潜伏先の倉庫に戻るとすぐに事務所コンテナに行き、ヨハンソンに繋いで謎のおじさんと遭遇した件の報告をする。
彼の見解は、FBI捜査官が監視カメラ映像とALPRのログを擦り合わせたら居場所が割れる可能性はあるとのことだった。しかし上層部からストップがかかっている状況だとすれば、彼は休暇中であり照合は部下か同僚に頼んだのだろうとのこと。
よって本当に誘拐なのかどうか確かめるために接触してきたのではないか、と。
「ハナダさんは、彼とどんな会話をしたのですか?」
「アドラさんのことを恋人か?って訊かれたから、会社の上司だって答えた」
「なるほど。アドラとはビジネスライクな関係だから、欲情なんてしないと」
こいつ真面目に話してると思ったけど、そういうこと言うんだ。
「あと、あんな美人が彼女だったら夜な夜なベッドで下僕になりたいって言った」
「おいアドラ、本気にするなよ。いまのは彼が適当に話を合わせただけだから!」
「あらそう?ハナダさんが部下なら虐め甲斐があると思うの、焦らして焦らして。でも私が我慢できなくなっちゃうかしらね。うふふ」
アドラさんの挑発にヨハンソンはFワードを連呼している。からかいすぎたか?
「ヨハンソン、抱かないし抱かれもしないから、対応を教えてくれよ」
「あ、ああ、すみません。彼からCIAに情報が渡るとは到底考えられないので、行程と移動ルートはそのままで。FBIに知り合いがいないわけではないですが、正直そっちまで手が回らないので彼のことは考えるをやめましょう。リソースは有限です」
「了解。じゃあ今夜からの予定も変更なしで。次は出発の時に連絡する」
ヨハンソンとの作戦会議は、おじさん放置ということで合意となった。
よくよく倉庫周辺の様子を窺がってから次の目的地アトランタに向けて出発する。
さっきの警察署の交差点は迂回してNC-49へ。住宅街を抜けワイリー湖に架かる橋を渡っている途中でサウスカロライナ州に入り、渡り終えるとさんざん見慣れた郊外の道を走る。ウエンディーズの先の交差点を左折して南へ進む。
住宅街を抜けると林の道になり、ずっと下り坂が続く。しばらく進むとヨークの街中に入る。なんとなく古い街な感じがする。日本にもこんな田舎あるような。
分岐を西へ進むと林の道になりずっと続く。しばらく林の道を進むとちらほら住宅が出てくる。その先はユニオンの街。ヨークよりも古い感じ。バックトゥザフューチャーでタイムスリップした1955年の街に似た感じがする。通りもその先の住宅街もすぐ終わり、あっという間に林の道になる。
「ダイナーのおじさん、店にいたのは偶然ですかね?他にも店あったのに」
「そうですね。店で会ったのは偶然かもしれません。ですが、倉庫群に潜伏していることは完全に読まれていたと思います」
「これから向かうアトランタでも待ち伏せしてるんですかね」
「どうでしょうか。バッジも見せなかったし行き先も聞かなかった。CIAとNSAのどちらかが虚偽の報告をしていて、それを確かめたかったのかもしれないですね」
謎のおじさんの話をしているうちに林の道から閑散とした住宅地に入り、やがてローレンスという街の交差点で左折してUS-76という幹線道路に入る。道幅も景色もさほど変わらないが監視カメラやALPRの機械は増えているのだろうか。
しばらく進むとガソリンスタンドがあり建物の裏手に車を停めて休憩する。併設のコンビニへはアドラさんが行き店内のカメラの位置を教えてくれる。トイレに行くならとにかく下を向いて行くよう言われコンビニに入る。
虫眼鏡のような眼鏡を掛けた店員にトイレを貸してくれと下手くそな英語でお願いをしてトイレに行く。行って来いと言われたのは2回目だが…もしかしてと思い車に戻ると、来た道を戻ってローレンスの街を通過していく。
「もしかして店のカメラに映るためにトイレに行かせてます?」
「はい。映像を入手されても反対向きに進んでいると認識させるためです」
「どうしてその意図を教えてくれなかったんですか?トイレ行けるからいいけど」
「役目があると知れば緊張してしまうと思ったからです。利用しているつもりはありません。あなたはトイレが近いし我慢ができないようなので」
おれの膀胱事情を慮ってくれるのはありがたいが、ストレートに言われると恥ずかしいものがある。微笑まれながら「あらあら、もう出ちゃうの?うふふ」とか言われて喜ぶおじさんたちの気持ちが少しだけわかる気がする。
ローレンスの先は基本上り坂の林の道。ずっと林の道を走っていくとホニー・パスという街に出る。前にも見た、日本の地方都市の国道沿いのような風景。
アウトレットモールのような街並みの交差点を右折する。しばらく走っていると道の隣に線路が並走しているのが見えた。柵もなにもなく本当に道のすぐ隣に砂利を盛った上に線路がある。夜中だからか貨物も運行していないようで、ベルトンの街中の交差点で左折したので、直進する線路とはお別れになった。
ベルトンを過ぎて林の道を走り、アンダーソンの交差点で左折してUS-29に入る。
アーリントンを出てしばらく走っていたUS-29なので、お前生きてたのか!という気持ちになる。そしてUS-29は相変わらずの林の道だった。途中、林の切れ目に川があり、向こうにダムが見えた。この橋がジョージア州との境のだった。
サバンナ川という名前が付いているが、どう見ても湖だ。湖畔のような道を少し走り、農場地帯を抜けていくとアセンズという街で2回目の休憩になる。