結ぶと解く   作:ながずぼん

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第127話 中座と雪玉

 アメリカ人でもないのにヨハンソン側に座ってみたらテカテカが睨んでくる。

 その様子を見て、ぷふっとアサガオさんが噴き出して笑っている。

「ハナダさん、それはどういう…」とハナザワ室長が慌てているので「いや、初めて会う方のお顔が見えないので」と適当なことを言っておいた。

 

 テカテカの隣で丸干しも睨んでいるが、なんすか?という視線を返したら彼の方から視線を外した。あわあわしているハナザワさんには「すんません」という顔を向けておいた。キノコは生えっぱなしだった。ていうか無表情すぎないか彼女。

 教授は困った顔で笑っていて、アサガオさんは花が咲いたように嬉しそうだった。

 

 こっちの地球でも日本は母国だと思っているし、いずれ地元に帰るつもりではいるけれど、テカテカたちの一味のように扱われるのはまっぴらごめんだった。

 

 ハナザワ室長が非公式面談の進行役のようで、録画と録音はオフにしてあるとヨハンソンたちに告げた。「では、我々の側から紹介させて頂きます」と言ってテカテカから順に紹介していく。テカテカは外務省の事務次官だった。丸干しは駐アメリカ日本大使だった。ハナザワさんはキノコを大使の秘書だと紹介した。

 そしてアズマ教授、本日メインの賓客であるアサガオさん、で、苦笑いしながら「お二人はすでにご存じかと思いますが、ハナダさんです」と名前だけ告げた。テカテカの方に目線を外さずに頭を下げた。完全にチンピラムーブである。いよいよとなればテーブルに足を乗っける構えである。

 

 今度はヨハンソンが立ち上がり、国家安全保障局から「派遣された」と言ってアドラさん共々自己紹介をした。気持ちが完全にヨハンソン一味になっていたので危うく立ち上がりそうになった。

 

「それではまず人工ワームホール生成の共同研究について情報の擦り合わせを行いたいと思います。資料をお願いします」

 

 ハナザワ室長がそう言うとアサガオさんが「ねえ、退屈そうだからお庭に出てもいいかしら?」と自由人っぷりを発揮した。ぶっと今度はおれが噴き出した。退屈て。

 

「あ、はい。構いませんが」と室長が言うと「わたしの出番が来たら呼びに来て、じゃあ行きましょうハナダさん」とご指名頂いた。ヨハンソンとアドラさんにウインクをしてアサガオさんと掃き出し窓を開けて外に出た。フードを被ってアサガオさんと雪の上を歩く。彼女は小さく飛び跳ねて雪にはしゃいでいる。

 

「ねえ、どうして向こう側に座ったの?そんなにわたしの隣が居心地悪かった?」

 

「なんかいじめてるみたいだったからですよ。あの二人なんにも悪くないのに」

 

「うふふ。やっぱりそうなんだ。あの事務次官、部屋に入るなり"なんだおばさんじゃないか"ですって。失礼しちゃうわよ。この前まで若かったのに!」

 

 雪を踏みしめる感触が片栗粉を触っているみたいで腰のあたりがゾワゾワする。

 吐く息が真っ白で、煙草吸いたいなと思った。

 

「NSAとはどういう取り決めになっているんです?素粒子の見つけ方とかですか?」

 

「アメリカにいるわたしの子孫の情報よ。お年寄りから小さい子供までだいたい数千人ぐらいいると思うわ。大半が女性だけどね」

 

 「え?」全員を把握している?というか今現在繋がっている感じなのだろうか。

 

「変異ミトコンドリアが子供たちと量子もつれを起こしているの。わかるかしら?」

 

「それって…世界中にアサガオさんの意思が届くってことは、他人の脳内を覗き放題で上書きし放題ってことですか?」

 

「まあね。ふふーん。わたしすごいでしょ?」

 

 思っていた以上にとんでもない人だった。けれども彼女が爆発する好奇心でなにかをやらかしてしまう以外に、悪意を持って他人を害するとは到底思えなかった。

 

「まさかとは思いますけど、それを見越して子供を産んできたわけじゃないですよね?」

 

「まさかとは思いますけど、わたしそんな女に見えまして?」

 

「見えないから尋ねたんですよ。あなたの子供は1500年のロマンスの結晶なんでしょ?」

 

「ふふふ。さすがハナダミツル!わたしの軍団でも敵わない男よ。だがいまここでおまえを倒す!」

 

 アサガオさんはそう言って足元の雪を丸めて投げてきた。それだけならかわいいものなのだが、雪のなにを操作しているのかわからないがめっちゃ堅くて痛い。

 そういうことなら水滴を解いた操作でこの雪玉を爆散させてやると思い次の玉を弾こうと思ったが表面が少し削れただけで手に当たってしまった。

 雪玉の中心から弾け飛ぶように破壊したかったけれど、何度やってもかっこいい感じには壊せなかった。仕方ないので普通に水素結合を解いて霧にすることにした。

 

 アサガオさんが投げてきた雪玉に手をかざして水素の電子を解くイメージをすると、音もなくファッと霧になった。しかしおれとしてはやっぱり爆散させたかった。

 次の玉が来ないので彼女を見ると、どうしても欲しかったおもちゃをサプライズで貰った子供の顔をしていた。そして慌てて雪玉を作って次々と投げてくる。

 そのどれもをファッ、ファッと霧に変えていく。「あはは!すごいすごい!」彼女は顔を真っ赤にしてはあはあ言いながら雪玉を投げてくる。投げてくる玉を壊しながら足で雪をかき集め、疲れて玉の製作が遅くなった彼女に向かってバレーボールサイズの雪玉を投げる。メディシンボールに比べたら軽い軽い。すると雪玉はしゃがんでいた彼女の顔面をヒットし「ぶべっ」と一言残して彼女は仰向けに倒れてしまった。

 

「ごめん、アサガオさん。おなかのあたりに投げたつもりだったんだけど」

 

「さすが我が宿敵ハナダミツルよ、あっぱれである」

 

 彼女はそう言い残して死んだふりをした。

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