結ぶと解く   作:ながずぼん

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第144話 余裕とデポ

 アセンズの北側に位置する外環を使ってぐるっと回り、西側へ抜ける道沿いのガソリンスタンドに着く。給油が済んだら隣のワッフルハウスへ。ダイナーに入るのは少し警戒してしまうが、アドラさんが平気そうにしているので大丈夫なのだろう。

 パンケーキを食べてから時間も経っているので、ワッフルハウスだけどバーガーのセットを注文する。サイドのポテトはフライドポテトじゃなくて、細切りのものを固めて焼いたようなやつだった。最初はいいけど食ってるうちに飽きるやつだった。

 

「いつも朝食はコンビニで済ませるのに珍しいですね。余裕があるんですか?」

 

「さっきの休憩した場所から東へ進んだようにヨハンソンがログを改竄しました。おそらく追跡者は300km以上東のコロンビアに向かうと思います。なので少し余裕があります」

 

「ヨハンソンのおかげで温かいものが食べられるんですね。彼に感謝しないと」

 

「ここまでは順調ですが、彼らがALPRのログに頼らず勘で動き始めると厄介です。こちらが彼らの位置を特定できればいいのですが」

 

 追う方も追われる方も姿が見えないのは心理的に消耗し続けるのだろう。

 バーガーセットを腹に納めたらさっさと移動することにする。余裕があるといってもわずかな時間だ。しっかり休むためには安全地帯まで移動するしかない。

 

 林の道であるUS-29を西へ進みローレンスビルのランプで316号の重複区間を外れる。そのまま進むと高速道路に合流してしまうからだ。市街地から外れたUS-29は安定の林の道で不意に開けた交差点で高速道路の下をくぐるとまた林の道になる。

 

 US-78との重複区間に入りしばらく走ってガソリンスタンドの交差点を左折してGA-46に入る。鉄道の下をくぐり高速の下をくぐって、林の住宅地を抜けると配送センター群が現れる。ここの一角がきょうの目的地らしい。とはいえ早朝からトレーラーがばんばん出入りしている。目撃情報とか大丈夫なのだろうか。

 巨大な倉庫のような配送拠点(デポ)の一角に、でかいプレハブのような倉庫があり、シャッターを開けて車ごと入る。車があと1,2台入るスペースと簡易な事務所がある。外から見た通りペラペラのプレハブみたいな建物でけっこうトレーラーの音が聞こえてくる。だけど逆にいままでみたいに静かすぎなくていいかもしれない。

 

「今夜の出発前にトラックストップでシャワーを浴びられます。なので今は我慢してください。トイレは事務所の裏にあります」

 

「ありがとうございます。前にも言ってましたけどトラックストップって?」

 

「トラッカーのためのドライブインです。食事やシャワー、宿泊もできますし、コインランドリーで洗濯もできます。給油施設や修理工場も併設しています」

 

「へえ、そんな施設があるんですね。でもシャワー中に襲撃されたりしませんか?」

 

「シャワールームは完全個室なので大丈夫だと思いますよ。心配なら一緒に入りましょうか?カップルや夫婦のドライバーは一緒に使っているみたいなので。ふふふ」

 

 おれやヨハンソンをからかうことに楽しみを覚えてしまったようなので「そうしましょう」と言いたいところだが「はい」と言われても困るので負け確。

 

「簡単な仕切りとカーテンがあるだけの一列に並んだシャワーブースをイメージしてただけですよ。個室なら安心なので一人で平気です」

 

 トラックストップの説明を聞きながら初日のように断熱マットレスを敷いて寝る場所を作った。また隣で寝ることになるけれど、冗談が飛び交うぐらいには慣れてきたのでキョドらない。靴を脱いで足を除菌シートで拭いて寝る態勢になる。

 

「きょうも運転おつかれさまでした。おやすみなさい」とアドラさんに背を向けて言うと、「ありがとうございます。おやすみなさい」と聞こえた。

 

―――――

 

 寝始めて3時間かそこらで目が覚めてしまった。隣に目をやるとアドラさんはまだ寝ている。思えば彼女の寝顔を見るのは初めてかもしれない。改めてすごく整った顔立ちをしているなと思う。目の長さなんかおれの倍ぐらいあるように思える。

 起こさないように抜け出て助手席へ回り、そっとドアを開けて車外に出る。

 トイレは事務所の裏にあるって言ってたけど…と事務所の中を覗くと出入口のドアがあった。鍵を開けて外に出るとすぐのところに簡易トイレがあったので用を足してすぐ事務所に戻り鍵を掛けた。誰にも見られていないはず。

 

 もう一度眠れるかなと思いつつ助手席のドアをそっと開けると毛布を蹴って剥いだと思わしきアドラさんがあられもない姿で寝ている。いくらなんでも無防備すぎるだろと毛布をかける。確かにツナギで寝るのは寝にくいかもと思い、おれもツナギを脱いで毛布に包まる。ちょっとひんやりしていて気持ちがいい。

 

 「どこに行っていたのですか?」不意に背中越しに話し掛けられた。

 

「目が覚めたのでトイレに行ってきました。まだもう少し寝ていてもいいですよね」

 

「はい。私もまだ寝ていようと思います。今夜も朝まで400kmほど走るので」

 

「ごめんね、アドラさん。いくら任務とはいえこんなこと予定になったのに」

 

「いいえ。あなたが能力でループさせなければ私は死んだままの世界が続いていました。私はそれを知っているので任務は関係なくあなたを守りたいと思っています」

 

「そうだとしてもありがとう。あれが何回でも使えればこんな窮屈な旅をしなくても済むんだけどね。やり方が全くわからないから困ったもんだよ」

 

 アドラさんはしばらく黙っていた。寝たのかもしれない。おれも寝ようと思った。

 瞼は重いけれど、なかなか眠れず何度か寝がえりを打っていると、起こしてしまったのか彼女が背中越しに話し掛けてきた。

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