしめた。もう二度と彼女の声は聞けない。
『サヨもあなたも、このままでいいのに。またわたしを一人にするつもりなの?』
『あなたはあなただけの人生を歩むべきだ。その時あなたの周りにはあなたを支えてくれる人がいるはずだ。サヨさんも、おれも、あなたの幸せを願っているよ』
彼女を離し、ベッドに寝てもらう。
不安はあるけれど、怯んじゃだめだ。ヨハンソンにしたように強い気持ちで臨む。
分離を始める前にサヨさんに声を掛ける。
「サヨさん、いまから自分のことだけを考えていて欲しい。未来に高校生だった頃でもパウラの中に入る前でもいい。とにかく自分は自分なんだって考え続けて」
ベッドに横たわる彼女は小さく頷いた。
「よし」と気合を入れるために頬を両手でパチンと叩いた。
うまくいく。そう信じて彼女の中に入る。