結ぶと解く   作:ながずぼん

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第138話 組織と山道

 交差点を何回か曲がりつつ住宅街を抜け、お目当てのUS-29に出ると道がぐんと広くなる。広い道路同士の交差点に出て赤信号で止まる。少しして信号が青になり道を渡っている最中に交差している広い道からパトカーが近づいて来るのが見えた。停められることはないだろうけど、どきどきした。サイドミラーで後方を注視していたがパトカーはこちらの道には入って来ないようだった。

「あの青と赤のランプ、心臓に悪いですね」と言うと「この車両はたぶん停められません。救急車と同じ扱いですから」と前だけを見て運転するアドラさんは言った。

 

 それにしてもアメリカの幹線道路というのは真っすぐなもので、夜中にこんな直線ならアクセルを踏み込みたくなるものだけど、アドラさんは一切そんな素振りも見せず、まるでクルコンが効いてるかのように一定の速度を保って巡行している。

 やがて木の柵が有刺鉄線のようになっているエリアに入り、あれは何かと尋ねると南北戦争の頃の跡地でそこを保護しているのだという。アメリカの歴史は全く知らないので「ほーぅ」と謎の鳴き声を上げておいた。一晩中会話が弾みそうにない予感がした。

 

 しばらく日本の高速道路ような感じの周りになんにもない道を走り、建物の灯りがぽつぽつと見え始めたなと思ったら、またなんにもない感じになった。行き先を示す緑色の看板がなければ、ぐるぐる同じところを走っている感覚になる。

 

「こんなこと言っても仕方がないんですけどアドラさんは眠くならないんですか?」

 

「夕方に仮眠をとってきているので平気です。あなたは寝てもいいんですよ?」

 

「そんなわけにはいかないですよ。起きていれば何かの役に立つかもしれないし」

 

 自分で言っててあれだけど、起きていても役に立つ気配はまるでない。

 

 しばらく進むと車線が増え、ランプが出てきて立体交差している道をくぐる。これで高速道路じゃないっていうんだからアメリカすごい。ランプを過ぎたら車線はまた減って3車線になり、やがて2車線になる。建物の灯りは相変わらず見えない。

 足元からヒーターの温風が出ていて車は適度に揺れている。これはもう完全に寝かしにかかってきている。疲れた大人によく効く子守歌だ。

 なんとか堪えて…いたのだけど…

 

―――――

 

 気が付いたらガソリンスタンドっぽいところへ車を停めたところだった。とはいえ給油所から距離がある。給油ではなく休憩のために裏手に停めたっぽい。

 「休憩ですか?」と尋ねると「はい。あとは定時連絡を入れます」と彼女は言うと、携帯の電源を入れどこかへ掛ける。短く用件を伝えたらすぐに通話を切って電源を落とした。「ヨハンソンですか?」と訊ねると「そうです。休憩地点で連絡します」とのことだった。「シャーロッツビル」と言っていたので現在地を連絡しているのだろう。

 

 トイレは大丈夫かと訊かれ、「外を歩いても平気ならいいけど、危ないようならまだ我慢できます」と言うと「誘拐事件として州警察が動いているかもしれないので賢明な判断です」と言われた。「誘拐事件ということはアドラさんが誘拐犯になるんですか?」と驚いて尋ねると「そのへんはヨハンソンがNSAに説明して処理しているはずです」とのことだった。捕まるとまずいのは警察ではないらしい。

 

 どういうことなのか尋ねると、おれが病院に現れなかったことでおそらく病院から警察に通報が入るという。ホテルへ行った警察が誘拐の疑いがあるとして捜査を開始するわけだが、ここまで検問もないしろくにパトロールにも遭わなかったことを考えると、警察の捜査になんらかの横槍が入った可能性が高いらしい。それができそうなのがNSA,DHS,CIAあたりだそうで、状況から見てCIAの可能性が高いという。

 「外国人が絡む国家安全保障上の問題」と理由をつけて自分たちの案件を主張するのだそうだ。警察にも面子があるから動かないわけにはいかないが、邪魔もしないけど協力も消極的というような立場になるらしい。縄張り争いで助かっているっぽい。

 

「それじゃ、あの襲撃者はCIAの工作員ってことなんですか?」

 

「はい、おそらく。しかしCIAは国内活動ができないのでCIAの下請けです。私たちと同じような人間だと思います。やり方が強引すぎるので一部の人間が関わるだけの案件かと。成功すればラッキーで失敗しても下請けを切るだけですね」

 

「ああ、そういえばアドラさんも委託企業から派遣されているんでしたっけ?」

 

「はい。8年前にNSAを辞めて委託企業である通信会社の所属となっています。フィールドワーカーになったのは2年前です。この話はしましたよね?」

 

「はい。そこらへんの事情はヨハンソンから直接聞けって言われました。でも言いたくなければ言わなくてもいいですよ。所属とかよくわかんないし」

 

「その考えはありがたいですが、わからないことを放置するのは不安ではありませんか?身元が明らかではない人間に命運を委ねるのはリスクが高いです」

 

「あははは。そんなこといったら世界で一番おれが正体不明じゃないですか。それにおれはあなたという人間を知っていますよ?強くて怒ると怖いけど美人で賢い」

 

 真っすぐこちらを見ている彼女の表情は薄暗くてよく見えないが、雰囲気で察するに今の回答は間違ってなかったように思う。なんとなく照れているように感じる。

 

 ガソリンスタンドから左折で道に戻り少し進むとランプのような道へ左折で入り、本線っぽい道に合流する。スタンドに寄るために一度道を外れていたみたいだった。

 さっきの眠たくなる道が東名高速だとすると、このへんは中央道の小淵沢のあたりのような感じだった。標高が高いというか山の上の方を走っている感じがする。

 あいにくの曇りで空は見えないが、これ晴れてたら満天の星空じゃなかろうか。

 

 日本の山岳地帯に走る高速道路のようなきついカーブはなく、ゆるやかに曲がる程度だけれど、ずいぶん長いこと山の上を走っている。たまにガソリンスタンドやなにかのお店みたいなのがサービスエリアのように現れるのが唯一の変化か。とにかく暗いし代わり映えしない景色が続く。

 

 たいして弾まない会話を挟みながら、山の道をひたすら南下していく。

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