結ぶと解く   作:ながずぼん

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第128話 退出と穴埋

 服が濡れてしまうので早々にアサガオさんを引き起こすと、応接室の窓辺にみんな立っていて、アズマ教授とハナザワ室長、ヨハンソンとアドラさんが満面の笑みで拍手をしている。テカテカと丸干しは口を四角く開けてゴールデンエッグスのキャラクターみたいな顔で棒立ちになっていた。キノコは見えなかった。

 

 アサガオさんの背中についた雪を払い落して軒下まで戻り、自分のコートの雪を払って応接室に入った。部屋の中はすごく温かかった。

 

「いやー、ハナダさんの解く能力、やっぱりとてつもない力ですね」

 

 興奮した様子でハナザワ室長に話し掛けられた。自慢でもなんでもなくあれは初歩中の初歩だ。爆散させるのを諦めた結果なので満足していない。

 みんなが順に元の席へ戻っていくので再びテカテカの対面へ。

 

 アドラさんの隣に座ると「とても面白いショーでした。二人ともおつかれさまでした」ヨハンソンが笑顔でそう言ってきた。後で爆散のさせ方を教えてもらおう。

 するとアドラさんが「good job」とグータッチするよう手を出してきたので「70点ぐらいですよ」と言ってグータッチした。テーブルの向こうでは教授がアサガオさんの服をタオルで拭いている。今日は一段と執事っぷりがすごい。

 

 ふうっと一息ついて正面を見ると、テカテカも丸干しも化け物でも見るような視線をこちらに向けている。これはもしかしたら帰国したときに監禁されるコースかもしれない。後で教授かハナザワさんに泣きついて根回ししておいてもらおう。

 

「それでは、少し休憩を挟んだら、日米両国の諜報活動における連携協議に入りたいと思います」

 

 ハナザワ室長がそう言うと「みなさん、ひとついいかしら?」とまたしてもアサガオさんが流れを制した。そして「わたし、日本に全面的に協力するなんてお約束していないわよ?」爆弾を投げ込んだ。しかし直球勝負だなこの人は。

 

「日本のパスポートを交付してもらったことは感謝しているわ。こうして彼と旅ができるのだもの。でもね、わたしを政治の駆け引きにするのはやめてちょうだい。わたしは日本の資産でも資源でも所有物でもないの。なんならアメリカのあなた、わたしがアメリカ人になるって言ったら協力してくれるのかしら?」

 

「すぐにでもグリーンカードを発行させます」間髪入れずヨハンソンが言い切った。

 

「というわけよ。ここで科学のお話はするのかしら?」

 

「いえ、きょうのところはその予定がありません」ハナザワさんもたじたじだ。

 

「科学のお話ならどこの国であろうと協力は惜しまないわ。だってこのままバカな指導者や巨大企業に科学を任せていたら地球が滅んでしまうのですから」

 

 バカな指導者呼ばわりされたテカテカが一言も言い返せないでいる。丸干しはこの世の終わりのような顔をしている。ここでキノコが初めて感情を表に出して物凄い勢いでアサガオさんを睨んでいる。上司をコケにされて腹が立ったのか?

 

 んー、ということは今回の交渉は流れたから、ヨハンソンたちにもアサガオファミリーの情報は流れないってことになるのか?それはそれで別の条件提示があるのか?

 ヨハンソンは仮面を被って腹が読めない。アドラさんの目には感情がない。

 沈黙を破るようにアサガオさんがまた口を開いた。

 

「なんだかシラケちゃったわね。あなた、ホテルまで送ってくださる?」

 

「はい、喜んで。ここから少し行ったところに美味しいシーフードの店があるのですが、もしよろしければお連れしますが、いかがですか?」

 

「あら、いいわね、蟹は諦めていたから嬉しいわ。みんなで行きましょう?ハナザワさんもご一緒にどう?」

 

 「はい、恐縮です、ご相伴に預からせて頂きます」

 

 救われた!そんな顔をしている。面識があるから司会進行はハナザワさんが引き受けたけど、今日のセッティングはテカテカと丸干しの主導で行われたっぽい。

 テカテカと丸干しとキノコを残し応接室を出ると、入口のところに懐かしいゴリラと殺し屋が立っていた。おれを見ると無言で二人が軽く会釈をしてくれた。

 

「お久しぶりです、オオツカさん、カワゴエさん、あの時はお世話になr…」

「オオクボです」「カワサキです」と露骨に嫌な顔をされた。

 どうやら敵を増やしてしまったようだ。「失礼しました」と言ってそそくさと逃げるように大使館を出た。

 

 でかいバンの3列目にハナザワ室長と座って、6人でシーフードを食べに行く。

 

 「あの二人、アサガオさん向こうに回してどうなるんですかね」と訊ねると「事務次官はいい噂を聞きませんから。見切り発車で官邸と妙な約束をしていたとしたら或いは」と小声で教えてくれた。

 「ハナザワさんは大丈夫なんですか?」と確認すると「ははは。うちは吹けば飛ぶような部署なので閉鎖になっても痛くも痒くもないですよ、そんなことより直に彼女と繋がった方がよほどでかいです」と、なかなかにしぶとい感じの話だった。

 

「そんなことより、ハナダさん、本当はもっといろんなことができるんじゃないですか?水素の共有結合解除は初歩の初歩なのでは?」

 

「いや、正直言うと、説明できないんですよ。なにしろ科学知識がないもので。なにをするにしても解説者が隣にいないとどうにもならないんです」

 

「だったら尚更、もう少し頼ってくれてもいいじゃないですか。私では役不足なんですかね…」

 

 ハナザワ室長が凹んでしまった。なにかお詫びをしなくてはいけないが、埋め合わせるものがない。すると前の席でアサガオさんが振り返って話し掛けてきた。

 

「わたしたちがいくら物理法則を教えたところで彼がイメージできないとなーんにもできないのよ。水の共有結合の解除だって最初は何日もかかったんだから」

 

 ダメ出しなのかフォローなのか、アサガオさんの言葉を聞いてハナザワさんは「はあ」と力なく返事をして余計に寂しそうになってしまった。

 別に蚊帳の外に置きたいわけじゃないけど、この人に積極的に関与したくない理由はなんなのだろうかと考えてみると、一個だけ思い当たることがある。

 

「ハナザワさんを巻き込みたくないだけですよ。リアルタイムで相談すると起きてる騒動に巻き込まれるじゃないですか。だから、国の窓口として安全でいてもらわないと能力者がみんな困るんですよ。積極的に絡まないのはそういうことだと思います」

 

 そう言うとハナザワさんは「そうですね、確かに」と言って納得してくれた。

 「それにしても、もうちょっと報告の時間を取ってもらって」と笑っていた。

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