結ぶと解く   作:ながずぼん

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第125話 同舟と白状

 結構長い時間話をしているので窓の外はすっかり陽が落ちて暗くなっている。

 このまま話を続けるかなにか食べに行くか尋ねると「そうね、なにか軽いものでも食べにいきましょうか」とアサガオさんが言い「では、ウチヤマ君のオススメの店に行きましょう」となって3人でタクシーに乗り夕食へ。

 車窓から見える景色に、この道通ったことあるなと思っていると動物園へ行く道だった。動物園の手前にある湖のところを曲がらず直進すると程なくして店に着く。

 

 そこはバスク地方の料理をアレンジした店でいろんなタパスやピンチョスがあった。バルセロナに行ったときに食べてからピンチョスは大好きになったのだけれど、バリエーションが豊富かつ値段もそこそこという店を日本では見ないので、すごく嬉しかった。興奮してたくさん注文したら店員から「そんなに食えるの?」みたいなことを言われたので「Yes I can」とサムアップしておいた。

 

「そういえば少し体つきが逞しくなったかしら?トレーニングでもしているの?」

 

 アサガオさんにそう訊ねられ、教授に向かって「身体測定って言ってたのに騙された!」と文句を言った。教授は「体力測定とお伝えしてありましたよ」と笑っているので「聞いてくださいよ!」とアサガオさんに毎週金曜日の地獄についてとうとうと説明をした。初回なんかメディシンボールを頭にぶつけて彼岸が見えたと言ったら、彼女は涙を流しながら笑っていた。「ほんとに飽きないわ、あなたのお話」だそうだ。

 

 それから二人が日本で何をしていたのか聞いた。教授は退職願いを提出し引継ぎ作業を終わらせないといけなかったので大学を離れることができず、アサガオさんは一人旅に出ていたそうだ。電車に乗ってあちこちへ出掛けて土地のソウルフードを食べ歩くのだけど、本当に昔からあるものは食べたことがあるので、最近噂になっているようなものを調べて食べ歩いていたそうだ。

 

「埼玉に川越ってあるじゃない?あそこの太麺焼きそばっていうのが有名だから食べてみたら、普通に焼きうどんだったわよ。物は言いようねって感心したわ」

 

 文句を言っているようでそうじゃなく最終的にはポジティブな感想になるところが彼女のすごいところだと思う。おれもそういう人間になれるように努力しよう。

 

 店を出てタクシーでホテルまで戻る。車内で「もう一つ事件があったのよね?」と訊かれ「はい。”こっち”に来てから一番でかい奴ですね」と返事をすると「じゃあ、わたしたちのお部屋で聞こうかしら、タダヒトさんそれでいい?」と教授に同意を求めた。彼は「なにか飲み物を買ってから戻りましょう」とホテルの中のコーヒーショップへ寄るよう提案した。

 

 珈琲を買って教授たちの宿泊している部屋に通される。

 中はめちゃくちゃ広かった。スイート扱いなのかでかいソファセットもある。

 堅めのウレタンがゆっくり沈むソファに座り、二人を前にパウラさんの話をする。

 

「アサガオさん、宇宙船に乗った100人の少女の中にサヨさんていう日本人がいたのを覚えていますか?」

 

「名前までは憶えていないけれど、日本人がいたのはなんとなく記憶にあるわ」

 

「宇宙船が荒れ始めたら図書館みたいなところにずっと籠っていたらしいのですが」

 

「んー、ごめんなさい。そこはわたしたちがいた場所から離れたところにあったと思うわ。だから顔を合わせなかったのかもしれないわね」

 

 残念ながらアサガオさんとサヨさんは直接の面識がなかったみたいだ。知り合いだったとしてもどうして欲しいとか思いつかないのだけど。

 

「モンテビデオの病院のパウラさんていう看護師の中にいたのが、そのサヨさんて方なんです。二人とも自我があって雑に言えば二重人格のような感じですが、基本的にパウラさんの頭の中でサヨさんがたまに話し掛ける関係だったみたいです」

 

「あら、生きている人に入れたの?それって生身の方が受け入れたってこと?」

 

「はい。頭の中に妖精の居場所があったと言っていました」

 

「妖精の… ああ、なるほどね。別々の状態のままでも声を受け入れてたのね」

 

 おれにはなんのことだかわからなかったけれど、ここも理解できてしまうのか。

 

 パウラさんが心神喪失した際にサヨさんが脳内に定着して魂が2つある人間として生きてきたが、パウラさんの人生は彼女だけで生きるべきとサヨさんにお願いされ、サヨさんの自己認識がパウラさんであるという認識を解くため、再帰ベクトルの結合点を外してサヨさんはサヨさんであると認識させることに成功。

 それでサヨさんは思念体へと戻っていった、そう説明をした。

 

「なるほど。彼女を傷つけずに無事に剥がすことができたのね。おめでとう」

 

 そうは言ってくれているけれど、なにか不満そうな物足りないような表情だ。

 「えーと?なにか不満そうですが…」と水を向けると「動機よ動機、いまの話には動機がないじゃない?」と不服そうに言われた。

 

「お願いされて、はいそうですかってできるものではないでしょう?あなたにとって特別な人だから、難しいけれども挑戦したのでしょう?どういう人なのその人?」

 

 目がらんらんとしている。完全に先読みされているのがわかる。モンテビデオで世話になってと言っても納得してくれないだろう。はあ、この人の大好物だったな…

 

「おれは彼女に恋をしていたんだと思います。どっちになのかわかりませんが、どっちにもなんですかね。パウラさん本人には速攻でフラれましたけど。ははは」

 

「うふふ。彼女たちにはよっぽど魅力的に映っていたのね、あなた。一つ教えてあげるけど、いくら定着した別人格があなたに好意を持っていたとしても、元の人格を押しのけて好意的な振舞いを見せるのは無理よ。どういうことかおわかり?」

 

 な、な、なんだってー!

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