結ぶと解く   作:ながずぼん

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第159話 帰宅と変化

 中央道を4時間ほどバスに揺られ、終点の駅前で降りる。

 紙袋を抱えて部屋に戻る。完全に冷え切っていて外と変わらないぐらい寒い。

 エアコンの暖房を付けつつ部屋を眺めると、出発前とぜんぜん変わっていない。

 あいつが本当にここを使っていたのか疑わしいぐらいに出た時そのままだ。

 

 ヒューストンのラブホみたいなモーテル以来風呂に入っていなかったので、とりあえずシャワーを浴びた。寒かったし。

 適当な服に着替えようと思ったら夏の服しかなかった。そりゃそうだ冬服は全部アメリカに持って行って捨てられてしまっていたのだから。

 とりあえず通りにある古着屋の営業時間を調べるとまだ間に合いそうだったので、ボーイの格好の上からムスカのコート着て急いで歩く。

 

 ―――――

 

 古着屋でジーンズを2本とセーター2枚、パーカーも2枚、あとパンダの刺繍が入ったスカジャンが安かったのでそれを買い込んで部屋に戻った。

 暖房を点けっぱなしにしておいたおかげで部屋も温まってきたし、とりあえず買ってきた服に着替える。堂島のシャツと下着類と一緒に洗濯機に放り込んだ。

 スーツは明日クリーニングに出そう。

 

 洗濯物を干し終わるとちょうどいい時間だったので、パンダのスカジャンを着て店に行く。部屋の鍵を閉めて階段を降りて行くと、さっきは慌てていて気にならなかったけれど、下の喫茶店が閉まったままだと思い出した。

 家賃がかかっている以上、遊ばせておくわけにもいかない。

 とにかく開店準備を始めないとと思った。まずは食品管理責任者講習からだ。

 

 おれが作れるランチメニューをつらつら考えながら店まで歩く。

 パスタは作る度に味が変わるし、かといってレトルトソースは使いたくないし。

 サンドイッチみたいなのはいけそうな気がするけど。需要あるのか?

 ていうか、マスターのガレットをどうにか継承できないものかな。

 

 もう一度転移した癌をとりあえず除去したら、作り方を教えてくれないかな。

 具の作り方もだけど、あの生地の感じはどうやってるんだろうな。

 焼きながら火加減を調節しているのだろうか、外側がパリッとしてる割に食べるとモチモチしているんだよなあ。

 

 そういえば昼にうなぎを食べてから何も食べてないことを思い出した。

 店でチャームの残りをもらって凌いで、クスメギと話するときに何か食べよう。

 そうこうしているうちに店の前に着いた。

 

 最後の片付けだけでも手伝えばいいかと思って裏から店に入る。

 店長の姿はなく、シンちゃんパイセンが製氷機の氷をアイスペールに移しつつ「あっ、お久しぶりっす」と声を掛けてくれた。相変わらず忙しいみたいだ。

 小窓から店の中を覗くといつもの光景が見える。

 7割ほど埋まったボックス席から客やオンナのコたちの笑う声が聞こえてくる。

 クスメギが足早に席を渡ってオンナのコたちに声を掛けて回っていた。

 

 シンクに山盛りになったグラスや灰皿を見て、パイセンに「これ洗っておきますね」と言うと「ハナさんまじ天使」と喜んでくれた。

 クスメギが店長の真似事をしているってことは裏は2人で回してんのか?

 ひとまずグラスは片付けた。次は灰皿だと思っていたところへユイさんが来る。

 

「あっ、ハナさん来てたんですか?ていうか灰皿もらえますか?」

 

「はい。長いことお休みしててすみません。いま洗っちゃうんで少し待ってて」

 

 ひとまず3つ洗ってふきんで拭いてユイさんに渡す。

 

「送りも今日からですか?」と訊かれ「いや、明日から?かな?」と返事をすると「そうなんですか、メイちゃん寂しがってましたよー」と言われる。

 コンビニで愚痴る相手がいないからだろう。クスメギは付き合わなさそうだし。

 残りの灰皿を洗い終わる頃、メイさんが裏に来る。

 

「ハナちゃん、おかえり。きょうは送りないの?」

 

「うん。店が終わったらクスメギと飯に行くから。あいつの送迎はどう?」

 

「ぜんぜんつまんなーい。わたしハナちゃんに送ってもらいたい」

 

「あはは。明日からちゃんと働くから、そしたら夜食会しようか」

 

「うん、わかった。あとね、変なオンナ入ったよ。わたしあいつ嫌い」

 

 不穏な一言を残してメイさんは行ってしまった。顔を見に来ただけなのか?

 

 ボトル棚の整理をしているパイセンに「新しいオンナのコが入ったんですか?」と訊ねると「ああ、カスミさんっすね。アオイさんの穴埋めるために店長が東京から引っ張って来たコですよ」とのこと。稼ぎが読める人材ということなのかな。

 「どの人?」とパイセンを小窓に呼んで訊くと「あそこのボックスの白いコっす」と教えてくれた。おれは苦手なタイプの顔をしている。でも客は盛り上がっている。

「なんでもアリらしいっすよ」とパイセンがぼそっと教えてくれる。

 そういうのはたいがい質の悪い噂なんだがなと思いつつも、この店にそんな噂を流しそうなのは一人心当たりがある。後でクスメギにどうなのか聞いてみよう。

 

 チャームの賞味期限を確認しつつパイセンに店の近況を尋ねると、店長はたまにアオイさんの店の手伝いに行っているらしい。

 開店時から働いていた業界経験者のボーイが店の金に手を付けたのでクビにしたのだが、その後に店を回せる人間が確保できず、慌てて採用した未経験ボーイの教育係を店長がやっているそうだ。

 

 経営は別々の店なのに店長を派遣するってどういうことなんだろう。

 外注費としてアオイさんが店長が働いた分を店に納めるってことなのかな。

 もしかしてこういう業界ではよくある話だったりするのか?

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