結ぶと解く   作:ながずぼん

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第140話 状況と迂回

 インカムから奴の声が聞こえる。

 

「無事でよかった。あちらの方も無事ですか?アドラに何かされていませんか?」

 

「おまえじゃねえんだから何もねえよ。随分余裕だな、寝てないんじゃないの?」

 

「ええ。ハナダさんのことを想うと夜も眠れません。私が運転すればよかったです」

 

「お前の世迷い事を聞いている時間はない。状況はどうなっている?」

 

 アドラさんがヨハンソンの暴走を止めてくれた。さすが軍曹だ。

 

「奴らは幹線道路沿線の商業施設の監視映像で追跡しているようだ。確認に半日のタイムラグがあるし、ALPRのログで攪乱しているから先に回られることはない。おそらく今はリンチバーグのあたりを捜索しているだろう」

 

 おれたちの作戦は順調なようだった。足を引っ張らないように気を付けないと。

 

「誘拐事件の捜査はどうなってるの?本当に警察は無視していいの?」

 

 通常、誘拐事件であれば州を跨ぐ可能性が高いため連邦警察であるFBIが捜査の実権を持つが、NSAから「極秘で移送中」とネタバラシに近い形で連絡をしたため、捜査もしないし検問もないそうだ。FBIが出てきたら詰むところだったが本腰を入れる前に退場してもらうことができたそうだ。

 

「捜査から手を引いたFBIが監視映像をCIAに流すことはないの?」

 

「捜査情報だけを流すことはFBIとしてのプライドがあるのでまずないですね。動かないかわりに協力も最低限というのが彼らのスタンスになるでしょう」

 

 映画で見るほど好き勝手に監視データを扱えるわけではなさそうだった。

 その後、アドラさんとヨハンソンは英語で今後の打合せをしているようだった。

 暇なので紙袋からサンドイッチを取り出して2つ食べる。残りの2つをアドラさんに渡して机に広げられた地図を眺めていると「じゃあ、今夜の出発までゆっくり休んでください」とヨハンソンに言われ「ありがとう。そっちも休んで」と言って通話は終了した。

 そしてサンドイッチをもぐつくアドラさんに「今夜はあまり距離が稼げません。でも心配しないでください」と言われる。もぐつきながら言われるぐらいだから心配はいらないのだろう。

 

 出発までアドラ軍曹とストレッチをしたり、くたびれて昼寝をしたり、彼女がコンビニまで買い出しに行っている間に除菌シートで身体を拭いたりした。彼女はおれが昼寝をしている間に身体を拭いたらしく胸が元に戻っていた。

 きょうの夕食はピザだった。

 

 22時になり、アドラさんが携帯でヨハンソンに連絡を入れて倉庫を出発する。

 南に向かってUS-29に入り、少し走って分岐のランプをぐるっと回る頃、「Welcom to NORTH CAROLINA」の看板を通過する。

 

 しばらく高速道路としか思えない景色が続く。両サイドは雑木林で何も見えない。

 ポツポツと降り始めた雨がフロントウインドウに水滴を無造作に落としていく。

 やがて雨は本格的に降り始め、車内にクゥクゥとワイパーのゴムの擦れる音が聞こえてくるようになる。夜間で雨降りの運転は眠くなりそうだけど大丈夫かなとアドラさんを見ると、しっかり前だけを見て集中している様子だった。

 

 ずっと雑木林の道を1時間以上走るとぽつぽつと住宅や会社かなにかの建物が見え始めた。とはいえ一軒一軒の間隔が広く閑散としている。とにかく敷地が広い。

 そもそも市街地ど真ん中みたいなルート設定はしていないだろうから、街に入ってもこんなもんなのかもしれない。と思っていると現れたランプを出て幹線道路から外れた。

 

「休憩ですか?」と尋ねると「この先が、高速道路と重複区間になって監視カメラが増えるので一般道を走ります」ということだった。

 距離が稼げないというのはこれのことだったみたい。

 

 ザ・住宅街を走り、ちょっと郊外みたいになってきたところで、左折して工業団地っぽいところへ入っていく。踏切を渡った先の砂利敷きの駐車場?かなにかのトラックの陰に車を停めた。ひとまずここで休憩をするらしい。雨は小雨になっている。

 

 アドラさんがヨハンソンに連絡をしている間に、車を降りてトイレを探すも見当たらない。人影はないようなので、土手の方へ行って用を済ませて急いで車に戻る。

 除菌シートで手を拭きながら「アドラさんはトイレ平気なんですか?」と尋ねると「私は大丈夫」と言っている。まあ、そこの土手でしようとは思わないだろうけど。

 

 再び車が走り始め、住宅街をゆるゆる抜けていく。しばらく走ると両サイドの住宅がまばらになってくる。山道ではないが林の道という感じ。

 

「ここから少し時間を稼ぎます」彼女はそう言って珍しくアクセルを踏み込む。といっても無茶な飛ばし方ではなく巡航速度が10km/hほど上がる感じ。ただ、道の広さや走っている車の台数からすると、このぐらいの速度の方が心地よかった。

 流れる単調な景色と等間隔に動くワイパーとゴムの音、そして足元のヒーター。また寝かしつけに来てる。今夜は負けないぞ…負け…ない…

 

―――――

 

 空地の木陰に車を停めて2回目の休憩をしているときに意識が戻る。

 くそっ!またやっちまった…ごめんアドラさん。

 彼女はやや緊張した感じでヨハンソンと通話している。そのうちに彼女の緊張は解かれ、切る頃にはいつもの感じに戻っていた。

 

 何かまずいことでもあったのか尋ねると、距離が稼げないから追いつかれると心配したが、一般道で監視カメラから消えつつALPRのログを分散させたので、行方がわからなくなっている状態とのこと。この先の市街地で監視網にかかるかもしれないけれど、潜伏地点までは無事に辿り着けるだろうとのことだった。

 

 US-29で南進するとだらだらと住宅や店舗がぽつぽつと並ぶ郊外の住宅地の様子になりそれがずっと続く。平べったくてほぼ真っすぐな道。速度も出さない。

 分岐を西の方向に行くと農場地帯になるがすぐに終わり市街地っぽくなる。でかいスタジムみたいなのが見えて「あれはなんですか?」と尋ねると「サーキットです」とのこと。紙の地図で確認すると目的地であるシャーロットが近いようだった。

 

 大き目の交差点を左折して少し走るとガソリンスタンドが見える。さっき休憩したばかりなのでここでは給油だけ。店内では下を向いてトイレに行くよう言われ、よくわらないまま用を足して車に戻る。燃料補給が済んだら来た道を戻って先へ急ぐ。

 なかなかの市街地を抜けて幹線道路を外れ、住宅街を北へ迂回してから南へ。いかにも新興住宅街といった同じ形の住宅が並ぶ通りを過ぎたら再び幹線道路へ。いまのところも高速道路と重複区間になっているようで、それを迂回したそうだ。

 

 迂回してきたルートの内側の地価の高そうな市街地をぐるっと東へ戻り野球場を通り過ぎたら西へ。そこそこ建物が並ぶ道を通り過ぎたら郊外になる。

 郊外の住宅地を通過すると2日目の目的地に到着する。倉庫街の倉庫である。

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