2日目の潜伏先であるシャーロットの倉庫はダナビルの倉庫とは少し違っていた。
プラットフォーム型になっているのでシャッターが地面より高い位置にあって、スロープを上って車を入れる。建物も昨日は波トタン張りの鉄骨造だったが、ここはレンガタイルを張った鉄筋コンクリートだった。床も塗装がしてあって綺麗だ。
コンテナがいくつか入っていて、その一つは事務所になっていた。
「きょうは、あそこのコンテナで寝ます。必要な荷物を持って行ってください」
ウチヤマ先生が用意してくれた替えの下着と水を持ってアドラさんの準備が済むまで待つ。彼女が荷室からでかいバッグを下ろしたら、後に続いてコンテナに入る。コンテナっていうかキャンピングカーだった。バンの荷室がドミトリーだとすると、ここはまるでいいホテルの部屋だ。簡易だけどシャワーもトイレも完備されている。いい加減に頭が痒くなりそうだったのでシャワーは嬉しい。
一番奥に2段ベッドがあって昨夜より健全な感じがした。咄嗟の対応を考えて上の段のベッドを使うことにして靴を脱ぐと、アドラさんがでかいバッグの中からツナギを渡してくれる。明日はそれを着るらしい。それからバスタオルを渡してくれた。
先にシャワーを使っていいと言われ強い心で下着になりいざシャワーへ。水圧はヘロヘロに近かったけれど、お湯のシャワーが浴びられたのは最高だった。冬場なので大して汗はかいてないが、それでも蒸れるところは蒸れる。
めちゃくちゃさっぱりした。こんなものを用意してくれたNSAに感謝する。
「シャワー最高でした。生き返りました。ありがとうございます」そうお礼を言うと、「明日はないです。どこかトラックストップがあればまた寄ります」と笑いながら悲しいことを言われた。トラックストップとやらに期待するしかない。
するとアドラさんは全く気にもせずブラトップとパンツ姿になりシャワーに入った。完全に圏外扱いされているのはいいのだけど目の毒だった。自分の容姿をもう少し自覚して欲しい。彼女が出てくるまでに寝てしまおうと思ったが眠れなかった。
うまく寝付けないまま目を瞑っていると、彼女がシャワーから出てきたようでなにかゴソゴソとやっている。で、しばらくすると照明を消して下の段に入った。
隣じゃなくて上下でよかったと思いつつじっとしていると下から声を掛けられた。
「ハナダさん、もう寝ましたか?」
心臓が飛び出そうだった。自意識過剰なのは百も承知だが妄想が捗り過ぎる。
「い、いや、まだ寝てないです… なにかやり残したことでもありますか?」
「きょうずっと考えていました。もしCIAに見つかって、彼らが私の目の前に現れたときに私は正気ではいられなくなるかもしれません」
ん?なんかお喋りがしたい感じなのか?肉弾戦ではない?
残念なような安心したような気持ちで「そうなんだ」と返した。
「マムに言われたように私には変異ミトコンドリアがあります。だから少しだけ覚えています。あなたに抱えられて名前を何度も呼ばれたこと。そして私を撃った男の顔をうっすら覚えています。私はあなたを守るのが仕事ですが、彼が目の前に現れたらきっとそれを放棄して彼を……殺してしまうかもしれません…」
結ぶ素粒子の残滓ってやつか。撃たれる前に意識は戻っていたんだな。
「おれは生け捕りにしたいのだろうけど、アドラさんにはまた銃を向けてくると思いますよ。理由もなく殺したらまずいでしょうけど、正当防衛なら仕方ないことじゃないですか?相手は無抵抗な人間を撃ち殺すような外道なんだから、その覚悟は正しいと思いますけど」
「もしも正当防衛が立証できない場面で私が殺そうとしたら…」
「そのときは止めますよ。腕力では適わないかもしれないけれど、まあ、どうにか止めます。あー、えーと、おっぱいとかお尻とか触ってこっちに怒りを向けさせます」
「ぷっ。ハナダさんは性欲が満たされて私は違法な殺人を犯さずに済む。完璧な作戦ですね。ヨハンソンに伝えておきます、彼は私の身体を触りたがっているって」
「ちょっと!おれの性欲が満たされるって酷くないですか。一生懸命考えたのに…」
「はい。ありがとうございます。もしもの時は好きなだけスケベしてください」
人生で初めて聞いたよ「好きなだけスケベして」って。スポーツ新聞や週刊誌に載ってる風俗体験記事でも見かけない台詞だよ。
―――――
アドラさんは言いたいことを言って気が済んだらすぐ寝てしまったので、変なことを言われたおれだけ寝るのが遅くなった。ということで起きるのも遅くなり目覚めたら15時だった。そして腹ペコだった。
アドラさんはコンテナにいなかったので遠慮なくトイレを使い、顔を洗って外に出るとボンネットのロゴが水道工事の会社のものに変わっていた。ナンバープレートもジョージア州のものに付け替えられている。
彼女の姿は車の近くにないので事務所のコンテナに行ってみると、ちょうどヨハンソンと作戦会議が終わったところのようだった。
「おはようございます。ヨハンソンと話したかったですか?」
「おはようございます。別に作戦に口挟むこともないし、大丈夫です」
「ふふふ。彼は嫉妬していましたよ。おまえが誘っているのだろ!って」
「じゃあ、勘違いさせておきましょう。あ、意地悪が過ぎると位置を漏らすかな」
ヨハンソンが嫉妬に駆られて裏切らないことを祈る。つうか他を当たってくれ。