みんなはまだアサガオさんたちと部屋に残ってもらい、ヨハンソンとアドラさんの3人でおれの部屋へ行く。ホテルの監視カメラに映っているのは大丈夫なのかヨハンソンに訊ねると、元々アサガオさんの映像を残さないようにDHSという組織の専門家に依頼しているから問題ないとのこと。
おれの部屋に入りスーツケースに荷物を入れるよう指示される。その際、パスポートと財布は別にするよう言われたのでスーツのポケットに入れる。中身はバラバラに捨ててしまうが困るものはあるか訊かれ、特にないと答える。
一旦ベッドに座るよう言われ端に腰かけると、ヨハンソンはデスクチェアを持って来て真正面に座る。明日の襲撃者の特徴を教えて欲しいと言われる。看護師の方は意識も曖昧でよく覚えていないが、銃を撃って来たやつだけでいいか尋ねると、それでいいと言う。あいつを思い出しながら説明をする。
身長はたぶん175~180cmぐらい、上半身はジャンバーで膨らんでるから肉付きがわからないけれど、下半身の腿の感じからするとまあまあ肉がある感じ。全体的には007カジノロワイヤルのCIAの人みたいな感じで、顔つきはポルトガル代表のペペみたいな感じ。髭はなくて浅黒い肌。頭髪は茶色で薄い短髪。手の甲に毛がもじゃもじゃ生えていた。口で説明するのはこのぐらいか。
あまり参考になるとは思えないが、備え付けのメモ用紙にペンでなんとなくそいつの風貌を描いて渡した。そこそこ似ていると思う。
その後、争った形跡作りは2人にまかせた。リアリティがある感じに部屋が荒らされ、このへんを触れと指示された位置に指紋を残す。誘拐は誰の仕業ってことにするのか尋ねると、そのへんはNSAに内通者がいないか確認できたら本部で相談するそうだ。
偽装工作が済むと部屋を出て、ヨハンソンがドアの鍵のところをガチャガチャと壊してしまった。「なんで?」と言うと「拉致の常套手段なので」と教えてくれた。
3人で一度アサガオさんたちの部屋へ戻る。
部屋は妙な緊迫感に包まれていた。アサガオさんがウチヤマ先生の奥さんと対峙している。何があった?まさか彼女が密告者とか裏切者みたいな話なのか?
「これが最後よ。正直に答えてちょうだい。あなた明日の記憶が少し残っているでしょう?じゃなきゃわたしが目玉焼きになにを掛けるかなんて知らないでしょう?」
え?これなんの話?目玉焼き?
「ううう…夢だと思ったんです。なにかそういうシーンの夢を見ただけだと…」
「リカ、いまの僕らに隠し事はなしだ。もし君に能力があったとしても僕たちは何も変わらないよ?だから正直に言って欲しい。なにを覚えているんだい?」
「朝、家族と一緒に教授さんと奥さんと朝食を食べていたんです。そしたら奥さんが目玉焼きはお醤油とタバスコだって言っていて。変わった人だなって」
ウチヤマさんの奥さんは半泣きで目玉焼きの話をしている。それがどうして能力者の話になるのかサッパリわからない。もうこれアサガオさんに聞いた方が早いな。
「アサガオさん、一体なにがあったんですか?目玉焼きとか能力者とか」
「ああ、戻って来たのね。あのね、わたし明日の記憶がかすかにあるの。あなたに戻される前の世界線の記憶が。彼らの子供たちと庭で遊んでいたの。たぶん能力で記憶が少し定着したのだと思うの。そしたらこの奥さん、わたしが目玉焼きになにを掛けるのか記憶してるから能力者なの?って訊いたのだけど、知らない知らないって言うから」
アサガオさんに近寄り、なるべく小声で「仮に奥さんが能力者だとしてどうして把握してないんですか?繋がってないんですか?」と訊ねると「そうなのよ。こんなことウルグアイの彼女以外にはあり得ないの。どういうことなのかしら…」と困惑している。
アサガオさん以外の別系統の軍団がいるのだろうか。それとも単にもつれ?が千切れているだけなのだろうか。100%繋がっているならエルリカさんの居場所がわかるはずだけど、そうじゃないから捜索してるわけだよな。てことは…
さらに超小声で「エルリカさんとは繋がっているんですか?」と訊ねると「いいえ、彼女は自身で断ち切ったみたい」と超小声で教えてくれる。「だったら彼女もどこかの代で千切れただけなんじゃないですか?」と訊ねると「それもそうね!」とこちらを向いた彼女の眉間からシワがなくなった。いやそこ気付けるでしょうよ!
「ごめんなさいね、奥さん。わたし気が立ってたみたい。責めるような言い方して悪かったわ。許してくださる?」
「あっ、いえ、そんなそんな。私、びっくりしちゃって。こちらこそすみません」
ひとまず奥さんがどうあれ騒動は片付いたようなので、今の騒動で飛んでしまっていないかもう一度ヨハンソンから作戦のおさらいをしてもらう。
全員自分の役割を確認できたので、最後に一言だけ言わせてもらう。
「みなさん、おれのせいで犯罪の片棒担がせるような真似をさせてごめんなさい。協力に本当に感謝しています。ただ、身の危険を感じたら作戦は忘れて自分の安全を優先してください。ヨハンソンもアドラさんも二度目はないから、命は大事にして。それじゃよろしくお願いします」
早速スーツの上からベージュのトレンチコートを着てボルサリーノをかぶる。
アサガオさんとアズマ教授を残してみんなが部屋から退出した後で、教授に「よろしくお願いします」と言うと「手を出したら殺しますから」と真顔で言われる。
「もう、バカな人」とアサガオさんが教授の頬にキスをすると教授は紅くなった。
おじさんチョロすぎだぞと思いつつアサガオさんと腕を組んで部屋を出る。
ホテルを出るとウチヤマ夫妻の車に乗り込む。運転は奥さんがしている。
道路にもカメラがあり映っているかもしれないのでなるべく動かないようにする。
「奥さんに了承を得て覗かせてもらうのはどうなんですか?」とアサガオさんに言うと「申し訳ないと思ったけれど、もう見たの。でもわからなかった」とのこと。
能力者じゃなくてもタイプリープの残滓がある場合もあるのだろうか。
奥さんが能力者かどうかよりも、明日の夜からのことを考えたほうがいい。