結ぶと解く   作:ながずぼん

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第148話 作戦と変更

 ヨハンソンに『ぼくのかんがえたやっつけ作戦』の相談をすると、アドラさんが椅子から勢い良く立ち上がり大きく見開いた目でおれを見ている。

 まさか!という顔で。

 

「ふふふ。私はあなたにこの話をしたら、絶対にそちらを選ぶとアドラに言ったんですよ。だけど彼女は逃亡を続ける方を選ぶだろうと勝手に悩み始めましたけどね」

 

「てことは、もう作戦の手筈は整っているってこと?」

 

「概要は決まっていますが、アドラの覚悟と協力が必要です。彼女にもインカム渡してもらえますか?」

 

 ヨハンソンにそう言われて戸惑っているアドラさんにインカムを渡す。

 彼の立てた作戦の概要はこんな感じ。まず今夜22時にいつも通りに出発して南東のタラハシーの倉庫を目指す。追跡者はいまいるモントゴメリーの東のコロンバスにいるので、おれたちがUS-31を使って南西のモビールを目指しているように、奴らが把握しているナンバーのログを残す。コロンバス―モントゴメリー間は高速が繋がっており、モントゴメリーとモビールも繋がっているため、高速道路を使って先回りをするはず。

 高速道路のALPRで監視しつつ先読みで彼らが持っている携帯電話の基地局との接続情報が得られれば、かなり正確な位置を把握できる状況を作れるとのこと。

 

 こちらの罠や準備が整う時間を見越して、明日の昼過ぎにCIAの協力者を装ってタラハシーの倉庫へ誘導する。モビールからタラハシーまでは高速道路を使って3時間程度なので、おれたちは倉庫で昼まで寝て3時間で支度して迎撃することになる。

 

「ひとつ質問なんだけど、どうしてタラハシーまで移動しなきゃいけないの?ここで迎撃すればよくないか?」

 

「バックアップですよ。タラハシーまで行けば飛行機でも船でもメキシコまで運んでもらう方法はいくらでもあります。モントゴメリーで空振ったり迎撃に失敗したらその後が面倒ですからね。あくまでもあなたを国外に逃がすための作戦ですから」

 

 なるほどな。本当に賢い奴は賭けに出ているようで逃げ道があるのかと納得した。

 

「ハナダさん、ヨハンソン、私はどう言えばいいのかわかりません。二人を巻き込んでしまっています。これは正しいことなのでしょうか…」

 

「FBIのおじさんがヨハンソンに情報をくれた時点で、おれたちの行き先は決まったんだと思う。十字路があるとするじゃないですか。左からおれ、右からヨハンソン、下からアドラさん、それぞれの方向からやってきたけど三人で上に向かうんですよ。おれもヨハンソンもちょうどそこで上に行こうと思ってたんです」

 

 その先の交差点でそれぞれが別れることになっていても、いまはそんな感じ。

 おれは帰るため、アドラさんは決着をつけるため、ヨハンソンは…よくわからないけれど、きっと彼も彼自身のためにその道を辿るのだろう。

 

 上手いこと言ったなと悦に浸っていると、不意にアドラさんにハグされた。

 

「もしも私が狂ってしまったら、スケベして止めてくださいね」

 

 そう耳元で囁かれたのだが、すぐにヨハンソンが「おいアドラ、いますぐ離れろ!」と見えているかのようなことを言った。

 彼女の暴走を止めるべく乳房や尻を揉む。これが本当の『ラッキースケベ』なんじゃないだろうか。ヨハンソンの遠吠えを聞きながらそんなことを思った。

 

―――――

 

 深夜2時半。おれとアドラさんはソファに座り、暖炉の火を眺めながら珈琲を飲んでいる。アドラさんの向こうには顔に深い皺が刻まれた大柄なおじさんがいて、心配そうな表情でアドラさんを見つめている。

 

―――――

 

 モントゴメリーを出発したおれたちはUS-231で南下しオザークのコンビニで休憩を挟み、フロリダ州のコットンデールでUS-90に入り東へ向かっていた。しばらく走ってクインシーまでもう少しというところのガソリンスタンドに立ち寄り給油と2回目の休憩をしているとき、アドラさんがヨハンソンに連絡をして何かを謝っていた。

 通話を切る前「センキュー」と言っていたので話はついたのだと思い、どうしたのか尋ねると彼女は予定を変更して今夜の寝る場所を変えると言った。

 「ふぇ?」と素っ頓狂な声が出てしまう。スケベしろって言われたし。

 

「叔父が救った農場がこの近くなのです。今夜はそこに泊めてもらいます」

 

 だそうだ。おればかみたいじゃん。なにが「ふぇ?」だよ。頭お花畑か。

 

 US-90から農道に入り少し走ったところにめちゃくちゃ広い農場があり、そこには大きさを錯覚してしまうぽつんとした一軒家があった。近付くとめちゃデカい屋敷。

 すっかり灯りは消えていて、こんな時間に迷惑じゃなかろうかと思いつつ車で家の前までいくと、ガウンを着た大柄なおじさんがショットガンを携えて家から出てきた。

 思わず「まじか!」とでかい声が出てしまう。

 アドラさんはゆっくり車から降りるとおじさんの元へ歩み寄る。おじさんは茫然としていたが手の届くところまでアドラさんが近づくとショットガンを落としてがしっと彼女を抱きしめた。おい、暴発大丈夫か。

 

―――――

 

 二人が感動の再会を果たした後、おれもおじさんに家の中に招かれる。

 おじさんの奥さん、おじさんの次男、その奥さんであるアドラさんの従姉妹、まるでアイドルの握手会のように、アドラさんの叔父さん大活躍のときの関係者が代わる代わる出てきてアドラさんと抱き合っていた。彼らはすぐに部屋に戻っていった。

 

 おじさんが珈琲を淹れてくれた。アドラさんは英語でおじさんになにか説明をしている。おじさんの顔は彫刻刀で掘ったように皺が深いので機嫌が悪いようにしか見えないのだけど、目だけは憂うような眼差しを向けていて心配しているのが伝わる。

 一通り話を聞き終えると、おじさんが覗き込むようにおれを見て口を開く。

 

『頼む。どうか彼女を守ってあげて欲しい。儂の代わりに、どうか!』

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