ヨハンソンおすすめのシーフードの店に到着する。ショッピングモールのようなところの一角にあるお店だった。店のマークが蟹だしカウンター上の壁にも魚の絵があって、一目見てシーフードの店だとわかる店だった。夏にテラス席で食べたならすぐそこに海もあるしいい感じかもしれないが外は寒すぎるので店内で。
席に案内され、日本チームは様子がわからないのでヨハンソンにお任せで注文してもらう。即座に「お金のことは気にしないでいいわよ」とアサガオさんから太っ腹発言が出る。死ぬまでに言ってみたいセリフ第三位ぐらいだ。
「お食事が始まる前に、あなたたちに謝らなきゃね」とアサガオさんはヨハンソンたちに言う。「いいえ。私たちにはそもそも決裁権がありませんので」とヨハンソンは言う。ああ、これ交換条件でアメリカの子孫教えてもらう話か?
「それでね、きょうのお話はわたしが壊したわけだから、お詫びに一人だけ教えるわ。そのかわり、その子のこと邪険に扱わないって約束して?」
「はい。承知しました。約束します」
「その子はね、いまわたしの目の前にいるわ。とっても美人よ」
「「「「え?」」」」
アサガオさんは薄緑色の目でまっすぐアドラさんを見つめている。
「No! I,I,I don’t…♭□&×○☆:$%…!!!!」
この絶妙なタイミングで飲み物が運ばれてくる。誰も何も言わない。
アドラさんはパニックのような顔をしているが、アサガオさんが何かしたのか、次第に落ち着いていき、割と早く普通に戻った。そして一口ビールを飲んで口を開く。
「私ノ、ミトコンドリア、普通ト違イマス、ソレヲ、今、理解シタ」
あれ?アドラさんの日本語上手くなってねえか?これも彼女の仕業か?
目が合ったアサガオさんが言う。
「ちょっと整理しただけよ。あなたには負けていられないもの。複数言語を操るのはこちら側の専売特許なんだから。ねえ、ハナザワさん?」
「え、え?ああ、はい」急に振られてキョドっているハナザワ室長おもしろい。ていうかおれにライバル心燃やすのやめてもらえませんかね。単なる偶然だからおれは。
「彼女は能力が眠っている状態よ。彼女自身が使おうと思えば使えるし、いらないと思えばそれまで。だから腫物に触るようなことしないで今まで通りに接してあげて」
「わかりました。報告を上げるとバディを外されるかもしれませんから、私の中に留めておきます。Are you okay with that too?」
ヨハンソンがそう言うとアドラさんは安心したような顔で頷いた。
ちょうどいいタイミングで料理が運ばれてきた。ロブスターと生ガキとムール貝とハマグリ?の盛り合わせと、蟹の入ったケーキみたいなやつ、エビのアヒージョ?ピルピル?も来る。あっという間にテーブルが料理で埋め尽くされた。
そして昼間から賑やかな宴会になる。笑っているヨハンソンやアドラさんを見て、国ってなんだろうなと思う。さっきの大使館でのやり取りがすごく滑稽に思える。
「ハナダさんも、もうすぐ帰国ですね。どうでしたかアメリカは」教授にそう訊かれ、あと2日で検査期間も終了なのかと思い「早かったですね。いろんなことがあったし、この二人が親切にしてくれたおかげで寂しくなかったし」そう言ってちょっとしんみりしてしまった。
「まだ旅行に行ってませんよ?」といつもの笑顔でヨハンソンが言う。「諦めろ。日本に来たら案内してやるから」そう言うと「ソノ話、ドウイウ意味デスカ?」とアドラさんに訊かれる。「すごく難しいことをヨハンソンに教えて貰ったんです」と答えると「ソレガ、ナゼ、旅行ニナル?」と彼女は不思議そうにしている。
「ヨハンソンさんは彼が好きなのよね?」とアサガオさんまで便乗してきた。これはヨハンソンの自爆コースじゃないのか?ここでカミングアウトする気なのか?
「はい。彼のことを愛しています。それだけのことをしてもらいましたから」
すごく堂々とみんなの前で言い切った。だけど油断するとすぐ薄い本にされてしまう恐れがあったので、そんなふうに言われて嬉しかったのは内緒だ。
「ねえ、あなたはその話を彼女に秘密にしておきたいの?」
「そんなことはないですよ。ただ、結果が出るのが明日なのでそれまでは」
「じゃあ、明日の夜にまたみんなで集まって食事しましょうよ。ハナザワさんもまだこっちにいるんでしょう?」
「はい!土曜日の便で帰ります。明日の夜も空いてます。というか仲間外れは寂しいので予定があってもキャンセルしますけれど。ははは」
「ではウチヤマ君も誘ってあげましょう。後で知らされるのは寂しいでしょうから」
そんなこんなでトントン拍子に明日はヨハンソンの快気祝いパーティー(仮)をすることになった。大丈夫なのかなあ。これで陽性だったら目も当てられない…
不安そうな顔をしたら「大丈夫よ」とアサガオさん。「大丈夫です」とヨハンソン。「きっと良い結果が届きます」と教授。「だといいんですけどね」とおれ。
いやー、まじでドキドキするな明日。
食べ終えて店をでる。ハナザワさんは大使館に車があるとのことでここでお別れ。
「では、また明日」と言って駅の方へ歩いて行った。
おれたちは再びでかいバンに乗り込み、ホテルへ送ってもらう。
車中、アサガオさんがアドラさんに「困ったことがあったら彼の携帯に連絡して」と言って教授の番号を教えていた。「アリガトウゴザイマス」とアドラさんは嬉しそうだった。とはいえ初回の発動には強い意思が必要になるだろうから、変なふうに暴発するようなことはないだろう。