結ぶと解く   作:ながずぼん

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第130話 背広と革靴

 検査も残り2日。この日は心理検査とストレスチェック。

 ていうことは明日は地獄の体力測定なわけだけど「それを最終日にやる必要がある?」と病院までの車の中でアドラさんに尋ねると「成長シテイル、ダイジョウブ」と励まされた。答えになってないんだけど…

 

 心理検査はパーソナリティ診断だった。

 4つの文章があり、最も当てはまるものと全く当てはまらないものをチェックしていく。ストレスチェックに似ているけれど、なんというか答え方がもうちょい複雑だ。全く当てはまらないのが2つあったりして悩む。けっこう脳みそが疲れた。

 

 そして飽き飽きしているパーソナル検査。なんでもいいやーって感じでチェック。

 それが済んだらストレスチェックという名のアンケートに答える。

 見たような設問があっても前回なんて答えたか忘れているので適当にチェック。

 もしかしてここでズレるとストレスが溜まってる評価になるのかな。

 

 昼飯を病院のフードコートで食べるのはきょうが最後になりそうだ。

 きっと晩飯はごちそうになるだろうから、軽めにお一人様ピザにした。

 ヨハンソンは午後に検査結果を聞きに行くらしく、送りはアドラさん一人になると言われた。「なにも問題ないよ」と言うと「私、運転、ヨハンソンヨリ、上手イ」と自信ありげにアピールしてきたので「あまり急がなくていいからね」とお願いした。

 

 アドラさんの運転する車の助手席に乗って送ってもらう。確かにスムーズ。

 港までもうすぐという所で、いつもは曲がらない交差点で曲がる。近道なのかなと思っていると、商業ビルの前で車を停める。

 

「ハナダニ、プレゼント、アル。私ト、ヨハンソン、カラ」

 

 そう言われ車から降りたアドラさんについて行くと、スーツの店に入った。

 彼女が店員に声を掛けると奥からスーツとシャツとネクタイを持ってきた。

 「え?スーツをくれるの?」と訊ねると彼女は微笑んで頷いた。そのプレゼントにも驚いたのだけど、昨日からアドラさんの表情が豊かになってるほうが驚く。

 まじでサイボーグだった彼女が人間になったみたいに感じる。

 

 カウンターに広げられたスーツは上下薄いグレーで、シャツはエンジ色で、ネクタイは銀色だった。思わず「ど、堂島の…」と驚嘆の声が漏れた。ネクタイを締めれば多少印象は変わるのかもしれないけれど。これってやっぱりコスプレか?

 試着するよう言われ、フィッティングルームに入って着替えると鏡の向こうには堂島の龍モドキがいた。ていうかサイズがぴったりで着心地がいい。

 カーテンを開けるとアドラさんいて「見違エタ、素敵デス」と褒めてくれる。

 

 「サイズがぴったりなんだけど」と言うと「病院デ、全部測ッテイマス」と返されなるほどなと納得した。もう一度振り返って鏡に映る自分を見て、なんだか黒服やってたのがずいぶん昔のように思えた。大きいところもきついところもなかったので調整不要ということで、着ていた服を袋に入れてもらい、ホテルまで送ってもらった。

 

「素敵なスーツをありがとう。これを今夜着て行けばいいんだよね?」

 

「ハイ。ドレスコード、デス。ダイタイ、ワカル、ケド、結果、楽シミ」

 

 「うん。じゃあ、また後で」そう言って彼女と別れ部屋に戻る。

 とりあえず出掛ける前にシャワーを浴びたかったので、一旦スーツを脱いでシャワーを浴びる。ヨハンソンが入ってくるかもとびくびくしたのが一週間前か。

 その後、パウラさんが訪ねてきて、昨日は大使館で雪合戦。ゲップが出るほどイベントだらけだった。いっぱい能力使ってるけど、おれの脳みそ焼き切れないかな。

 

 シャワーから出たら少し涼んでまたスーツに着替えた。

 時間になったのでロビーに行くとアズマ教授とアサガオさんが待っていた。

 教授は相変わらずベージュのトレンチコートの襟首から白いシャツと赤いネクタイを覗かせる豚さんコーデ。アサガオさんは黒いロングドレスの上からドフラミンゴみたいなコートを羽織っている。あんなコートどこで売ってるんだろう。

 

「あら!いいじゃない!ん?でもその靴はいただけないわね。まだ少し時間あるから買いに行きましょう」

 

 歩いて行けるデパートに靴は売っていた気がするのだけど、アサガオさんに否応なしにタクシーに乗せられる。教授が運転手に英語でなにかを告げて発車する。

 割とすぐの港の西側の地区に専門店があってタクシーを待たせたまま店に入る。

 革靴を物色してみるもどれもこれもサイズがでかい。試しに履いてみるとぶっかぶかだった。するとアサガオさんが「これ履いてみて」とタンカラーの革靴を持って来てくれた。てっきり蛇革の白いやつを持ってくると思っていたので安心した。

 その薄茶色の靴はぴったりだった。値段を確認しようとすると「昨日の雪合戦で負けたから買ってあげる」と彼女は言う。どうせ何を言っても払わせてもらえないことは知っているが「悪いですよ」と一応言うと「甘えるのが上手になったわね」と全てお見通しな感じで楽しそうに言われた。

 

 待たせていたタクシーに乗り込み会食会場である高級レストランに向かう。

 そこはホテルのすぐ近くだった。受付のおじさんにヨハンソンの名前を告げると席に案内される。席には紳士淑女がすでに揃っていた。ウチヤマ先生は夫婦で来ていて奥さんはめちゃくちゃ緊張している。それぞれに声を掛け、空いている席に教授とアサガオさんと3人で並んで座る。

 目の前の赤いイブニングドレスを着てショールを羽織っているアドラさんに「寒くないの?」と訊ねると「大丈夫デス」と微笑んだ。軍曹は軍曹とは思えないほど綺麗だった。そりゃモテるわけだ。

 中央のヨハンソンはまだ来ていない。心配ないとは思うがどうかしたのだろうか。

 

 しばらく雑談しているとタキシードを着たヨハンソンが息を切らして紅白の薔薇の花束を抱えてやってきた。

 「すみません。花屋が混んでいて」と言って遅刻を謝った。

 おめでたい感じの花束を見てホッとした。陽性であれはないだろう。

 すると彼は真っすぐおれのところへやってきて花束をテーブルに置くと、腕を掴まれ引き上げられた。なんだ?と思って立ち上がると、ぎゅっと抱きしめられた。

 身長差がありすぎて完全に彼の胸に埋もれている。背中に回された腕が少し震えているのを感じた。数秒後、すっと腕が離されて肩を掴まれた。来る!と察知したら案の定チューしようとしてきたので右手で奴の顔を押しのけた。

 

「やはりバレてましたか。ガードか固いなあ」ヨハンソンはそう言って笑った。

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